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その日の夕食が終わると、ぞろぞろと連れ立って私達は厨房へと移動した。
セルガやヴォイドだけではなく、シエラとジル、それから他にも給仕のメイドさんなどなど、軽く大所帯である。
厨房を覗き込むと、丁度私が設置した水道でお皿を洗っている姿が目に入った。使ってもらえるというのは嬉しいものだ。
「ヴォイド様、今皿を洗っている、あの魔導具でございます」
セルガがヴォイドに問題の水道を指し示すと、ヴォイドはシンクまで歩み寄り、それに気づいた料理人が手を止める。
「ご、ご主人様、なぜこのようなところに・・・
あ、いえ、魔導具を見にいらしたのですね。失礼いたしました」
彼はヴォイドの意図を察してその場から横にずれると、一礼して少し離れたところに姿勢をただして直立した。
代わりにその場に立ったヴォイドが、セルガ同様水を出しては止め・・・
「ティエラ、これはどのような材料と霊石を使っている?」
ヴォイドが真剣な表情だったので、私も真面目に答える。どの程度詳細に話すべきかと思ったが、恐らく聞きたいのはコストのことだろう。
「パイプ部分の素材は全て真鍮、パイプとジョイントは既製品を使ったので全体でおよそ200ガレくらいでしょうか。
魔導具の核になるのは円筒部分ですが、それも真鍮でインゴット半分を使用しています。
霊石は購買で買った小さなものですが、紺色くらいになるまで魔力を込めたものを使いました」
付与魔法の詳細についても必要だろうか。詳細と言っても何をイメージして付与したかくらいしか説明できないのだが。
「魔法を付与する際は、出力が低下することを考慮して滝のような水流をイメージしました。
あとは・・・そうですね、できれば40度位のお湯が出るようにして、水とお湯の切り替えができるようにするのが理想でしょうか」
「ふむ、そうする場合の試算は?」
「増えるのは今のものよりもう少し質のいい霊石が1つ。それだけです」
少し考え込むようにするヴォイド。そしてまた口を開く。
「湯が出るメリットは?」
「冬場の冷たい水での炊事は手が荒れますし、なにより辛いです。
お湯の温度が調整できればもっとぬるいお湯で野菜を洗ったりもできるのですが・・・多分40度では表面が煮えてしまうかも知れませんし、それには使えませんね。
あとは浴室に設置すれば、ためた水を沸かす必要がなくなります」
お湯が出るのが当たり前だったから、いざメリットと言われるとなかなか難しい。それでもなんとか絞り出すと、再びヴォイドは思案する。
「それは富裕層向けでも構わんかもしれぬな。
うむ。ティエラ」
何かを納得し、私に声を掛けるその声は凛としていた。
「この魔導具、一括して国が買い取ろう」
「へ・・・?」
思わず間の抜けた声が出てしまった。
ヴォイドの後ろでセルガがうんうんと頷いている。
「この魔導具のアイディア、製法、そういったもの全てをアルディアで買い取る。
勿論ティエラには拒否権がある。
国として買い取りたいのは、これを一般家庭にも普及させたいからだ。
国が主導で各家庭に設置するにあたり、その権利を国が持っていたほうが権利料を払い続けるよりもコストが下がるからな」
なるほど、しかし・・・
「いえ、そういうことでしたら別に権利料なんていりませんけれど」
「そういうわけにはいかぬ。
ティエラには対価を受け取る権利がある、それは身内だからといって誤魔化すべきものではない」
そうはっきりと言われてしまってはゴネるわけにもいかない。
これは父としてのお願いではなく、王としての依頼なのだから。
「わかりました、お譲りします」
セルガが私に口止めをしたのは、恐らくこれを見越してのことだったのだろう。
ザルツに情報が漏れた後では、この魔導具の製法をアルディアで独占することはできない。トリスとは対等な関係だけれど、だからといって技術をなんでも明け渡していい相手ではないのだ。
「ティエラには申し訳ないが、ザルツどのには・・・」
「ええ、わかっております。
少なくともアルディアから自然にトリスに情報が流れるまでは、私の口からこの魔導具の存在を明かすことも致しません。
その代わり」
「条件をつけてくるか、さすがは我が娘だ」
ヴォイドは笑ってそう言って、続きを促してくれた。
「トリスにもすっかり広まった後に、実は私が作ったんですって自慢するくらいは、許してもらえますか?」
その言葉に、ヴォイドは先程よりも豪快に笑った。
「勿論だとも。
珍しく可愛らしい我儘を言ってくれたものだな、ティエラ」
笑いながら、私を抱き上げるヴォイド。こんな大事になるとは思わなかったけれど、これでアルディアの人たちの生活が少し楽になるのなら嬉しいことだ。
アルの日に初めての魔導具の成功をザルツに報告できないのは少し残念だけれど、その分いつかいっぱい自慢しよう。お父様がまた私を認めてくださったんです、って。




