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「セルガ。その場合、素材はシルバーではちょっとダメじゃないです?」
「確かに、理想はプラチナでしょう」
「銀のインゴットしか買ってないのですけど。
そもそも自分用を作るつもりでしたし・・・」
「お嬢様」
真っ直ぐに私の目をみて、セルガはこう続けた。
「1時間、お待ちください」
1時間後、セルガはプラチナの塊を持って再び部屋を訪れた。銀に比べて高価なものだ、魔導具の買い取り金額からしっかり差し引いてもらうように言ってからそれを受け取った。
さて、時間はあまりない。張り切って作るとしましょうか。
もはや半分私の工房と化した第三訓練所に向かう。
土魔法を使った成形は真鍮と同じで、魔力を鋳型に思い描いたデザインの形にして、それを微調整する方法で簡単に加工できた。しかし、蛇口を作るのと違って、デザインをああでもないこうでもないといじったり表面を滑らかにしたりするのに時間を取られ、指輪の形が出来上がった頃にはそれなりの時間が過ぎていた。今回は成形の段階で霊石を嵌め込む爪を作ってあるので、あとは付与して嵌め込めば完成だ。
思い浮かべるのは、あの旅で使ったような破壊不可能な障壁。これが魔導具になったときどれだけの強度になるのかは、完成してから試してみるしか無い。
障壁の形状は、前面にのみ展開するものにする。ドーム状にして強度が落ちることを懸念した結果である。
中央にスターの入った霊石に付与を行うと、魔力を持っていかれる感覚が今までの比ではない。急激に吸い取られて、体に疲労感を覚えるほどだ。出力が強くなる分必要な魔力も相応に高くなるということなのだろう。これが魔導具職人が少ない理由に違いなかった。魔力の弱い人がこれをすれば、きっと倒れてしまう。
指輪に嵌め込み、淡い光が出るのを確認する。うん、問題なさそう。
自分の親指にはめてみる。デザインは・・・私好みである、だって私が作ったんだもの。気に入ってもらえるかどうかはわからない。見た目の印象は華奢にならないように少し太めの指輪だが、角を残して薄くすることでエレガントに見える・・・ように作ったつもりだ。
黒い霊石に触れて、障壁を確認する。うん、障壁の範囲は大人の男性でもしっかりカバーできるだろう。
問題は、強度だ。いざ実験開始。
指輪に触れて展開した障壁の向こう側に、炎を発現させる。徐々に温度を上げて、炎が青くなった頃に若干の熱量を顔に感じた。まあ、許容範囲だろう。
次に氷の矢を生成して、ぶつけてみる。問題なし。もう少し大きな、尖った礫にしてみる。・・・問題なし。
同様に岩の礫をぶつけたり、突風を起こしてみたり、訓練用に置いてあった剣で殴りつけてみたりしたけれど、障壁が割れることはなかった。
納得のいく出来栄えと言えるだろう。
空間転移で自室に戻って指輪を外したところで、私は再び重大なミスに気づいた。
・・・指輪を入れるケースがない。
裸のまま渡すのは難だし、巾着袋では格好がつかない。
こればかりは魔法でどうにかできることではなかった。
悩んだ挙句私は、シエラを頼った。シエラなら指輪も持っているし、そのケースを1つ譲ってもらおうという作戦である。
事情を説明したらシエラは快くケースを譲ってくれた。念の為、ヴォイドのはもっと大きな霊石を用意してから作りたいので黙っていて欲しい、とお願いしたが、それも二つ返事で了承してくれた。シエラの部屋を出るときに、明日のコーディネートは任せてね、と言われたのが、若干脅しのように感じられたのは気のせいだと思うことにしよう。
素材を買いに行ったりデザインに悩んだり、忙しい一日だった。
プレゼントを自作するなんて、私にとって初めてのこと。気に入ってもらえるだろうか。
アルの日。
今はシエラが私の部屋にいる。クローゼットを全開にして、様々な服が既にベッドの上に散乱しているが、今日の服装は未だ決まらない。
「うーん、やっぱりワンピースかしら」
たまには私も主張してみようか、となんとなく思う。いつもただきせかえ人形にされているだけで、こういうのが好きとか、そんな話をしたことがなかったのだ。
「私、このワンピースが好きです」
そう言って私が示したのは、Aラインの膝上丈キャミワンピ。
「暗めの色なので春らしくないかもしれないですけど」
ネイビーのそのワンピースは、裾の部分にだけレースがあしらわれていて、インナーを着ても良し上着を羽織っても良し。応用は効きやすいと思うんだ。
「そのワンピースなら、少し華やかなインナーを合わせるのがいいかしら。
これなんてどう?」
シエラが合わせたインナーはタイトなシルエットで袖全体がレースになった白いブラウス。
「着てみてもいいですか?」
「勿論よ!」
合わせてみると、かなり大人っぽい印象になる。7歳にはちょっと背伸びしすぎだろうか?
「バッグは少し可愛らしいのにして・・・うん、いいじゃない」
斜めがけの丸いファーバッグ。足元はくるぶし丈の白い靴下と黒のエナメルの靴を合わせると、足が露出している分印象が少し幼くなって、丁度いい。
何より、シエラが私の意見を取り入れてくれたことが嬉しかった。
「今まで何も言わなかったから、ティエラは服に興味が無いのかと思っていたわ」
「お母様ほど詳しくないしセンスも無いのでつい任せてしまって・・・
でも、もっと早く言えばよかった。
任せるんじゃなくて、一緒に決めるほうが楽しいです」
うん、ただきせかえされるよりもよほど楽しい。
それに、可愛らしい服よりも大人っぽい服のほうが好みなので、シエラとは感覚が違って、その分組み合わせも無限になるような気がして、なんだかわくわくするのだ。
シエラと楽しみを共有できることがまた嬉しくて、私は笑顔になるのだった。




