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ヴォイドの指輪用の原石に魔力を込め始めてから2週間。以前よりも頻繁に魔力を込める作業をしていたおかげか、綺麗な星型の光をともす霊石が無事に完成した。時間はかかったが、大振りの石に輝きが宿るとその存在感は格段に増した。これならかなり重厚なシルバーアクセにつけてもきっと見劣りしない。
銀のインゴットは以前用意した物がそのまま使わずに残っていたので、今回は材料の調達に走り回る必要もない。
第三訓練所に素材と霊石を持って入る。訓練所の一角は完全に私の工房として独立させたので使い放題である。水道の魔導具の改良を行うという大義名分があったので許可もすぐ降りて、それ以降はここで色々なものを作るべく、物づくりの快適空間を追求している。
広い机、細かなものが整理可能な引き出し、疲れにくい椅子などなど。
そのプチ工房で、私はまたデザインに悩んでいた。
ヴォイドの大きくてゴツゴツした手に馴染む、重厚な指輪。石をはめる台座部分に厚みを持たせて、ちょっとぼってりとした感じにして・・・滑らかにしすぎず、かといって何かに引っかかったりはしないように。
魔力の鋳型で成形した後、布で丁寧に磨いていく。シルバーは手入れが必要なのが難点だなぁ・・・まあ石が黒いから、多少色が変わってしまっても極端に見栄えが悪くなることはないだろう。
そうして完成した指輪に、障壁を付与した霊石をセット。ちなみに付与のあとは軽い目眩があって、マジックボックス作りに若干の不安を感じた。
指輪が淡く光って、魔導具の完成を告げる。ザルツの指輪と同じテストをしてみたが、炎の火力を上げても熱を感じなかった。やはり霊石の大きさは伊達ではない。
早速今夜、ヴォイドにプレゼントしよう。護身用の魔導具なので、早いほうがいい。使う機会は無いほうがいいんだけれどね。
屋敷に戻って、夕食の時間。私は革製の小さな巾着袋に入れた指輪をポケットに忍ばせて席についた。
いつも通り、家族が揃っての夕食だ。
「騎士団から連絡が入った」
食事を始めて間もなく、ヴォイドが言う。
「六の月に騎士団内での配置変更があるそうでな、エイドが休暇に入る予定だ」
エイド、つまり国中を巡っている長兄だ。危険な任務を率先して引き受けていたそうだが、騎士団でもそれぞれ勤務地のような担当区画みたいなものがある。それをまたいで国内全域をまわる特殊部隊的な存在は名誉あるものではあるのだけど、当然危険が多く移動に伴う負担も多い。その負担を軽減するため、交代で半年程度の長期休暇を数年に一回取ることになっているらしい。
六の月での交代の際に、エイドに休暇の順番が回ってくるというわけだ。
ほとんど話したことのない長兄だが、幼い私の顔を見に度々訪れてくれていたことはしっかりと覚えている。幸い休暇はながいのだ、その間にエイドにもなにか魔導具を作ろう。
「兄上は休暇中に挙式を?」
ジルが尋ねる。そうだ、そういえばその問題があったのだ。
「まだそうと決まったわけではないが・・・
そうなる可能性は高いな」
「そろそろ真剣に考えなくてはいけない年齢だしねぇ」
ぽやぽやとしたシエラの言葉は確かにその通りなのだ。
もう21、早婚のこの世界では充分遅い部類に入ってしまう。
うーん、挙式があるかもしれないのならば、新生活で使う家電的な魔導具のほうが実用的だろうか。いやでも、家事をするのは主に屋敷の使用人になるのだろうしそこは考えなくてもいいのかな。
奥様になる方がどんな方かも知らないし、それはエイドが帰ってきてから考えることにしよう。今はそれよりも、ヴォイドへの贈り物のことだ。
「お父様」
ザルツと違って、ヴォイドは絶対に喜んでくれるという確信があった。なんせ初めての娘可愛い病はいまだ続いているのだから。
「家族皆の分を少しずつ作るつもりなんですが、お父様の分が出来たので・・・
受け取ってもらえますか?」
そう言って、私は革の袋を差し出した。
「私にか?開けてもよいのか?」
困惑しながらも受け取ってくれたヴォイドににこやかに頷くと、ヴォイドは袋の紐を緩めて、中から指輪を取り出して目を丸くした。
「初めて見る宝石だ。
ティエラが作ってくれたのか?」
もう一度頷く。
「はは・・・見ろシエラ!
娘の手作りの贈り物だぞ!」
そう言ってシエラに見せびらかすようにしてはしゃぐヴォイドには、言えない。
既にザルツに一つプレゼントして、二番目の作品だなんてことは、口が裂けても言えない。
「親指用に作ったんです。
石に触れて起動すれば前方に障壁が」
「何?・・・これは霊石なのか?」
驚かせたくて、霊石の変化のことはシエラにも教えていなかった。更についでに、以前中途半端に測定した霊石の出力に関するデータについても後で渡そうと思ってレポートにしてある。
「大好きなお父様の優しい手を思い浮かべて作りました。
・・・気に入っていただけましたか・・・?」
やっぱりちょっと不安になって聞いてみる。
返ってきた答えは、やっぱり予想通りのものだったけれど。
「勿論だとも!」




