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探知魔法を広げる。街の外の反応を注意深く見ていくが、今の所問題ない。冷たい風が吹いて、焦る私達を少しだけ冷静にさせた。
幸い兵舎での情報収集も終わっていたようで、すぐに合流できた。あとは荷物とタリムを回収しなくては。
宿に戻ると、タリムは意外にも食堂にいた。一人で広めのテーブルに陣取り、肘をついて右手に持ったジョッキを呷っている。葡萄酒だろうか?結構な量を飲んでいるのだろう、離れてみても顔が赤いのがわかる。
「タリム殿、すまないが急いで出発することになった」
バイゼル将軍の言葉に、タリムは不愉快そうに眉をひそめた。
「滞在を延ばすと聞きましたが?」
「事情が変わった。荷物をまとめ次第街を出る」
「急にそう言われましても・・・」
予想通り、タリムの説得が一番の難関だ。事情を下手に説明すれば、逆にタリムは街を離れないだろう。貴様らと一緒にいるほうが危険ではないか!とか言い出すに違いない。
しかし、タリムだけを残していくこともできない。一応ミュール国の代表である、護衛もつけずに放置はできない。かといって魔物を呼び寄せる可能性がある護衛の4人を、たとえそのうちの一人でも街に残すわけには行かない。
その上、タリムは実は、魔導具作成の分野に於いて名の知れた人物であったらしい。・・・一昔前は、という注釈が付くが。
ザルツからの受け売りだが、タリムの作った魔導具は出力こそそれほど高くはないものの、その作品は常に魔導具の新たな活用法を模索したこれまでにないものばかりだったため、新機能の開発者としては有名だったのだそうだ。いつの頃からかその名は徐々に聞こえなくなっていったそうだが、その理由はザルツも知らないとのこと。
その経緯はともかく、魔導具を作り出せるほどの精霊の力を、タリムは持っているということになる。転生者5人に比べれば劣るかも知れないが、その力は強大だ。魔物を引き寄せない保証はない。どの程度の力が集まれば魔物が寄ってくるのかはわからないのだ。可能性がある以上置いてはおけない。
「タリムどの。申し訳ないとは思うのだが時間が惜しい。
出発の準備をしていただけるか」
「私にも事情というものがありますのでな。
出発は明日だというからこうして」
「そうか、やむを得ん・・・」
タリムの言葉を遮ったバイゼル将軍は、座ったままのタリムの背後にすばやく回り込み、その首に腕をかけた。
「な、なにをするつも・・・っ」
将軍がその腕に力を込めると、タリムはそれ以上喋ることもできず、そのまま意識を失った。
手荒な方法ではあるが、誰もそれを咎めることはなかった。日頃の行いが招いた結果である。
タリムの荷物はマティスが適当にまとめることになった。急いで準備を済ませ、馬車へ。ジェロスが抱えていたタリムを一台の馬車に放り込み扉を閉めると、私達もそれぞれに馬車に乗り込み、馬に乗って出発した。
ちなみにアルドはしっかりとついてきており、ザルツの馬車に乗っている。
まだ聞きたい話も多かったし、焦っていたこともあって着いてくるままにしていたが・・・まあ、自らついてきたのだから自己責任というやつだ。
途中でタリムは意識を取り戻すだろうけれど、それは馬車が走っている間になるだろう。馬車から飛び降りるような真似をされない限りは問題はない。
街から世界の果てまでは5時間ほど。その中間地点に向かうつもりだ。
果てまで行ってすぐにも調査を行うという案も出たが、そこには兵士の詰め所がある。調査にどれだけの時間がかかるかわからないし、その間彼らを危険に晒すことにもなりかねず、中間地点に野営を設置してそこから調査に通うことになったのだ。
馬車は荒涼とした風景の中を進んでいく。探知魔法に危険な反応はない。一先ずは安心していいだろう。
道中、私はずっと探知魔法を使い続けていた。広範囲を探り続けるのは非常に疲れる作業だが、それにも慣れておいたほうがいい。無意識でも常に使い続けられるようになるのが理想だが・・・それには察知する反応を選別して情報量を削る工夫が必要だ。今後の課題である。
ふと、私達のすぐ後方の反応が揺れる。透明なその光は炎のようにしばらく揺らいで、再び凪いだ。タリムが起きたのだろうか。馬車は一列に並んで走っている。私とヴォイドの反応の後ろに御者の反応、揺らいだのは更にその後ろだから・・・やはり、タリムだ。
「お父様、タリム様が目を覚したようです」
一応、報告しておく。探知魔法を使っていることを知るヴォイドは、特になにかを気にする様子もなく、そうか、とだけ呟いた。ふと思い出したように苦い顔を浮かべると、
「到着したらまずは長々と嫌味を聞かねばならないな」
そう言って笑った。
「あのおじさん、嫌な感じがするからきらいだわ!」
うん、ものすごく感じ悪いよね。あれだけ嫌味を言われて好きになれというほうが無理である。
「カナデもヴォイドも、あまり近づかないほうがいいと思うわ!」
近づかずに済むならばそうしたいところだ。
レイの言葉に心の底から共感しながら、私達は苦笑を浮かべた。




