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「付与魔法の授業は始まったばかりで、まだ霊石を作る段階なんですけれど、いろいろ試してみたくて。
もう少し大きな原石は、ケルネルでしか取れないのですか?」
「自分で取りに行くつもりか?
原石くらいならセルガに言えば手配を・・・」
「いえ、できれば自分で入手するか、そうでなくても自分で買いたいのです」
そのこだわりはなかなか理解してもらえず、しばらくヴォイドとの手配する、しないの押し問答は続いたが、最終的にはヴォイドが譲歩する形でまとまった。
「原石はそれほど珍しいものではないが、鉱山で採掘されている。
ティエラに採掘を許可することはできんな。
代わりに原石や霊石を扱う宝石商を紹介しよう。それでよいな?」
「ありがとうございます、お父様!」
あとは金額が問題だが、それは実際値段を見てから頑張ってためればいいだろう。
「しかし、その小さな原石ほど安いものではないぞ?」
購買で買った原石は、一つ2ガレ。日本円にして100円くらいと相当に安い。これを霊石に変えると5ガレで買い取ってもらえるらしい。差額およそ150円程度。本当に小遣い稼ぎでしかないのだ。
「こうしてはいかがです?
ティエラ様が作った魔導具を売りに出すのです。
その小さな霊石を買い取ってもらうよりはよほど効率がいいと思いますよ。
ただし、それだけの水準は必要になりますけれど」
なるほど、質のいい物が作れればザルツの言う方法のほうがよさそうだ。
私は許可を求めてヴォイドを見つめた。
「・・・よかろう。
但し、売却するときはその質をセルガに確かめさせる。
それから、値段交渉をするのも、実際に売りに行くのもセルガに任せること。
これが条件だ」
セルガの負担がうなぎ登りだが・・・ちらりと傍に控えるセルガを見ると、こちらを見て頷いてくれた。大丈夫ということらしい。
「お父様、ありがとう!
セルガさんには面倒をおかけしますが、よろしくお願いします!」
さて、そういうことなら付与魔法の授業、更に気合を入れて臨まなくては。私が商品になるような魔導具を作れなければ、この話も無駄になってしまう。
きりりと決意を新たにした私。目指すはマジックボックスの作成だ。
「ティエラ様がどんな魔導具を作るのか、僕も見てみたいですねぇ・・・
いつかトリスにいらっしゃいませんか、ティエラ様のように自分の努力を惜しまない方は大歓迎ですよ?」
「人の娘を勝手に連れて行こうとするものではないぞ、ザルツどの」
苦笑交じりにヴォイドが言うと、ザルツは続ける。
「とはいえ、いつかは親元を離れなくてはならないでしょう?
・・・そうです、それです!」
名案とばかりに目を輝かせて言うザルツの次の言葉に、シエラとヴォイドが完全に固まることになる。
「トリスにお嫁さんにくればいいんですよ。ね、ティエラ様」
私も見事に硬直である。
「ザルツどの・・・何故そういう話になるのだ?」
「おや、ティエラ様には既に婚約者がいらっしゃいました?」
「おらぬ、おらぬが・・・」
シエラの背後に見える般若の影にも怯まないザルツは、思っていた以上に肝が座っているのかも知れない。
「ティエラ様、僕が相手ではお嫌ですか?」
悲しげに言うその姿はまるで子犬のようである。
「え、いやあの、ザルツ様は私を妹のようだとおっしゃっていたではありませんか」
「ええ、僕には姉はおりますが妹はおりませんので」
「私の感覚から言うと妹のような人と結婚というのは、違うような・・・」
「そうですか?だって、それだけ好意を持っているということですよ?」
何かおかしいですか?と首を捻るザルツ。
私だって別にそこまで恋愛結婚にこだわりがあるわけではない。無いけど、兄のように慕っている相手にいきなり結婚という話になって戸惑わないわけがない。嫌なのかといわれたら別に嫌なわけではないのだけれど、それはなんか違わない!?という感じ。大体年の差婚もいいところだ。私はまだ7歳、ザルツは・・・そう言えば年齢も知らない。
「・・・そう言えばおいくつなんですか、ザルツ様って」
「僕は今年20になりますよ」
・・・思いの外若かった。二十歳でこの落ち着きとは、日本ではあり得ない。別に老けているとかではないが、物腰の柔らかさや落ち着きから27,8くらいだと勝手に思っていたのだ。
「ティエラ様、今意外と若いなと思いました?
ついでに言うとそれくらいの年齢差なら別にいいかなとか思いませんでした?」
・・・図星である。
無言を貫く私を見て、ヴォイドはたじろいでいる。一方のシエラはというと、あらあら恋の予感?とでも思っているのだろう、いつものぽやぽやとした笑顔に戻っている。
「ティエラが望むならば・・・仕方ないが・・・」
いや待って、別に望んでいるわけではない。拒否する理由や動機が特に無いと言うだけだ。
ニコニコと笑うザルツとシエラ、苦悩するヴォイド、完全に他人事のジル、そして硬直する私。
こうしてなし崩し的に、私には婚約者ができました。




