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帰宅してすぐ、私はセルガに頼んで再び真鍮を買ったのと同じ店へと向かった。
目的は銀のインゴット。水道の魔導具を買い取ってもらえることになったので、多少の散財は大丈夫になったし、あの霊石を使うために早く何か作りたかったのだ。取り敢えず指輪にすることだけは決めたので、シルバーアクセなら妥当だよね。我ながら発想の貧困さが悲しい。
銀を無事に入手した私だが、デザインには全く自信がない。夕食の時間まではまだあるし、少しアクセサリーを扱う店も覗いて参考にしよう。私の指ならば、中指か人差し指だろうか・・・
南の大通りに移動して、宝飾品の店をぐるりと一周する。高級な店が立ち並ぶ通りだけあって、店に並んでいる商品もなかなかに高級品ばかりだ。大きな宝石がどーんと鎮座する指輪や、いくつも宝石が連なったネックレスなどが目立つ。正直あまり趣味ではない。
もうちょっとさりげないデザインはないものかと見て回るが、そういうのはやはり定番の形みたいなものがあって、今度はなんだか面白みが無くなってしまう。
そんな中、私の目に止まったのはペアリングのコーナーだった。
男女で同じデザインを使用する都合上か、女性用も華奢すぎず、それでいてシンプルで少しかっこいい感じの物が多かった。逆に男性用はごつすぎず少し控えめだけどエレガント。
黒い石だから男性用にしても映えるよなぁ。
それらのデザインを参考にさせてもらうことにして商品を見つめていると、後ろに控えていたセルガが囁いた。
「お嬢様からの贈り物ならば、ザルツ様がお喜びになるでしょう」
・・・別に贈り物を選んでいるわけではないのだけれど。
「勿論ヴォイド様もお喜びになるでしょうな」
うん、お父様は喜んでくれると思う。確実に。
そんな風に言われると、自分のものを作るよりもプレゼントを作るほうが素敵なように思えてきて、そうすると誰に贈るのかとか悩みが増えるわけだけれど・・・
「明日はデートのご予定でしたな」
うん、まあそうですね、はい。
「このセルガ、お嬢様が望まれるのでしたらば指輪のサイズを調べることくらい・・・」
「セルガ」
「なんでございましょう、お嬢様」
「・・・二人分、お願いします」
ヴォイドとザルツ、二人分。できるだけ早くシエラとジルの分も用意しよう。
渡す機会が無くなってしまうから最初はザルツの分を作って、次の霊石が用意でき次第ヴォイドのものを、それからシエラ、ジル、自分。
しかしシエラに黒い宝石は似合うだろうか。パステルカラーの服が多いから微妙な気もするなぁ。
「かしこまりました。
では急いで屋敷に戻りましょうか。
魔導具になさるのなら時間が必要でしょう?」
「ええ、戻りましょう・・・」
またしてもセルガにしてやられた気分だが、さん付けをやめてからこうしてセルガは私に意見やアドバイスをくれるようになった。私がセルガに対して遠慮していたから、セルガもそうしていたのだろうか。
親しい人が増えるのが嫌ではなくなった自分の変化が好ましいものに思えた。
一時間後、私は自室でペンを持ったまま腕組みをしていた。目の前の紙はまだ白紙のままだ。
霊石は小さいとは言え普通の宝石よりはだいぶ大きい。かといって男性の親指用にするには小さすぎる。ヴォイドのは大きめの霊石を使いたいなぁ。少しゴツゴツとした手を思い出して、親指に黒い霊石のついた指輪を嵌めているのを想像する。うん、ヴォイドのはやっぱり親指用だな。
それよりも華奢な印象のあるザルツの手ならば、小指か人差し指か。でも小指の霊石って触りづらいだろうか?
魔導具は起動する意思を持って霊石に触れないと動作しない。そのためうっかり触れてしまっても問題はないのだが、逆に言うと霊石に触れられないのでは意味がない。緊急時に使うような機能でなければ小指でも構わないのだが、正直触れると障壁を展開するとか、予め指定しておいたポイントに転移するとか、そういう護身用の機能しか思い浮かばないのだ。
あると便利そうなのは携帯電話みたいな通信の道具だが、それをザルツに贈るのは連絡してくださいと言っているようなものだ。それはちょっと恥ずかしい。
結局、魔法障壁を張る魔導具にすることに決めた。無難が一番。
デザインもなんとなく決まった頃、ドアをノックする音が響いた。
「どうぞ」
失礼いたします、と入室してきたのはセルガだ。早速指輪のサイズを調べてきてくれたのだろう。どうやって調べたのかは知らないけれど。
「お嬢様、ザルツ様の指輪のサイズは11号でございます」
地球と同じように号数で決まっているらしいが、その内径が地球と同じかどうかはわからない。とはいえ・・・
「随分細くないです?」
人差し指にしてはかなり細い方ではないだろうか。いや、内径が地球のものより大きいのだろうか。
「確かに細い方だとは思いますが・・・」
ふと気づく。どの指のサイズか、指定していなかったことに。
「ちなみにそれ、人差し指ですか?」
「いえ、薬指ですが」
思わず沈黙してしまう私。
「婚約者に贈る指輪でしたら薬指でございましょう」
その習慣、この世界にもあるのね・・・




