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待望の実験タイムだ。
屋敷に戻ると、私は一度自室で動きやすい服に着替えてから、購入した全ての物を持っていそいそと工房へと移動した。
いや、移動しようとした。
「今度はどちらへ?」
後ろから声をかけられて、答えるべきか少し迷った。
いや、努力努力!そう自分に言い聞かせて、振り返る。
「別の場所に、小さな作業場があるんです」
「ふぅん・・・ご一緒しても?」
「んー・・・」
エルミラを上から下まで眺めてから、私は言った。
「動きやすい服と靴、お持ちです?」
私はエルミラと一緒に、シエラの部屋をノックした。
「どうぞ〜」
シエラの返事は相変わらずほんわかする。
「お母様、服と靴を貸してください!」
エルミラは足元まであるスカートを履いていた。靴もヒールの高めの華奢なものだ。そして、そういう靴しか持っていなかった。
当然靴に合わせて服もドレスだったり、ボリュームのあるワンピースだったり。
靴だけ変えるとコーディネート的にいまいちだったので、まとめて借りてしまったほうがいいように思ったのだ。
ちなみに私の服が入るわけがない。大人だもの。胸とかお尻とか身長とかね。
そうまでして着替えが必要な理由は、工房が訓練所の一角にあるから。
下が露出した地面なので、ロングスカートでは汚れてしまうかも知れないし、ハイヒールなんて確実に汚れる。転ぶかも知れないしちょっと危ない。
「あらあら。腕がなるわね?」
エルミラ、ご愁傷さまです・・・
時間がかかりそうだったので、私は先に工房へ向かい、着替えが終わり次第セルガがエルミラを案内してくれることになった。
・・・今日の着せ替えタイムは何時間かかるかしら。
エルミラは美人なのにイマイチ似合わない服装をしているので、シエラとしてはやりがいを感じているのではないだろうか。どんなコーデになるか楽しみではある。
それはさておき、今のうちにアイテムボックスの実験である。未だ打ち解けていないエルミラにアイテムボックスのことを明かすつもりはないので、彼女が来たらアクセサリーとか、まあ当たり障りのないものを適当に作ろうと思う。
まずはブレスレットそのものを買ったやつ。デザインでちょっと気に入らないところは直して、サイズを私の腕にピッタリと合わせる。
うん、ここまでは順調。
デザイン的に厚みがある部分をさらに外側に広げ、空間を作る。このわずかな隙間が収納になる予定だ。そして、ブレスレットの内側に霊石を埋め込む溝を作った。霊石に厚みがあるので、7割位埋まる程度の深めの溝だ。
うん、これでブレスレットの加工は出来上がり。
霊石は昨日の反省を踏まえて、出し入れの命令は頭で念じるだけに変更。それ以外の機能は保留、そのまま流用することにする。
張り切って付与を終えた霊石をブレスレットに埋め込み、魔導具完成!
左腕に装着してみる。
ジャストサイズにした分留具をつけるのが若干大変だが、慣れればもう少し楽につけられるだろう。腕に霊石の丸みを帯びたフォルムを感じるので、触れるという点もクリア。
さて。
今回はそもそもブレスレットには収納空間がほぼないので、小さいもので敢えて試す必要はない。訓練用の木剣を左手に持って念じる。
『入れ』
木剣はその場から消えた。・・・成功だ!
『出ろ』
木剣を思い浮かべて念じると、からんと音を立てて地面に剣が落ちる。
欲を言いすぎかも知れないが、できれば手の中に出現して欲しかった・・・
いや、試してみる価値はある。
木剣を拾い上げてもう一度収納して、『左手に出ろ』と念じてみる。
すると・・・広げた左手の辺りに剣が現れ、そして落下した。
成功・・・!
ただ、外に出したタイミングでうまくキャッチしないといけない。それは私の努力次第ではあるのだけど。
うん、完璧と言ってもいいんじゃないだろうか!
あとはどれだけ詰め込めるかを検証する必要がある。屋敷にあるものを片っ端から放り込んでみるしかないだろうか。水を入れるのがわかりやすいけれど、仮に思った以上に大量に収納できてしまったら、出すときに大惨事になってしまう。
何もないただただ広い土地があれば、地面に手をついて限界まで一気に収納、ということもできるだろうか。うん、それが現実的かも。いや、足元の土が全部収納されてしまったら・・・落下だ。危ない。
検証するのもなかなか難しいものだ。
でも、これが十分実用範囲ならば、あの大きな霊石は必要ないような気がする。収納量を見ないとなんとも言えないけれど、1cm級の霊石でいいなら指輪のほうが使い勝手がいいのだ。なにより着脱しやすい。7cmもある霊石では腕輪にするにしてもかなり大ぶりの魔導具になってしまう。つまりは目立つし、合わせる服を選ぶし、重くなるのだ。
さて、そろそろエルミラも来るだろうか。
検証は後に回して、まずはエルミラの服装を楽しみに待つことにしよう。




