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これまで押し殺して来た自分が許容され、私は泣きながらいろんなことを、初めて両親に話していた。
生まれてすぐに自分が赤ちゃんになっているのに気づいて戸惑ったこと。
赤ちゃんの身体を乗っ取ったように思っていたこと。
いつかティエラの、本来の意識が目覚めるかもと思っていたこと。
だからこそ、話したりするのは奏ではなく、ティエラであるべきだと思って、最低限しか話さないでいたこと。
それらをシエラとヴォイドはひとつひとつ頷きながら聞いてくれて。
最後には、抱きしめてくれた。
これからは、たくさん話そう。
精霊に記憶のことをバラされたときはどうなるかと思ったけれど。
肩に乗る精霊を見ると、得意げな顔をしていた。
「ありがとう」
口に出すと、精霊はただ笑みを深めるのだった。
「さて・・・いくつか話し合っておく必要があるな」
ヴォイドはそう言って精霊をじっと見つめる。
「精霊どの、お名前はありますか?」
「ないわね!カナデがつけてくれればいいわ!」
いきなりの無茶振りである。
「レイ、っていうのはどうかな?」
地球では光を意味する言葉・・・だったはずだ。
気に入ってもらえるか不安だったが、精霊はーレイは、いいじゃない、と笑ってくれた。
「ではレイどの。
この国の転生者の精霊は全て見てきたつもりだが、レイどののように言葉を交わす精霊は見たことがないのだが」
アルディア国にも数人いるという転生者。その全ての精霊が具現化しているそうだが、彼らは身振り手振りで簡単な意思表示はするものの、言葉を話すことはないらしい。
「そうね。会話できるほど力を発揮できるのはカナデだからよ。
同じくらい過去の記憶を持っていれば可能だろうけど、今はカナデしかいないと思うわ。今まで聞いたこともないしね」
ふむ、とヴォイドが何かを思案する。
「レイどのが会話ができることを、隠したほうがよいのかもしれないな」
これまで言葉を持たないと思われていた精霊と会話ができるということは、それほど重大なことなのだ。
この世界の成り立ちや精霊の力の仕組みを直接精霊から聞けるかもしれないし、創世記の伝承の真偽や世界樹のこと、解明されていないあらゆることがレイの言葉一つで解決してしまう可能性だってある。
精霊の力を奪うなんてことはできないので、私を殺してレイを手に入れようという者はいないだろうけれど、精霊の力を考慮に入れずとも、言葉を話すというただそれだけで、レイには十二分すぎるほどの価値がある。
ヴォイドの心配も尤もだ。
「・・・面倒くさいわ!」
自分の価値はわかっているのだろうけれど、数時間話しただけでも、レイの性格からしてそういうのは苦手だろうなということはわかる。
しかし、だからといってじゃあしょうがないね、というわけにもいかないのだ。
「場所は弁えるわ。
まぁ、あたしを狙っても無駄だと思うくらいにカナデが強くなればいい話よ!
力の使い方は教えてあげるし」
自分のことを隠すのは面倒だが、カナデに指導するのは面倒ではないらしい。
とはいえ、精霊から直接指導がもらえるというのはありがたい話であるし、無闇矢鱈に喋れることを喧伝するつもりもないようだし、なんとかなりそうな気もする。
・・・この6年、屋敷からはほとんど出ていないのだし、学校に通い始めるまでは同様だろう。
ヴォイドも同じように考えたのか、
「1年間で、ティエラはレイどのの力を扱えるようになるかどうか・・・
その成果次第で結論を出そう」
こうして、レイの指導によるフォルティエラ修行計画が開始されることになった。