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あたりを見回し、欠けているメンバーがいないか確認する。全員無事のようだ。
念の為探知魔法を使ってみるが、森の中にまばらに動物と思われる反応があるだけ。残党はいないようだ。少なくともこの場でもう一度襲われることはないだろう。
それを伝えると、バイゼル将軍が深く頷いた。皆安堵の表情を浮かべているが、死体の散乱する状況に、まだ緊張感が残っている。
私が切りつけた盗賊は既に息絶えており、ぴくりとも動くことは無かった。地面に拘束する一人だけが未だ生きているが・・・バイゼル将軍が自分の剣を拾い上げると、盗賊に向かって問いかける。
「これで全員か?」
「・・・あぁ」
盗賊団のメンバーはこれで全員。根城に残っている者もいないという。
「そうか」
言い放ち、将軍の剣が盗賊の胸に突き刺さる。あっさりと息絶えた最後の生き残りを含め、盗賊団を討伐した証に全員の右の小指を切り落としていく。・・・見ていて気分のいいものではない。さすがにそれを手伝う勇気も根性も無く、マティスとジェロスにお任せしてしまった。
カチアは、余程怖かったのか、まだ一人立ち尽くしたまま震えていた。
ザルツがカチアのもとに向かっていくのが見えた。彼女に労りの声をかけるならば、やさしげな空気を纏うザルツは適任だろう。
「カチアさん、お怪我は、ありませんか?」
無言でコクリと、カチアが頷く。声を掛けられたことで張り詰めていた糸が切れたのだろうか、ポロポロと涙が頬をつたっていく。
「も、もう大丈夫ですから!ね、泣かないでください・・・」
「わ、わたし・・・ごめんな、さい・・・
ごめんなさい・・・!」
謝罪を繰り返し口にするカチアの涙は、止まらない。焦るザルツの姿を見ていると、なんだか周囲の空気が和らいだような気がした。
「ふん、ごめんで済むような失態ではない!
護衛が足を引っ張るなど・・・!!」
タリムが怒りの声をあげた。またこのおっさんは・・・とも思うが、残念ながら今回の発言についてはタリムに分がある。護衛が人質になって護衛対象を危険に曝したのだ、それは明らかな失態には違いない。
こういう言い方をしては難だが、護衛の4人、全員が能力が一点特化すぎるのだ。カチアは索敵以外戦闘は素人と言っても言い過ぎではないくらい、役に立たない。索敵は確かに非常に重要であるし、できる者がいるといないとでは旅全体の行程において大きな違いが出る。いなければ、常に魔物の襲撃を警戒し続けなければいけないのだから、その精神的、肉体的疲労は凄まじいものになるだろう。今回のように盗賊に襲われる場合でも、相手の人数や来る方向が事前に察知できれば、今回のマティスの弓のようにすぐに迎撃を行うことができる。
重要なポジションだ。だが・・・
「自分の身も守れぬ者に護衛など務まるわけがないではないか!
アイゼストの武も質が落ちたものだな!!」
前半は同意できるが、後半は・・・余計な一言ではないだろうか。
自国から自信を持って4人を連れてきたバイゼル将軍は、返す言葉もない、というように目線を下げてしまった。
タリムの小言はひたすらに続く。いつまで続くのか・・・もうこれ以上は無駄な時間である。問題点を指摘するのは構わないし、的はずれなことを言っているわけでもないからそれはいい。だが、解決策を提示するわけでもなくただただ文句を言い募るだけならば、それは単なる愚痴である。相手の弱味を突き、言い返せないのをいいことに、溢れる不満の言葉は止まる兆しを見せない。
「タリム殿、もうよかろう。
カチア殿の失態は本人が一番よくわかっておるだろう。
彼女が護衛失格というのならば、私もまた王としては失格だ。
彼女を見捨てられずに武器を捨てたのだからな」
ヴォイドが口を挟むと、タリムはヴォイドに対しても不満を抱いていたのを思い出したかのように、不機嫌な顔を浮かべる。
「そうでしたな。
今後は優先順位をお間違えのないようにしていただきたいものですな!」
ヴォイドに対して強い態度は取り切れなかったようで、そこでやっとタリムは口を閉じた。不満を聞きながらも動いていたジェロスたちのおかげで、盗賊たちの死体はみな小指を切られ、私が魔法で掘った穴の中に集められていた。
人間の死体といえど、その全てを街まで運ぶことはできない。まして彼らは盗賊だ。討伐を推奨される者たちの死体を持って帰ったところで、引き取り手がいるわけもない。ならば、その死体は魔物や動物同様、焼き払うか埋めるかである。
穴の中に、マティスが炎の矢を放っていく。次第にあたりには肉の焼ける匂いが広がり、黒い煙が立ち昇る。
この匂い、嫌だな。
作業を終えたマティスとジェロスを含め、全員大きな怪我はなかった。
ただ一人カチアだけは、腕を捻り上げられていたのだろうか、腕に真っ赤な手の痕が残り、肩がはずれているようだった。
無理やり肩を嵌め込んだりするのだろうかとちょっと治療の様子を見たくない気がしたが後学のために必死に目をそらささずにいたのだが、ティテスが軽く肩に添えて目を閉じると、それだけで治療が終わってしまった。
大事無くてよかった。よかったが・・・調査団のメンバーの中に生まれた不協和音が、新たなトラブルを招くのではないかと思うと、安心し切ることはできなかった。




