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世界樹は夢を見る  作者: 深月
アルディア第一学園
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「その約束は、できません」


私の言葉に、ザルツは尚も食い下がろうとする。私が拒否したことで、彼は私が()()()()()()()()()()()()()()()


危険なのだ。それも、ミスをしたら取り返しがつかないほどに。


仮に転移した私の体が、石や他者の体と重なってしまったら。

その部分は魔物の心臓同様、消滅してしまうだろう。単純な加速ならばそうはならないので、極力”加速”で対応することは心に決めている。

しかし、”加速”では死角に飛び込むことや複雑な経路を進むことはできない。応用が効かない、というべきだろうか。


「危険性については承知しています。

自分でも使わないことを決めてはいます。

ですが、仮に何かあったときに、瞬間移動を使えば大切な誰かを助けられるような状況だったとしたら、多分、私は使うと思います」


私の決意の篭った言葉に、ザルツは悲壮な顔を浮かべる。


「どうしてあなたは、自分を犠牲にしてまで人を守ろうとするのですか!

あの旅でもずっとそうだったではないですか。

僕をタリム様から庇ったときも、タリム様が魔物に変わった後も!」


こうして声を荒らげる姿は初めて見る。でも、それはザルツも同じだったじゃないか。


「私は、転生前の奏という人間の意識のまま、この世界に転生しました」


ぽつりと、私は話し始めた。まだ誰にも話していないこと。

レイだけはきっと知っている、私の6年間の話。


「奏の意識のまま、両親がフォルティエラという娘の成長を喜ぶ様子を見ていました。

奏という存在を知らないまま、ティエラに微笑みかけるたくさんの人がいました。

私にとって、私とティエラは同一人物ではなかった」


乾いた唇を濡らすため、紅茶を一口。


「レイに出会うまでの6年間、きっとティエラはいつか目覚める、そうしたら私という意識は消える、そう思っていました。

だから、人と触れ合うのは私ではなくて、ティエラであるべきだと。

そうやって全ての人を拒絶して、関わらないようにしてきたんです。

それなのに、お父様もお母様も、私を、奏を、ティエラとして認めてくださった」


私は、泣いていた。あの頃の想いや、レイと出会ったときの記憶が押し寄せて、悲しいわけでも嬉しいわけでもなく、ただただ泣いていた。


「転生前の奏としての人生でも、私は人との関わりを避けていました。

だから、その時の一生分と、ティエラとしての6年分。その間ずっと、他人や自分に失望し続けていた私を、初めて認めてくれたのはこの世界の家族でした。

認められる喜びを知って、私を認めてくれる人たちのことを大切だと、初めて思ったんです」


私の気持ちは、うまく言葉にできているだろうか。

伝わらないかも知れない。けれど、誰かに伝えたかった。


「だから、私にとっての大切な人は、大切なだけではなくて、特別なんです。

私にとって両親やお兄様たち、この屋敷で働く人たち、旅で出会ったバイゼル将軍や、ザルツ様のことも。

私の身で守れるならそれでいいと思えるくらいに、特別なんです」


最後の方は泣きじゃくるだけで、言葉にすらなっていなかったかもしれない。

けれど、それでもザルツは最後まで聞いて、先ほどとは違う優しい眼差しで私の頭を撫でてくれた。


「僕にとっても、ティエラ様は大切で、特別なんですよ。

あなたは守るだけでなく、守られることも覚えるべきです」


続いたザルツの言葉に、私は大切なことを気付かされた。


「大切な人が傷ついてあなたが辛い思いをするのと同じくらい、あなたが傷ついて悲しむ人がいることを忘れてはいけません」


ザルツの言う通りだった。私は自分の気持ちばかりで、自分と同じように思う人が居ることを失念していた。

きっと、ヴォイドやシエラは私が傷つけば悲しむだろう。私が誰かを庇って死んだら、その誰かのことを恨むかも知れない。その誰かがヴォイドやシエラ自身だったとしたら、きっと自分を責め続けるだろう。私だったら、そうしてしまうもの。


役にたとうと、喜ばせようと、そうしすぎるのは私の悪い癖だ。守ろうとしすぎるのも、同じ。


「やっぱり私、今よりもっと鍛えて、もっともっと強くなります。

大切な人も、自分自身も守れるように」


「たまには僕にも守らせてくださいね、小さなお姫様」


これでも僕も鍛えてますし、剣も使えるんですよ?と笑いながら話すザルツが、剣を振るような仕草をしてみせる。

その動きは意外にも、確かに使えるというだけあって綺麗で鋭いものだった。


心の底から意外そうな顔を浮かべる私に、ザルツが苦笑する。

そして、だから少しは頼りにしてくれていいんですよ、とまた笑う。


なんだか清々しい気分だった。ザルツに聞いてもらって良かった。

未来の旦那様がこの人なら、きっと大丈夫、そんな風に思えた。

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