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足元には剥き出しの土。乾いてひび割れたその地面には、今までまばらに生えていた背の低い草すら見当たらない。これでは植生も何もあったものではない。
そして、私達の前方にある黒い巨大な壁。
「ここが、世界の果て・・・」
思わず呟きが漏れる。
その黒い壁まで、およそ300m程だろうか。それだけ離れた距離から見ても、その壁は途方もない存在感を持って、そこにあった。
いや、あった、というのが正しいのかはわからない。黒い壁はそこに存在するようであり、しかし実際には何もないのだから。
背中から太陽のぬくもりを感じる。その光は確かに私達を、大地を照らしている。真っ暗な空間がその先に広がっているのならその地面くらい照らし出されそうなものだが、しかし、広がる漆黒はその光を吸い込むことも、反射することもなくただただ闇としてそこにある。
切り取られているのは大地だけではない。見上げてみれば空もまた、その壁に阻まれるかのように途切れていた。
「しかし、15年前は土地は乾いていなかったし、植物も見られたはずだが」
過去の記憶と照らし合わせるヴォイド。では、異変が始まってから土地が痩せていったのだろうか?
ザルツが土の固まりを拾い上げて観察している。その手を少し握ると、固まりはぼろぼろと崩れてしまった。
「雨が降っていないわけでは・・・なさそうですよね」
その視線の先には、窪んで雨水を蓄えていたであろう水たまりの跡。うっすらとその部分の地面はまだ湿っていて、他の土とは違う濃い色をしていた。
「拡大が止まるどころか、土地が死んでいっているとはな」
ヴォイド以外はこの地を訪れるのは初めてだ。黒い壁の威圧感も、荒れた土地も、時折吹く強く冷たい風も、ここがまるで絶望に包まれているように感じさせる。世界が作られていくいわば始まりの場所であるはずなのに、まるで世界の終わりのような。
・・・この状況を目の当たりにした開拓者たちが、この地を去るのも無理はない。それほどに、ここに漂うのは希望とは程遠いものだった。
「泣いてるのが、聞こえるわ・・・」
辺りを飛び回っていたレイが、ぼそりと呟いた。世界樹の泣き声なのだろうか。
私がそれを耳にすることはできないけれど、レイの辛そうな表情を見るに、きっと悲痛な声に聞こえているのだろう。
「やはり・・・」
タリムが口を開く。
「やはり、この世界は救いを必要としているのだ・・・」
断じたタリムの表情は、その目に畏れを湛えながらも薄っすらと笑いを浮かべて・・・狂信的、というべきだろうか。見るものに寒気をもたらすような、狂気に満ちた表情。
「私にはわかっていた、わかっていましたとも!
世界はいつからか歪んでしまった!努力し苦労した人間が報われない世界になってしまった!愚かな人間どもはただただ力の強さだけを評価する!転生者などという努力も研鑽もなくただ運だけで成り上がる連中を!己に宿った精霊の力に頼り溺れ盲信する愚か者がこの世界を歪めているのだ・・・害悪でしかない、害悪でしか無いのだ!誰かが正さなくてはならないこの歪んだ愚か者共が増えすぎた世界を!!」
まるで咆哮のようだった。嘆いているような、ただただ糾弾するかのようなその内容に、思い当たる節が無いわけではない。耳の痛い説教だとすら思う。
護衛の4人は互いに顔を見合わせて、少し気まずそうに目を伏せた。私同様、彼らにもまたタリムの言葉を否定できない部分があるのだろう。
タリムの言葉は決して否定できはしない。私達は、私達自身ではなく精霊の力に頼っている。だが、その言葉は正論であるのだが・・・
転生者だから、幼いから、そういう色眼鏡で私を見ていたのはタリム自身だ。私自身を評価せず、私の背景やレイの存在ばかりを見て否定してきた。私だってすごい努力をしてきたわけではないが、だからといって何もしてこなかったわけではない。
強い精霊の力を持っているというだけで、なんの努力も研鑽もしていないと全てを糾弾するのは違うと思う。まあなんていうか「タリムに言われても・・・」という感じがしてしまう部分は否めない。
タリムがここまで転生者を否定する理由を、私は知らない。
だが、知っていたとしても。恐らく私は思うだろう。
ああ、可哀想な人だな、と。
「小娘・・・小娘ぇえ!!!」
ぐりん、と不自然なまでにタリムの首が回転し、私を見据える。
「貴様のその瞳が許せぬのだ・・・力を見せつけて、さも自分は精一杯やったという顔をして・・・それは貴様の力ではない!精霊の力ではないか!
自分は高みにいて見下ろしているのにまるで同じ場所にいるように振る舞って!心の奥底で持たざる者を見下しているのにその瞳は巧妙にそれを隠している!!」
・・・そんなつもりはないのだけれど。実際精一杯やってるつもりですよ。
それにしても、首の角度といい血走った目といい、はっきり言って怖い。
「カナデ、離れたほうがいい」
「貴様のようなガキが!害悪なのだ!!貴様こそが悪だ!!!
貴様のような善人ぶったガキが、世界を、私を蔑ろにするのだ!!!!!」
レイが耳打ちするのと、タリムが叫ぶのはほぼ同時だった。
探知魔法の反応が、ゆらぐ。タリムの体がメキメキと嫌な音を立てる。
透明なまま揺らいでいたのが、徐々に濁り、タリムに一層の狂気が宿る。
そしてタリムの瞳が、赤く、赤く染まる・・・




