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屋台を巡りながらだいぶ南のほうまで歩いてしまっていたが、視察団の集合場所は広場だ。ある程度王都の中心部まで戻って、そこからは歩きながら喫茶店を探そうというざっくりとした計画を立てて大通りを北上していく。
広場が少し遠くに見える辺りまで歩いたところで喫茶店を無事発見。
テーブルに着くと、心地よい疲労感が押し寄せる。
「結構歩きましたね」
「ええ、とても楽しかったです」
注文した紅茶が運ばれてくる。湯気を立てる紅茶を一口。うん、おいしい。
そうして一息つくと、ザルツがカバンから小さな箱を取り出した。
「ティエラ様、手を貸していただけます?」
あいていた左手を差し出す。
ザルツが箱から取り出したのは小さな指輪。それを小指にはめてくれた。
「本当はちゃんとしたのを用意したいんですが、まだ公表できませんから」
そう言って少し照れたように笑う。
左手にはめられたピンキーリングは、小さな赤い宝石のついた、華奢で可愛らしいものだった。
「ありがとうございます、大切にします」
先を越されてしまったけれど、私もプレゼントを渡そう。どう言い出せばいいかわからないでいたので、今がチャンスだ。
丸いバッグから、私もまた小さなケースを取り出した。自作した物だから、余計緊張する。趣味じゃなかったらどうしよう。センス無いと思われたらどうしよう。
まあ、でもなるようにしかならない!
ケースのまま、それを机の上に置いてザルツの前まで押し込む。緊張して顔が上げられない。
「僕に、ですか?」
「はい、あの、でも、気に入ってもらえるか自信がなくて・・・」
「開けてもいいですか?」
「はい、勿論です!」
ケースを持ち上げて、開く様子が見える。恐る恐る顔を上げて、ザルツの顔色をうかがってみる。ザルツは驚いたような顔をして、ケースの中の指輪をまじまじと見つめていた。
「・・・頂いていいんですか?」
「貰って頂ければ、嬉しい、です」
ザルツはケースから指輪を取り出すと、ごくごく自然に、左の薬指にはめてくれた。
「きれいな宝石ですね、デザインも素敵です。
それにしても、こんな綺麗な宝石があるんですねぇ・・・」
その言葉にほっとして、息を吐き出す。緊張して無意識に息を止めていたようで、ちょっと息苦しい。
「それ、魔導具なんです」
「え?」
「その宝石、あの霊石なんです。魔力を込めつづけたら、そうなって。
すごく綺麗だったから、アクセサリーにしたんです」
「・・・ってことは、これ。
ティエラ様が作ってくださったんですか!?」
「はい、ちょっと頑張ってみました」
「・・・・・・」
沈黙がつらい。やっぱり気に入らなかっただろうか。
自信のなさから自然と顔が下に向いてしまう。
「えぇと、なんていうか・・・」
目が潤んで涙が滲んでくる。慣れないことするんじゃなかった・・・
「嬉しすぎて、言葉が、見つかりません・・・」
顔を上げて、そう呟いたザルツを見ると、彼は顔を真っ赤にして横を向いてしまっていた。
「よかったぁ・・・」
どうやら本当に気に入ってもらえたみたいで、安心しきった私の目からは滲んでいた涙が少しこぼれてしまう。
作ってよかった。頑張ってよかった。
少し冷めてしまった紅茶をまた一口。
それから少し魔導具談義に花を咲かせた後、広場で視察団と合流した彼はトリスへと帰っていった。
一方の私は、広場で待ってくれていた馬車に乗って王宮へ。屋敷に戻ると、シエラとセルガが期待に満ちた目で私を見つめてきたので、それには満面の笑みを返しておいた。
五の月に入ってすぐ、私は正式に水道の魔導具の権利をアルディアに譲渡した。それと同時に製法などをまとめた書類を作成し、対価として受け取ったのが金貨200枚。およそ一億円ほどの価値になる。
あまりの大金に受取を拒もうとしたが、これでも安い方だと強引に押し付けられた。7歳児が持ってていい額ではないと思う。
そのおかげで、セルガの案内で訪れた宝石商の店では思う存分買い物ができた。ヴォイドの指輪を作るのに1.5cmほどの楕円形の原石を。マジックボックスの作成のために直径7cmほどのやはり楕円形の原石を購入して、その2つだけで金貨2枚が私の元から去っていった。シエラとジルの分はまだ悩み中なのだが、1cmほどの原石を多めに購入したので何かしら作れるとは思う。ただ、やっぱりシエラに黒はイメージじゃないんだよなぁ。
購入した原石を全てザルツに渡した霊石のような状態にするまでは、恐らく1ヶ月以上かかると思う。大きな原石に魔力を込めるのは初めてだし、どれだけの時間が必要か未知数だが、ヴォイドの指輪は早く仕上げたいものだ。誰かが喜ぶ顔を想像するのはとても楽しい。
完成した後のことを考えながら、私は原石に魔力を流し続けた。




