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世界樹は夢を見る  作者: 深月
幼少期
43/201

42

魔物を一匹見ただけで、私達のルートを言い当てるということは・・・

やはり、魔物の分布には偏りがあるのだろうか?


「ええ、その通りです。

南の森を通り過ぎるあたりまでは、魔物には出会わなかったのですが」


アルドはモノクルを装着し、膝をついて魔物の死体を検め始める。瞳が赤いことを確認し、次に前足を軽く持ち上げ、最後に口の中を覗く。


「爪も牙も、魔物化するとこんなにも発達するのですねぇ・・・」


感心したように言うアルドは、こう続ける。


「遭遇した魔物たちは、北西側から・・・世界の果ての方向から襲ってきました?」


「ええ、確かにどの魔物も、そうでしたね」


あまり気にしてはいなかったが、確かに後ろから襲われたことはなかった。魔物の数が果てに近づくにつれ増えたことには気づいていたのに。


「魔物たちは待ち構えていたというよりは、向かってきたように思います」


記憶を手繰り寄せてみる。

カチアが魔物の反応を捉えると、私達はいつもある程度まで近づいて、向かってくる魔物の襲撃を迎え撃っていた。こちらから魔物の背後を襲ったこともなければ、魔物の居る場所に踏み込んで攻撃するということすらなかったのだ。


かなり遠くから、カチアが索敵を行うのと同じように魔物が私達を察知して向かってきたのか、そうでなければそもそも魔物たちが西から東へ進んでいた、ということになる。


「やはりそうですか!

途中で棄てられた街は?」


「ええ、ありましたね・・・けれど街が襲われたような様子は無かったと思います」


アルドの質問を受けて、私達が答える。それを幾度も繰り返した後、アルドはまたふむ、と頷いた。


「僕は1年ほど前にこの街にきました。ですからそれ以前の話は推測でしかないのですが・・・」


そう前置きして、アルドは話し始めた。


「いつ頃のことか詳しくはわかりませんが、世界の果ての周辺に魔物が増え始めました。その時点で多くの人が東に追われるように逃げ出したと聞いています。この街の南にある集落が棄てられたのは、およそ9年前。これは、その時期に南のルートを通ってこの街にやってきた補給の商隊の話を街の人が聞いたという話でしたので、恐らく大きなズレはないでしょう」


徐々にこの街の東にも魔物が現れはじめ、目撃談が一層増えたのはここ2年程のことだという。


「しかし不思議なことに、この街は襲われたことがないのです」


南の集落に襲撃の痕がなかったのは、その近辺に魔物が増え始めたのが集落を棄てた後だからだろう。しかし、この街は現在進行形で魔物の近くにあって、そこに大勢の人間が住んでいるにも関わらず、襲われていない。


「実はこの街には・・・というよりはこの国の西側の地域では、なのですが、精霊を宿していない人たちが結構な数いるのです。この国で生まれて、泉に赴く手段のない人たちですね。


そして僕がここに居着いてからこの街に南側からたどり着いたのは、全員が精霊の力が非常に弱い部類の人々で構成されているか、あるいはかなり強力な転生者を連れていたか、そのどちらかです」


一定以上弱いか、一定以上強いもの、ということ・・・?よくわからない。そこに共通点があるようには思えなかった。


「僕の推論に過ぎませんが・・・魔物は強い力に引き寄せられる、のではないかと。


つまり、力をほとんど持たない者たちは魔物に遭遇せずにここにたどり着き、強力な転生者は襲いかかる魔物を倒して、ここにたどり着く。

・・・その中間がいないのですよ。

そういった層は魔物に遭遇し、倒すことができず死んでしまったのではないかと」


「では、東に向かって魔物が増えているのは・・・」


「ええ、より精霊の力の多い東の国々へ引き寄せられていると、僕は考えています」


・・・それは、非常にまずいのではないだろうか。

アルドの推論が正しいとしても、アルディアやミュール、そして更にそれよりも東の国へ魔物が到達するまではまだかなりの時間的余裕があるだろう。

しかし、この街は違う。


「お父様!

この街から急いで出たほうがいいかもしれません!」


急いで出発して手早く調査を済ませて、私達はすぐにでも立ち去らなくては・・・!いや、調査を断念すべきなのかもしれない。

あくまで推論であるとはいえ、アルドの推測はそれなりの事例に基づいたものだ。


焦る私に、ザルツが頷く。


「少なくともこの街からある程度離れて野営を」


魔物の分布の話をまだ聞けていないが、今すぐにでも荷物をまとめて出発するべきだろう。

本当に魔物が精霊の力に引き寄せられてるのだとすれば・・・私達は、私を含め5人の転生者を連れている。それだけの数の転生者が一箇所に集まることは、アルディアでもそれほど多いことではない。

今の私達は、魔物の格好の餌かもしれないのだ。


ヴォイドが頷き席を立つのを合図に、私達は急いでアルドの家を出ようとマントを羽織る。


「あ・・・待ってください!

ぼ、僕も行きます!

まだ他の魔物も見せて欲しいですし!」


さすが変人と言われるだけのことはある。

危険なのはわかっているだろうに、好奇心のほうが勝るとは。


まずはバイゼル将軍達と合流して、宿に荷物を取りに行って・・・

タリムが文句を言う様子が鮮明に浮かんで、頭が痛くなる思いだった。

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