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世界樹は夢を見る  作者: 深月
幼少期
32/201

31

ショートソードを横薙ぎに振るう。

襲い掛かってきた黒い魔物は、私の頭を噛み砕かんとして前足を浮かせていた。その下に露わになった腹部を私の剣は捉え、迫っていた赤い双眸が怯んだように下がる。


私達は、本日二度目の襲撃を受けていた。

相手は魔物。野犬の群れだ。


猪の魔物に比べればその力は大したことはないが、素早く、そして数が多い。

剣で幾度と無く切りつけているが、そのたびに避けられたり、あるいは後ろ足で跳躍して衝撃を殺されたりと、リーチの短い私には相性の悪い相手だ。

一方ジェロスは、捕まえさえすれば力押しの効く相手。既に数匹の魔物の喉をその腕力で潰している。


目の前の一匹に集中する。

避けられるならば、避けられなくしてやればいい。

イメージするのは光の檻。狙うのは跳躍した魔物が着地する瞬間。


今!

魔物の足が衝撃を吸収するために沈み込み、動きを止めた瞬間に魔法を発動させる。

丁度魔物の体一つ分の小さな檻で囲み、身動きを取れなくなった魔物に、檻の隙間から刺突を放つ。加速を乗せたショートソードは容易くその眉間に突き刺さり、命を奪う。


・・・考えてみれば檻じゃなくて、網とか縄でもいいんじゃない?


そんなことを考えられる程度には余裕があった。連続する戦闘に感覚が麻痺しているだけかもしれない。


ジェロスに纏わり付く2匹の魔物の下から上へ、つむじ風を起こす。突如巻き起こった突風に、2匹の魔物の体が宙に浮く。足場がなくなれば魔物といえど移動することはできない。浮き上がった2匹の頭を鷲掴みにしたジェロスは、それらを胸の前で叩きつけた。

お互いの頭蓋骨で砕かれた頭からは血がしたたり、その舌がだらしなく垂れていた。

エグい殺し方をするものだ。しかし今のも、風を起こさなくても単純に魔物を浮かせてやればそれでよかったような気がする。


「助かるぜお姫さま!」


バイゼル将軍とヴォイドの剣もまた、それぞれ1匹ずつ魔物を仕留めたところだった。あと1匹。

魔物は囲まれて一瞬怯んだように頭を下げたが・・・赤い瞳は御しやすい相手を選びとったようで、一気に駆ける。向かった先にいたのは、肥太って動きの遅そうな相手・・・実際遅いのだが・・・タリムだった。


「ひっ」


手負いの獣、ではないが、追い詰められた魔物の突進は十分な威圧感を有していただろう。タリムは顔面蒼白になって悲鳴をあげ、後ずさろうとして尻もちをついた。走り出した魔物の首筋を、しかし容易くマティスの矢が貫き、魔物は矢が放たれた方向から吹き飛ばされるようにして地に落ちた。


無傷での勝利。戦闘にはだいぶ慣れたような気さえする。何をイメージして魔法を発動するかには反省点は多いが。以前レイに言われたように、魔法は使い手次第、である。

広範囲を殲滅できて、なおかつ味方を巻き込まない魔法を編み出したいところだ。


魔物の死体をザルツが回収していく。

そろそろ日も傾き始めている。野営の準備をしなくてはならないが・・・血の匂いが漂うこの場所でそのまま野営を行うのは遠慮したかった。



結局、もう少し進んでから野営を行うことになった。私達は怯える馬をなだめ、再びほんのしばらくだけ馬車に揺られることになったのだった。


余談だが、魔物たちと戦闘を行った私達は全くの無傷であった。そのためティテスの回復魔法の出番はない、と思われたが、タリムが転んだ拍子についた手の下に運悪く尖った石があったようで、彼がこの戦闘唯一の負傷者となった。ティテスによる治療が終わるまで、まるで一大事のようにひどく痛がってはやく治療をしろと喚き散らしていたが、勿論そんな大怪我ではなかった。



木の枝を拾い集め、魔法で火をつける。

少し薄暗くなってより気温が下がっていたので、炎のあたたかさが身にしみる。

しばらく暖まってから、私は水桶を一つ借りてその中に魔法で水をいっぱいに満たした。


布を絞ろうと右手を浸すと、思った以上に冷たくて思わず顔を顰めて手を引っ込める。こんなので拭いたら体全体が冷えてしまう。

溜められた水の温度が上がっていくイメージで魔法を使うと、少ししてぼこぼこと泡を立て始める。・・・やり過ぎだ。水球を作るのと同様に、どこまで加熱するのかをイメージするべきだった。今度は40度位のぬるま湯をイメージする。ああ、お風呂が恋しいなぁ。


少しして恐る恐る手を浸してみると、丁度よくあたたかい。そのお湯を使って顔をじゃぶじゃぶと洗う。ヴォイドがほとんど拭ってくれてはいたが、固まった血は完全には取れていなかったようだ。桶の水がほんの少し色をつける。続けて、髪の毛。本当は思い切り洗いたいけれど・・・束状になった部分に少しずつ水をつけてほぐしていくと、やはり赤い水が滴り落ちていく。


できる限り丁寧に洗い落とし、最後に固く絞った布で首筋を拭く。自分の身を浄めたあとは、ヴォイドのために再び温かいお湯を張り直して焚き火の前に戻った。


焚き火を囲む私達の空気は悪い。最悪と言ってもいい。

原因はタリムだ。右から左に聞き流していたが、体を拭いている間にもずっと、何やら一人喋り続けていた。さて、私が戻れば標的は私になるのだろうか。

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