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世界樹は夢を見る  作者: 深月
アルディア第一学園
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「おはよう!」


身分を明かした翌日の朝。クラスメイトにいつも通りの挨拶をする。


「おはよう、ござい、ます」


いつも通りではない挨拶が返ってきた。

まあ、そうなるかもしれないなぁとは思っていたけど、実際に急変した態度を見るのは思っていた以上のダメージがある。

こうした状況の脱し方を、私は知らない。日本では一般庶民だったし、この世界で何かしらのコミュニティに参加するのは学校という今の環境が初めてなのだ。

ただ、なんとなくだけれど、いつも通りにしてよ!と相手に要求したとしても、変わるのは表面的な態度だけだろうなぁという気がする。だから、それは言わない。

私の心にあるのは、寂しさと、もどかしさと、そして諦め。

友達なんてものは、片方がそう思っているだけでは成立しないのだ。日本でだってそうだった。頻繁に連絡をしてきた相手も、こちらが同じアクションをしなければ段々とその回数は減って、そのうち全く音沙汰は無くなった。仲良く遊んでいた相手も、学校を卒業するとその相手は私ではなくなった。立場や所属が変わるだけで、人間関係なんて途端に崩れるものだ。

だから私は、奏として生きていた頃、友達とも家族とも距離を取ってきたのだ。


その感覚を、この世界に来てから忘れていただけだ。

はっきりと思い出したその虚無感は、私の心のあらゆる要素を吹き飛ばして、諦め一色に染め上げてしまう。

最初にフルネームを名乗っていたら、どうだっただろうか。

きっと、上辺だけの友達に囲まれていただろう。今の状況は、最初からそうだったか、後からその状態になってしまったか、その違いしか無い。

別に無視されるわけでもない、嫌がらせをされるわけでもない。ただ少しだけ、大切な存在が減っただけ。


そう、ただそれだけのことだった。

そう思い至ると、私の心はストンとそれを受け入れた。


「もう、偉いのはお父様であって、私じゃないわ」


苦笑いを浮かべながら、私は言う。


「う、うん、ティエラちゃんはティエラちゃんだよね!」


そうだよーと笑顔を返す私の心は、自分でもわかるくらいに、冷えていた。




アルの日。

今日は屋敷にザルツが招かれている。天気がいいので、一緒にテラスで昼食を摂って、それからヴォイドも交えて魔物の調査結果の報告会をする予定だ。

私の使った魔法の話は、ヴォイド同席では”個人的”な話にはなりそうにないので、多分ザルツと2人で魔法理論をあれこれ話し合うことになると思う。


「ザルツ様、ようこそいらっしゃいました」


ザルツを出迎えるセルガの声が聞こえた。テラスで待つ私達の前には既に軽めの食事が並んでいる。焼きたてのパンやスコーン、スクランブルエッグに、カリカリに焼かれたベーコン。セルガの案内でザルツがテラスに現れたとき、時間をはかっていたかのように紅茶が注がれる。


「ザルツどの、久しいな。

さあ、座るといい」


ヴォイドに促されて、彼はいつも通りの笑顔のまま席につく。


「門の前からパンのいい香りがしていましたよ。

まったく、食べる前から胃袋をつかむのはやめてもらいたいものですね」


和やかに食事会が始まる。前回晩餐に参加できなかったジルも、今日は一緒だ。ジルも他国の王族に挨拶する機会は今まで無かったようで、少し緊張した面持ちでザルツに自己紹介をしていた。多分私と一緒で、7歳の誕生日に礼儀作法をおさらいさせられたんだと思う。来年には成人するジルは、きっとそろそろまたあの地獄の特訓の日々を送るんだろう。ちょっと同情してしまうけど、私も他人事ではない。


「ティエラ様は学校でも優秀でいらっしゃいましたよ」


「学園の視察にいらしたのだったな。

どうだった、私の自慢の娘は?」


私のことをカナデではなくティエラと呼んだことに一瞬驚いたような顔をしていたが、それよりも初めての娘の様子のほうが気になったようだ。


「ええ、実習の様子を拝見しましたが、素晴らしい集中力で霊石を作ってらして。

そういえばあの霊石、どうなったんですか?」


「あ、ええとなんて言えばいいのか・・・

いまお見せしますね」


暇があれば魔力を流し込むということをしているため、小さな巾着袋に入れて首から下げているのだ。それを首から外し、中身を取り出してザルツに手渡した。


「・・・こんな色になるものなんですねぇ・・・」


感心したように言うザルツの手の中にあるその霊石は、すでに透明感も青みもない。光沢のある黒い石、と表現するのが多分最も的確だろうか。黒曜石ってこんな風だった気がする。


「霊石、なのか?それが?」


ヴォイドもあまりの見た目の違いに半信半疑だ。

私はコクリと頷くと、同じ巾着袋から他の作りかけの霊石を取り出す。

アクアマリンのような淡い青色の霊石、サファイヤのような霊石、さらに濃紺に近い、けれど透明感は残っているものなど。あの日購買で買った原石を霊石に変化させたものだ。


「なるほど、力を込める量を変えているのか」


「はい、その黒い霊石だけは今も時間があれば力を込めていますけど・・・

先生に聞いたら、限界はわからないから割れるまでやってみたらどうか、って」


せっかくだから、原石の入手先も聞けるだろうか?

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