68
私の声に顔を上げると、ザルツはこちらを見て穏やかな笑顔を見せてくれた。
お互い歩み寄ると、ザルツは私の右手をとり、左手を胸に当てて優雅にお辞儀をする。
「お久しぶりです、カナデ様」
そのお辞儀に、私はカーテシーを返す。
「ザルツ様、お久しゅうございます」
以前と変わらない、物腰やわらかなザルツを見て、会えてよかったと心から思う。
「公務を口実に、カナデ様に会いに来たのですよ。
他の調査も終えてからといろいろと片付けていたら、思いの外時間がかかってしまって。
遅くなって申し訳ありません」
「いえ、とんでもない!
お忙しいでしょうに時間を取ってくださってありがとうございます」
「アルの日には屋敷にお邪魔させていただきます。
積もる話でも致しましょう?」
いたずらっ子のように微笑むザルツの言葉の意味を悟って、私もまた笑う。
「ええ、休日に肩書など無粋ですものね」
積もる話・・・そう、魔物についての報告と、私の使った魔法の説明。そういった話は”個人的に”すると約束している。だからこそ日曜日にあたるアルの日に、と彼は言ったのだ。
「お仕事の邪魔をしてしまいましたね、申し訳ありません」
「いえいえ、僕にとってカナデ様は年の離れた妹君のようにおもっていますから。
こうしてご挨拶できて嬉しく思いますよ」
「ふふ、でしたら私のことはミドルネームではなくティエラとお呼びください。家族はそう呼びますから。
・・・私もザルツ様のことは親戚のお兄様のように思っていますから」
ザルツが同じように思っていてくれたことが嬉しくて、私は笑みを深めた。
話したいことはたくさんあるけれど、これ以上お仕事の邪魔をするわけにもいかない。もう一度カーテシーをして実習室の自分の席へと向かうと、既に多くの生徒がドアの前で立ち往生をやめて、教室内に入っていた。
私がザルツと親しげに話していたことで、クラスメイトたちは不思議そうな顔で私を見ていたが、もうそろそろ授業が始まる時間だ。
授業が終わるまでは、質問攻めに合うこともない。別に王族であることを隠しているわけではなくて、ただ単にファミリーネームを名乗るタイミングを完全に逃してしまっていただけなので、クラスメイトたちになにか聞かれたら素直に答えよう。
しかし、まずは付与魔法だ。念願の付与魔法!
これから始まる授業が楽しみで仕方がなかった。
「あー、付与魔法は皆知っての通り魔導具を作るのに使われるが・・・
道具そのものに魔法を付与しているわけではない」
ガルヴァが説明を始める。私達の机に置かれているのは、さきほど配られた小さな丸い水晶のようなものが2つ。片方は無色透明で、もう片方は同じく透明なのだけれど、青い。
「霊石と呼ばれる石に魔法を付与して、それを組み込んだものが魔導具になる。
さっき配った青いほうの石が、その霊石だ。透明な方は霊石の材料みたいなもんだな。今後付与魔法の授業でその2つを使っていくことになるから、なくさないでくれよ?」
ガルヴァの説明によると、霊石は透明な方の石・・・まあ水晶と呼んでおこう。水晶に精霊の力を込めることで作られていて、込めた力が強いほど色が濃くなって、付与した魔法の効果をより強く発現できるようになる。要は霊石が大きくて色が濃いほど魔導具にしたときその出力が増す、と。付与された魔法の強さと霊石の質で魔導具の出力が最終的に決まるらしい。
「まずお前たちにはその透明な石を霊石に変えてもらう。その後にできた霊石を使って実際に魔導具を作るからな。準備段階だからって手を抜かずに気合い入れて霊石作れよー」
ちなみにこの霊石作り、生徒のアルバイトとしても人気らしい。小さな霊石でもいくつか集まれば街灯を作ったりはできるらしく、あまり高い値段はつかないが行政で買い取りをしているのだ。国としては質はいまいちでも格安で霊石を集めることが出来て、学生は小遣い稼ぎができる。これがWin-Winというやつなのだろう。
「さて、じゃあ各自透明な石を手に持ってくれ。
よし、準備できたな?
精霊の力を手に集めて、それが石に入っていくように力を石に込めるんだ。
コツは、魔法を使うときみたいにどういう作用をするか一切考えないこと!
純粋に力だけを石に伝えていくことだ。
それから、一気に大量の力を込めると割れることもあるからな、焦らずゆっくりやること。
精霊の力が弱くても、時間を掛ければ霊石はできるから心配するな。
よし、じゃあやってみろ」
真剣な眼差しで石を見つめる私達。手の平に水晶を乗せて、魔力をその水晶に・・・精霊の力のコントロールはずっとやってきたし、今も屋敷では続けているので難しいことではなかった。
少しずつ青みがかっていく水晶。5分ほどで、配られた霊石と同じくらいの色になった。一旦力を込めるのをやめて、ガルヴァの方を見る。
「先生、色が濃くなるってどれくらいまでですか?」
質問する私の手の上に乗った水晶を見て、ガルヴァは呆れたようにため息をついた。
「もうできたのか・・・本当にお前には教えることがないな。
そうだな、大体・・・紺色ぐらいのものは俺も見たことがある。
どうせだから割れるまでやってみろよ」
「割れちゃったら付与魔法の練習できなくなっちゃうじゃないですか」
「一気に力を込めすぎて割っちまうやつが例年結構な数いるからな。
ちゃんと予備があるから心配すんな」
その言葉を聞いて安心した私は、再びゆっくりと青く変わった石に力を込め始めた。




