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世界樹は夢を見る  作者: 深月
アルディア第一学園
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裏口を出て、井戸の傍へ近づいてみる。滑車のついた井戸の横に、手動のポンプが設置されている。どちらも使えるようになっているようだ。

ポンプに錆などは見られない。この世界の金属事情はわからないが、地球だとこういうのは、確か・・・


「真鍮?」


「ええ、鉄や銅はすぐに錆びてしまうので・・・」


「真鍮は手軽に手に入りますか?」


「一般に普及しているこういったポンプは全て真鍮製ですので、恐らくは」


なるほど、一般にということは貴族家の屋敷など以外でも恐らくこういったものは普及しているのだろう。さすが公共事業の充実した国である。


「真鍮の管を・・・いや水を生成するのでは・・・・汲み上げるしか・・・」


気づけばぶつぶつと呟きが漏れてしまっていることに気づいて、少し恥ずかしい。しかしその様子を見た料理長は、


「何か名案が浮かんだようですね」


そう言って笑ってくれた。優しい。

ありがとうございました、と頭を下げて、私は厨房を後にした。

あとはアイディアと、道具の構造や作り方を詰めるだけだ。付与は・・・うまく行くと思う、多分。


夕食の席でも私は色々と考え込んでしまって、上の空。一度思いつくと、早く試してみたくて仕方ない。とはいえ材料を買いに今から出かけるわけにもいかないので、情報を集めつつ構想を練ることしかできない、もどかしい。


霊石を買うお金が浮いた分、多少資金には余裕があった。一応今までもお小遣いという形でいくらかもらっていたのだが、使う機会など全く無かった。旅の途中にアイゼンでお土産を買うのに使ったくらいだろうか。

こういう買い物は、誰に案内を頼むのがいいだろうか。シエラは誘えばきっと喜ぶとは思うが、洋服とかならばともかくあまり頼りになりそうにない。ジルも、私と似たようなものだろう。ヴォイドは仕事でいつも王城に居るのだから頼めるはずがない。そうなると、やはりセルガしかいないのだった。


「セルガさん、お願いがあるんですが」


「なんでしょうか、お嬢様。

このセルガ、敬称をつけるのさえやめて頂ければどんなことだろうとお役に立ってみせますが」


それ、まだ引きずっていたのね・・・


「実は、真鍮の管や、筒状の似たような物が欲しいんです。

買い物の案内を頼めませんか?」


「ええ、このセルガ敬称をつけるのさえやめて頂ければ」


全く同じ台詞を繰り返すセルガ。そんなにさん付けが嫌なのだろうか。


「さん付け、だめですか・・・?」


「屋敷のお嬢様が、その使用人に敬称をつけるものではありません。

一般的な立場から見れば、使用人のほうが不遜であると見られるのです。

トリスに嫁いだ先でそのようなことでお嬢様が傷つくことがあれば、私は・・・」


急に敬称をやめろとしつこく言い出したのはそれが原因でしたか・・・

仮に向こうで、「使用人ごときが王族の嫁になんと不遜な!クビだ!」とかされたら確かに嫌だ。かといって呼び捨てはやはり抵抗がある。

こんなときは、あれだ。


「時と場所は弁えます!」


レイ先生の方針に従おう。


「ええ、いつ何時どんな場所でも、私はお嬢様に使える使用人にございます」


セルガのほうが上手でした。そもそも使い分けられるほど自分が器用かと言われると不安しか無い。


「わかりました、セルガ。案内をお願いできますか?」


「喜んでお供いたします、お嬢様」


恭しく頭を下げるセルガに、してやられた気分でいっぱいだった。




翌日は付与魔法の実習ではなく、乗馬の訓練だった。無難にこなして急いで家に戻ると、シエラにただいまを言ってすぐに私はセルガの姿を探した。


「セルガ、セルガ!」


「はい、お嬢様。馬車の準備が整っておりますので、早速参りましょう」


さすがセルガは準備がいい。私が用意された馬車に乗ると、後から乗ってくるとばかり思っていたセルガが外から馬車の扉を閉めた。不思議そうな顔をする私に、


「お嬢様、私は御者台におりますので、何かありましたら手元のベルを鳴らしてお呼びください」


そう言って御者台のほうに乗ってしまった。

そういうものなのかもしれないが、馬車に一人ポツンと座っているのはなんだか慣れないし、手持ち無沙汰だ。我儘を言うわけにもいかないので、一人おとなしく馬車に揺られていると、10分ほどで馬車は止まった。


方向から言うと、王宮の東側だろうか。

アルディア王都は中央に時計台とそれを囲む広場があって、その北に王宮が位置している。5歳のときにシエラと買い物にいった大通りは、王宮から広場を挟んで南側にある。今居る通りも十分広いのだが、並んでいる店の趣がだいぶ違う。服やアクセサリーといった高級品が並ぶ南の大通りに比べて、こちらは食器や調理器具、工具やあるいは武具といった実用品が多い。


「この東の大通りはケルネルから入ってくる金属製品が比較的多く、その影響からか日用品が並ぶ店が自然と集まったようでございます」


解説を混じえて案内してくれるあたり、さすがである。

セルガの案内で入った1軒の店は、その説明の通り、金属製品だけを扱っているようで、目的の真鍮以外にも鉄や銅などの加工品の他、インゴットそのものも置かれていた。

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