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世界樹は夢を見る  作者: 深月
幼少期
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テントを張り焚き火を起こし、その火を囲む私達は、一人を除いてうんざりした顔を浮かべて疲弊していた。原因は当然タリムである。

腰を落ち着けた今もまだタリムの恨み言は続いている。正直、他にもっとするべき話しがあるのだからいい加減にして欲しかった。

一行に加わったアルドが、この人いつもこうなんですか?というような視線を皆に投げかけており、それに諦めたような視線で返す私達。

・・・精神に作用するような魔法ってどうイメージすればいいのだろうか、と本気で悩んでしまう。いや、直接作用する必要はないか。スリープクラウドとかいう魔法を本で読んだことがある。吸い込むと眠ってしまう煙をイメージしてみれば・・・眠らせてしまって、後で何か言われても知らぬ存ぜぬで通せばいい。

ものは試しだ。


私はタリムの顔の辺りに自分の力を広げ、それが透明な睡眠ガスに変化するイメージを浮かべる。そのガスの成分とか、難しいことは考えない。ただ眠りに落ちて、それ以外無害なもの。


「他国の使者に対して何たることをしてくれたのか!

このことは国としてアイゼストにこう・・ぎを・・・」


魔法を発現して数秒、狙い通りタリムは脱力し、規則正しい寝息を立てて地面に伏した。ひたすら喋り続けていたタリムが急に眠ってしまったのだ、何が起こったのかと警戒する皆を横目に見ながら、私はタリムに近寄り、脈や呼吸を確認する。

うん、多分問題ない。これはなかなか使い勝手のいい魔法になりそうだ。


ヴォイドの隣に戻って腰を下ろす。何かやったな?という視線が痛い。


「眠っているだけのようですよ。・・・お疲れだったのでしょうか」


わざとらしく首を傾げる。

私の意図を理解してくれたようで、将軍が続ける。


「うむ、酒も飲んでいたようだし仕方あるまい。

しかしそのままでは体を冷やしてしまうな、ジェロス、何か敷いて差し上げろ」


まだ日は高いが気温は低い。テントに運ぶよりもこのまま火のそばのほうがいいだろう。ジェロスが厚手のマントを敷いてその上にタリムを横たえると、より一層気持ちよさそうないびきが聞こえ始めた。


カチアが温かい紅茶を淹れてくれて、木製のカップを皆に配る。湯気とともに立ち昇る紅茶の香りが、寒さと一緒に憂鬱を吹き飛ばしてくれるような気がした。


「それで、我々が魔物を呼んでしまうかもしれない、というのは?」


将軍の言葉から、情報交換が始められる。

ザルツが、魔物が精霊の力に引き寄せられているという仮説と、その根拠を簡潔に話す。


「ふむ。その可能性があるのならば、確かに我々は街にいるべきではないな」


頷いて、今度は兵舎のほうで集めた情報をまとめてくれた。


「交代の人員や補給の商隊は、遠回りをして北側のルートを通っているそうだ。

そちらは魔物の急増が報告された後も、少し増えた、程度らしい。

理由は兵士たちにもわからないようだったが・・・」


「そもそも最初から、北側のほうが少なかったんですよ」


アルドは、その太い尻尾をゆっくりと左右に振りながら話し始めた。


「魔物が発生する条件は解明されていませんが、負の感情が精霊の力を変質させる、という考えが一般的ですよね。

では動物が負の感情を抱く、あるいはそういった感情に強く曝されるのって、どんな状況でしょう?」


質問の意図がわからず、訝しげな顔をしながら一同は思考を巡らす。


「飢えや、恐怖・・・あとは怒り?」


ティテスが自信なさげに言う。


「ええ、恐らくは。

しかし、捕食される側の動物たちはともかく、天敵の少なそうな大型の獣が、飢餓以外の恐怖や怒りを感じることはそれほど無いと思いませんか?

獲物として狩った他の動物から恐怖を向けられることはあるでしょうが・・・

自分より強いものがいない場所で恐怖を感じますかね?」


「確かに、そのような機会は少ないであろうな。

しかし大型で肉食の獣が魔物として現れたという報告は少なくはない。

・・・魔物化は負の感情によるものではない、ということか?」


「いえ、そういうことではありません。

大型の動物が恐怖を感じる例外的な機会があるのですよ」


ああ、なるほど。アルドの言わんとしていることがなんとなく、わかった。


「人間、ですか・・・」


ザルツも私と同じ結論に到ったようだ。


人間は、食べるために、あるいは身の安全のためや単なる趣味として、動物を狩る。その牙や内臓が薬の材料になることもある。ただ単に毛皮や羽の色が美しいとか珍しい色をしているとか、そんな理由で狩ることもある。

生きるためとは程遠いその理由を動物が理解しているかは知らないが、仮にそれを察しているのだとすれば、そこには怒りも生まれるだろう。


「ええ、僕はそう考えていますよ。

そして北のルートですが・・・

南のほうに比べて寒さは厳しいし、山と森に囲まれて広く土地を使うこともできない。

そのため、もともと集落が極端に少ないんです」


仮説に過ぎませんけど、とアルドは最後に付け加えて、話を締めた。

野犬の魔物を見てルートを言い当てたのは、こういうことだったのか。人間が捨てた犬が野生化したのなら、集落のない北側にいるわけがない。


人間の営みが魔物を生み出している、という可能性。

それは仮説であったとしても、私達の心に暗い陰を落とした。

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