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世界樹は夢を見る  作者: 深月
アルディア第一学園
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私のもとに、代わる代わる貴族たちや国の中枢を担う重鎮たちが挨拶と祝いの言葉を述べにやってくる。その全てに、頭の中のデータを引っ張りだしながら対応する。

人の顔を覚えるのはあまり得意ではない。でも今後のために、予習したデータと相手の顔が結びつくようにしなくては。写真なんて言う便利なものがない以上、頼れるのは自分の記憶力だけ。とはいえ全部覚えきれるわけがない。招待客は80人近くいるのだ。この場を乗り切るだけならばそれほどの苦労はないのだけれど、こういったパーティーが今回だけで終わるわけではない。

成人を迎えるときはこれよりも大規模なパーティーになるかもしれないし、その後も王族としてなにかと出席する機会は増えるだろう。場合によっては他の国に招かれることもある。そんなわけで、私は今必死である。

必死過ぎて、いろいろなことを忘れていた。そう、例えば今こちらに向かってくるディストのこととか。


彼は厳格そうな老紳士とともにやってきた。恐らく、この老紳士はモールド=アイヴァン。アルディアの大臣であり、ヴォイドの相談役も務める重鎮だ。アイヴァン一族は世襲制のない大臣という職を、建国からその実力で代々務め続けてきたという驚くべき実績を持つ、永代貴族家の一つである。

アイヴァンという家名を招待リストに見つけたとき、もしかしてとは思ったのだが、そこに書かれていた名前は、モールドの名とクラウスという名前の2つだけ。仮にディストがこの一族の一員だとしても、鉢合わせになることはないはずだった。


「フォルティエラ様、この度はおめでとうございます。

モールド=アイヴァンにございます」


他の貴族たち同様に深々とお辞儀をしながら名乗ったその名は、予想通りのものだった。


「息子のクラウスもご招待頂いていたのですが・・・情けないことに熱を出しておりまして。

孫のディストにご挨拶させて頂ければ幸いと思い、連れてまいりました」


「それは心配ですね。ご自愛くださればよいのですが」


「ディスト、ご挨拶を」


モールドが促すと、後ろに控えていたディストは一歩前に出て、祖父と同じように深々とお辞儀をする。


「ディスト=アイヴァンと申します。この度はおめでとうございます。

こうしてご挨拶させていただけることを光栄に思います」


その表情はガチガチに緊張しているように見えたが、挨拶の言葉はしっかりとした声音だった。きっとたくさん練習したんだろう、私みたいに。


「ありがとうございます」


「ディストは姫様と同じ年でして。今年から第一学園に通っておりますゆえ、お会いする機会もあるかもしれませんな」


「ええ、存じておりますよ。クラスが違うのが残念です」


心にも無いことを言っておく。社交辞令というやつだ。

しかしこの老紳士は、彼が学校でアイヴァンさま〜とか呼ばれているのを知っているのだろうか。いや、ばらしたりはしないけどさ。


ディストはちょっとあれだが、アイヴァン一族というのは本当に優秀な一族らしい。代々大臣を務めるこの一族、ほとんどが宿した精霊を具現化していることで有名だ。国内だけでなく他国の事情にも明るく、ここの貴族家はどういう家柄でどういう趣味嗜好をしているかとか、そういった情報を事細かに頭にインプットしているらしく、外交の要と言ってもいいほどに重用されていると教わっている。ディストの精霊が具現化しているのも、幼い頃からそういった勉強をしているからなのだろう。


「孫たちの中ではディストは一際優秀で。

お恥ずかしながら他の2人は精霊の力も弱く、その分ディストには期待しておるのです」


「ディストどのは末の子であったか?」


ヴォイドが確認するような口調で問うと、モールドはその通りでございます、とゆっくりと頷いた。


「モールドに期待されるとは、優秀な子なのであろう。

ティエラ、お前も負けてはいられぬな?」


茶化すように言うヴォイドの言葉に、厳格そうな顔を崩してモールドは笑う。社交界ジョーク的な感じだろうか。だとすればどう切り返すのが最適か・・・うん、よくわからない。


「精進いたします」


苦笑交じりにかろうじてそう言うと、2人はもう一度祝いの言葉を投げてから去っていった。まだまだ挨拶する相手は多い。気合を入れ直して再び頭の中のデータと格闘しながら、表情だけはにこやかに。

・・・上流階級の方々って、大変だったんだなぁ。




「ああああつかれたあああああああ」


ドレスを脱いで髪を解いた私は、思わずそう口に出してソファへともたれこんだ。騎士団の訓練から戻っていたジルが、そんな私をみて苦笑している。


「おつかれさま。なかなか大変だよなぁ」


「想像以上に大変でした・・・

ジルお兄様、明日からまた朝の訓練、ご一緒していいですか?」


「それはもちろん構わないけど・・・

握力で男子に負けたからって頑張りすぎるとムキムキになるよ」


若干呆れ顔のジルの指摘はもっともだ。性別による力の差を覆そうと思ったらムキムキになってしまう。それは避けたい。というか絶対に嫌。


「体型が変わらなくなる魔法、ないかなぁ・・・」


その呟きに、ジルはまたしても苦笑を浮かべていた。

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