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少し待つと、セルガに先導されてエルミラがやってきた。
白いシャツに、落ち着いた赤色の膝丈巻きスカート。黒いストッキングにヒールの低いダークブラウンの革靴を履いている姿は、鮮やかな赤いドレスを着ていたときよりも優しげな印象だし、落ち着いて見える。さすがシエラのコーデは間違いない。
そもそも栗色の髪をおろした状態で赤いドレスというのがあまり合っていなかったのだ。髪色と髪型に合わせるなら落ち着いた暖色か、明るいパステルカラーじゃないだろうか。
今は髪をおろしたままだが、アップにしても可愛いと思う。
「・・・おまたせしましたわ」
シエラの着せ替えの洗礼にあったのだ、疲れた表情はそのせいだろう。自分が着せ替えされたときのことを思い出して、ついくすりと笑ってしまう。
「お母様の着せ替えは通過儀礼みたいなものですから・・・ね、レイ」
辛そうな顔でただコクコクと頷くレイ。あまりの恐怖に声も出ないらしい。
レイが喋っているところを未だ見ていないので、ここで変に驚かれるよりはよかったかもしれない。
エルミラはレイのその様子と、そのやたらと可愛らしい服装を見て色々と悟ってくれたようだ。
「とてもよくお似合いだと思います」
「そんな・・・貴族家の子女としてこのような・・・」
「正装が必要なとき以外は似合う服か、好きな服を着ればいいんじゃありません?」
「で、でも・・・っ」
「今の格好、お嫌いでした?」
「・・・そういうわけでは、ありませんけれど」
俯いて顔を赤らめる姿は、年上ながら可愛らしい。
しかしなるほど、貴族の娘という固定観念があの服装をさせていたのか・・・
「そういえば、エルミラ様は赤色がお好きなんですか?」
「?
いえ、別にそういうわけではありませんわ」
私の質問の意図がわからなかったようだ。とすると、可愛いもの好きか・・・
「左手をお借りしても?」
言われるがままに、エルミラは私に左手を差し出した。すらりと伸びる白くて細い指。爪も綺麗に整えられている。女子力高い。
しかし、きちんと手入れしていないと維持が難しいだろうと想像できる。
「な、なにかしら?」
「あ、いえ、綺麗な指だなと」
うっかりまじまじと見つめてしまっていた。目的は小指の指輪のサイズである。
「苦労を知らない手だとおっしゃりたいんですの?」
あら、なにか地雷を踏んでしまったのだろうか。
「いえ、きちんと気を遣って手入れなさっているのが見ただけでわかります。
女性らしい素敵な手だと思いますよ」
素直に褒めて、ささっとサイズを測る。んー、可愛らしいもの・・・指が細いから、かなり細めでも似合いそう。
プラチナの塊を取り出して、私は椅子に深く腰掛けた。サイズも小さいしデザインも華奢なものを作るつもりだし、材料は少しでいい。魔力を通して端の方を少し千切りとるようにして分けてから制作に取り掛かる。
エイドの奥様になるのだし、クラウンをデザインして・・・細く、糸のように。
うん。会心の出来!
気に入ってもらえなかったら自分で使おう。
エルミラは作業の様子は真剣な目で見つめていたが、私が顔を上げて微笑むと怪訝そうな顔を浮かべた。作業が細かすぎて角度的によく見えなかっただろう。
つまり、デザインもまだ見られていないということ。
さて、果たして気に入ってもらえるかしら。
「エルミラ様、もう一度左手をお借りできますか?」
「な、なんなのかしらさっきから!」
そう言いつつも素直に左手を出してくれる。なんとなく、この人のことがわかってきたような気がする。
「気に入らなかったら、外してくださいね」
左手の小指に、先程作ったクラウンのピンキーリングを嵌めて、手を離した。
緊張しないのは、多分印象がこれ以上悪くならないと思ってるからだろうなぁ。エルミラから見た私の好感度は底辺に近い。これ以上下がることはないのだ。
「・・・これ、今お作りになったの?
わたくしに・・・?」
私は更ににっこりと笑みを深めた。
「可愛らしいわね・・・」
右手を頬に当てて、左手を眺めるエルミラ。つけてくれるかどうかはわからないが、気に入ってはくれた、と思っておこう。
「わたくしには似合わないかもしれないですけれど・・・
あ、ありがたく頂戴しますわっ」
顔を赤らめてそう言ってくれたエルミラは、今日の夕食の席でも、そのリングをつけてくれていた。




