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世界樹は夢を見る  作者: 深月
幼少期
40/201

39

その日の夜、数日ぶりに私達はベッドで眠ることができた。

夕方頃に街の灯が見えて、周囲に魔物の反応もなかったためにぎりぎりまで馬車を走らせたのだ。


今は早朝。それもかなり早い時間だ。

馬車で眠ってしまった私は久々のベッドにも関わらず完全に目が覚めてしまって、何か温かい飲み物をもらおうと食堂に降りると、ちょうど手が空いたという女将さんから紅茶をもらい、そのまま話し込んでいた。


街は思っていたよりも大きかった。ここが集落としてはもっとも世界の果てに近いのだそうだ。もう少し西に兵士の駐在所があるため、食料品の供給や交代のために待機する兵士たちの宿場として需要があり、街として残っているのだ、というのは、宿の女将の話だ。

そういう事情もあってそれなりの・・・といっても廃墟になっていたあの集落よりもだいぶ広い、という程度の街ではあるのだが、その割にはあまりに人通りが少ない。時間帯の問題なのかもしれないが、ここまでの道のりでの経験からすればそれはあまりに楽観的な考えだ。


女将は、旅に訪れる子供が珍しいのか、単に子供好きなのかわからないが、にこにこと色々な話をしてくれる。


「年々魔物を見たって話は増えてるね。街が襲われたことが無いのが救いさ。

それでも逃げ出すように出ていく人間は多いし、新しくここに根を張る人間なんてほとんど居やしない。

いるのは相当な物好きか酔狂な学者さんくらいさ」


「学者さんがいるんですか?」


「ああ、この辺りでも変人って噂の獣人がね」


この付近を調査しているなら、何か情報が得られるかもしれない。学者の家の位置を簡単に教えてもらった。近くまで行けば誰かが教えてくれるさ、と女将が笑う。


「でもこの辺り、商人はどこから来るんですか?

魔物が増えていては行商にくるのも大変でしょう?」


「営利目的の行商なんてしばらく来ていないさ。

西に兵士の詰め所があるからね。そこの補給にくるのさ」


なるほど、西の詰め所がなければ、完全にこの街はお手上げということか。

仮に異変が続いて、兵士が引き上げてしまうようなことがあれば・・・たくましく生きているこの街の人たちが困るのはあまり見たくない。特にこんなふうに気のいい女将さんとかね。


「補給はいつも北側のルートから来てると思うよ。

気を利かせて街への商品を多めに積んできてくれるんだ。有難い話さ」


北側、つまり私達とは反対のルートだ。そもそもスタート地点が私達の場合は果ての南側だったから南側を通ってきたけれど・・・北側のルートを通るということは、ミュールから出発しているのか、あるいはアルディアから出発しているのに大幅に迂回しているかのどちらかということになる。

ここに兵士を派遣している国は一箇所ではない。というよりは、全ての国が派兵している。世界の果ての調査は世界全体に影響する問題だという認識から、今回の調査団同様4カ国で共同で行っているのだ。それも、「今回はアルディアから派兵してください」「じゃあ次回はアイゼストが」みたいな感じではなくて、世界の果ての調査のためだけの連合軍のようなものがあるのだ。

連合軍の本部はミュールとアルディアの国境近くにあると習った記憶があるが・・・それ故に西の国に入るルートはいくつか選択可能なわけだ。


「おばさま、貴重なお話をありがとうございます!」


にっこりと笑った私に女将は、随分と礼儀の正しい子だね、と笑って部屋へと帰る後ろ姿を見送ってくれた。


学者の話と、できれば待機しているであろう交代の人員にもルートの話を聞きたいものだ。もしかしたら魔物の分布が極端に偏っている可能性もある。北側のほうが安全性が高いのならば、復路はルートを変えてもいいのだし・・・空間転移で帰ってしまってもいいような気がするけれど。

空間転移はその場所のヴィジョンを基に出口をつないでいる。見たことのない世界の果てに跳ぶことはできないが、アルディア国内に転移することはできる。入り口を大きくすれば馬車ごと通ることも可能だろう。


しかし、この魔法はあまり知られたくない。特にミュールの人には。

タリムがどうこうという問題ももちろんあるのだけれど、この魔法、使い方によってはマジックボックスよりも商人向けなのだ。行商の起点と目的地をつないでしまえば移動の時間を無駄にすることなく商売ができる。品切れを起こしたらすぐに補充に戻ることもできる。まぁ同様の理由で軍隊の行軍向きでもあるのだけれど・・・

とにかくそういう事情もあって、空間転移のことはシエラとヴォイド、ジル、そしてレイにしか教えていないのだ。


魔法の存在を秘匿しつつ安全に帰る手段があるのならば、それを選ぶのがベストだろう。

そろそろヴォイドも目を覚ましているだろうか。

相談したいことが、いっぱいだった。

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