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大量の真鍮のパーツを持って廊下に出ると、厨房へと向かって歩き始める。
しかし、大量に抱えているせいでがちゃがちゃと非常にうるさい。何事かとメイドさんたちが走ってくる程に。
パイプやらジョイントやらを抱えた私を見て、メイドさんたちは慌てて駆け寄ってきて、運ぶのを手伝ってくれた。7歳の体では両腕で抱きかかえるような状態だったので、非常に助かる。
お言葉に甘えて厨房まで、そして裏口の井戸の脇まで運んでもらうと、その場に下ろしてもらってお礼を言った。それで皆立ち去るかと思いきや・・・
「お嬢様のことですから、何をするかは伺いません。
ですが、手伝いの拒否はまさかなさらないですよね?」
セルガに私の扱い方講座でも受けたのだろうか。皆で悲しげな目で私を見つめてくる。断りづらい、非常に断りづらい・・・完敗である。
「えぇと、じゃあ、お願いします」
悲しげな目から一転、満面の笑みである。
結局私はメイドさんたちと一緒に、井戸からつながるパイプを組み上げた。できるだけ壁面を這わせてそれを厨房へと伸ばし、失敗したときに邪魔にならないように、シンクの高さとそこまでの距離だけ合わせて壁沿いに円筒部分を設置。うん、これで配管も大丈夫。井戸の方も十分な深さを取ったし、あとは出力が足りればきっと成功するはず・・・!
どきどきしながら巾着袋から付与済みの霊石を取り出す。どきどきしながら濃紺の霊石を嵌め込んだ。
一瞬、淡く光る円筒部分。パイプ全体も一緒に光っていたので、やはり霊石の設置を最後にしたのは正解だったようだ。
さて、果たしてどうだろうか・・・
早く試したいのだけど、でもやっぱり失敗していたらどうしようとか考えて若干躊躇しつつ、霊石部分に手を触れる。
少しの間。
失敗かと不安になったが、その後すぐに水は無事流れ出た。どうやらパイプを水が通過するために若干のタイムラグが発生するようだ。
問題は水量だが・・・私個人がキッチンで個人的に料理をする分には全く問題ない程度。ただ、これが屋敷の厨房であることを考えると、ちょっと不足だろうか?これ以上の水量を求めるなら、パイプの径をもう少し、それから霊石の出力も上げたいところだ。
ここはプロの意見を聞くべきだろう。一度水を止めて、料理長を呼ぼうと顔を上げると、そこには涙を浮かべて拍手するメイドさんたちの姿があった。
「お嬢様・・・見事でございます・・・」
・・・大袈裟だなぁ・・・
取り敢えずお褒めの言葉に対するお礼だけ言って、料理長を呼んで再び水を出してみた。
「・・・どうですかね?」
「お嬢様・・・」
やはり水量が足りないだろうか。大量に料理を作った経験がないからどれくらいが適当かわからないので、できれば目安になるような意見が欲しい。
「なんて素晴らしいものを・・・私共のために、このような・・・」
なんだかこの屋敷の方々は皆大袈裟で参考にならないかもしれない。多分、あの赤ちゃんだったお嬢様がこんなに立派になられて・・みたいな感覚なんだと思う。そういった身内びいき無しで見てくれる人を呼ばなくてはならない。
・・・そんな知り合い、いただろうか。
取り敢えず使ってくれるということだったので、配管のジョイント部分の向きだけ調整し、シンクに水が流れるように動かしていると、メイドさんからの報告を聞いたらしいセルガが厨房へと入ってきた。
セルガなら多少は本音を言ってくれるかも知れない。
淡い期待を抱いて、私はセルガに意見を求めるべく、作った魔導具の説明をした。
セルガは実際に霊石に触れて水を出し、止めて、また水を出し・・・何回か繰り返したところで、私の方に向き直った。
「多少のタイムラグがありますが、十分に実用可能です。
これは屋敷以外でも使えますか?」
「ええ、井戸から水を汲み上げているので、配管さえできればどこででも。
井戸の深さによって出力を上げたりしないといけないかもしれませんけど」
「なるほど、なるほど・・・
お嬢様、これは画期的です!!」
誰でも思いつきそうなものだけど・・・それは現代日本での生活が下地にあるからなのだろうか?まあ普及していない、少なくとも屋敷にないということは、発明されていなかったのだろうけれど。
正直、やはり身内の意見なのであまり信用していない。
「ヴォイド様に相談して、すぐにでも商品化致しましょう」
忙しくなりますな!と張り切るセルガの姿を見て、やっと少しそれが本当のようにも思えてきたけれど、やっぱりなんだかなぁ・・・
「ザルツ様に見てもらえばいいのか」
多少は贔屓目もなくなるだろうと思って口をついた言葉だったが、セルガはすごい勢いで振り返り、私の間近に詰め寄って唇の前に人差し指を立てる。
「お嬢様、それはヴォイド様に見て頂いてからにしてください」
そこまで詰め寄るようなことではないと思うのだが・・・腑に落ちないながらも、私はセルガに渋々頷きを返した。




