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「レイには、どんな風に聞こえるの?
遠くから聞こえる感じ?それとも頭の中に響くような?」
「そうね、頭の中に直接響く感じかしら?」
なるほど、念話に近いものかもしれない。それが魔法で再現できるかどうかが問題だけれど・・・自分の中の力をレイのほうに向けて、意識に直接声を届けるようなイメージで心の中で話しかけてみる。
『レイ、聞こえる?』
「カナデ、やりたいことはなんとなくわかるけど・・・
あたしはカナデの中にいるんだから魔法を使わなくたって念話は可能よ?」
・・・そうだった。いつも視界でレイが飛び回っているから、ついそれが本体だと思ってしまっていたけど、そういえばただ姿を映し出してるだけだって前に言っていたっけ。
となると・・・
『お父様、聞こえますか?』
ちょうどこちらへ向かってきていたヴォイドに意識を切り替える。
ヴォイドは驚いたような顔をして、まだ少し距離がある私の方へ、先程よりも足早に向かってきた。声を届けることには成功したみたい。
「ティエラ、頭の中に響くようにお前の声が聞こえたのだが・・・」
「はい、念話を試していました」
やはり実験は成功。
次は地中だ。私は先程レイが示した場所に膝をつき、両手を地面につけた。ちょうど四つん這いになるような格好。目を閉じて、意識を地面へ、そして地中へと向ける。自分の中にある力を、下へ下へと広げていく。
・・・全然関係ないことだけれど、精霊の力、ってすごく言いにくいんだよねぇ。これが小説とかだと魔力とか表現するんだろうな。魔力。うん、とっても言いやすい。自分の中ではこの力を魔力と呼ぶことにしよう。
そんなどうでもいいことを考えながら、力を・・・魔力を地下深くに浸透させていく。ソナーみたいな機能はどうやってつけたらいいかわからなかったから、既に世界樹の根があったのか、それともまだもっと地下深くなのか、もしかしたら予想は外れていて近くに根なんてないのか、わからない。
だから、地下に広げた魔力全てが、私と意識をつなぐコードのような機能を持つようなイメージを浮かべる。
・・・聞こえた。まるで小さな男の子が泣いてるような声。
その声に意識を集中すると、遠くから聞こえていたようなその声がより鮮明なものになる。
『どうして泣いてるの?』
私の声は届いただろうか。
『・・・だあれ?』
反応が、返ってきた!
『私はティエラというの。・・・あなたは、世界樹?』
『うん、僕は世界樹・・・だけど、ロキって名前があるんだよ!』
『ロキね。よろしくね、ロキ。
ロキはどうして泣いていたの?』
『痛いんだ・・・誰かが僕の体を傷つけたんだよ!ひどいんだ!』
傷・・・世界樹を切り倒そうとしたのか?それとも枝を折ったとか、動物に爪を立てられたとか・・・?
『そう、怪我をしたのね・・・?
私の魔法で治せるかわからないけれど、試してみてもいい?』
『・・・ティエラは、僕を傷つけないって約束してくれる?』
『ええ、約束する』
わかった、という言葉の後に、ロキからの声は聞こえなくなった。
長い時を生きているはずの世界樹の声は、まるで少年のものだ。それも、まだ幼い子どものような・・・
突如、地面が揺れる。急な揺れに驚いて転びそうになったが、飛翔の魔法で空中に留まり、揺れが収まるのを待つ。
皆が慌てているのが見える。カチアとティテスは既に転んでしまっていた。・・・飛翔の魔法で誰かを抱えて飛ぶ練習はしていないので、申し訳なく思いながらも見てみぬふりをしておいた。
揺れが徐々におさまり、私達のすぐ近くの地面が隆起する。土に覆われたまま、まるで巨大な蛇がそこから這い出て来るかのような光景。そして土を払いのけるように一瞬震えると、そこにあったのは巨大な木の根だった。
太く立派な根が、一体どこからつながっているのかはわからない。私はその根に右手を添える。
『ロキ?』
『痛いのは、このあたりなんだ』
つまり、痛みがある部分を地表に露出させたということか。
地面から木の根を見上げながら、歩く。傷のようなものは見当たらない。大きく迂回して反対側も見て歩く。・・・やはり見つからない。
あと見ていないのは、ちょうどこの巨大な根の上の方。私は飛翔の魔法を使って、根の上側に移動した。レイも一緒に飛んできて、根に異常がないか一緒に探してくれた。
・・・上から見ると、調査団のメンバーが全員驚愕の眼差しで世界樹の根を見つめていた。この根はちょっとした大木なんかよりもよほど大きい。樹齢数百年という木の幹ほどもあるのではないだろうか。
その存在は遠くからでも見えているだろう。そう、例えば兵士の詰め所あたりからは。
先程の揺れのこともある、兵士が駆けつけてくる恐れもあった。
『お父様、世界樹はどこか傷を負っているそうです。
私とレイで探しますから、兵士たちが出てこないようにしてもらえますか?』
念話をヴォイドに飛ばす。しっかりと伝わったようで、ヴォイドは詰め所の方向へと向かっていった。アルディア王が直々に出向くのだ、兵士の方は心配しなくてもいいだろう。
「カナデ!見つけた見つけた!これじゃないかしら!」
その声で、私はレイの指差す方向へと向かった。




