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アルディア国の最西端、イムの街。
西側に広がる開拓者の国との国境の町だ。新天地への希望を胸に成功を夢見る人々の旅立ちの街であり、夢破れた人々にとっては関門の街でもある。
西の国は広く人材を受け入れている。指名手配さえされていなければほぼ誰でも入国が可能だ。一方で西の国からアルディアへ入国する際には審査が行われる。犯罪歴のあるもの、虚偽の申告をする者は入国できない。
とはいえ写真があるわけでもなければ、犯罪歴がある、ないを事前に調査する機関があるわけでもないため、逆に言えば犯罪を犯したことがないという証明は非常に難しい。
そこで使われるのが、魔導具だ。
水晶型の魔導具なのだが、触れたら犯罪歴がわかる、なんていう便利機能は残念ながら開発されていない。
この魔導具、簡単に言うならば嘘発見器である。
入国希望者は水晶に手を当てた状態で、騎士たちによる細かないくつもの質問に答えなくてはならない。そこで過去の犯罪が明らかになったり、あるいは過去を嘘で誤魔化そうとしたりした者は入国を断られることになる。
そういった審査を行っているためイムの治安は概ね良好だが、やはりぎらぎらとした空気感があったり、あるいは入国して間もないのであろう、ひどく疲れたような雰囲気を纏う人々が目につく。残念ながらアルディアの中では最も問題の生じる地域なのである。
イムの街の東側で一泊した私達は、これから国境を超えてさらに西を目指す。
アルディアではそれなりに気を抜いていた護衛の転生者たちも、なんだか雰囲気が変わり、以前よりも油断なくあたりを警戒し始めた。
その少し緊張した空気に、ここからが本当の始まりであるような気がした。
とはいえ、国境を越えてすぐに何かがかわるわけでもない。
植生も、一応整備された街道も、がらりと景色を変えたりはしない。陸続きなのだから当然なのだけれど。
ただ、イムの街から西へと渡る人々の列に比べて、逆に西の国側、つまりアルディアに入ろうとする人々の作る列は明らかに長かった。土地の拡大が止まっていることで、故郷に戻ろうとする人々が増えているのだという。
この数の審査を行うのは大変そうだ。実際審査にたどり着くまで数日待ちになっているらしい。
列をなす彼らの横を、逆側に馬車が進んでいく。まず目指すのは、通称始まりの街。
西の国、とか始まりの街、といった呼び方をするのは、正式な名前が無いからだ。
開拓者たちによって少しずつ発展していくこの国には、明確な指導者がいない。国の中でも東側はそれでも作られてからそれなりの年月が経っており、街に有力者などはでてきているが、西に行くほどその歴史は浅く、集落が点在している、といった状態に近くなる。
王や、そこから任命された領主などいるわけがなく、治安の維持やインフラの整備など、全てがそれぞれの街の人々が協力して行っているのが現状であり、いわば全ての街がそれぞれに自治区なのだ。
そんな状況で一応国として扱われているのは、始まりの街を始めとする東側のいくつかの街が、街道を整備し、またそれらを管理していたり、孤児の保護や街の人々への就職斡旋の支援をしていたり、法律とまでは言えないもののいくつかの街にまたがる共通のルールを設けたりといった風に、統治を行っているからだ。
そのうちこの地域の西側を切り離して正式な国として成立するだろう、という予測が立ち、かつ開拓したのはこの地域の人々自身であるから横槍を入れるわけにも行かないという事情もあり、名称もないまま一応の”国”として扱われているのだ。とはいえ安定した国となるのはまだまだ年月が必要だろうけれど。
そういった理由で、この国の東側を旅する分にはそこまでの緊張はない。犯罪の取締も街の警備も自警団が行っている。
まだしばらくは、平和な旅が続くだろう。
今後は各街の宿をとり、時にはまた野営をしながら進むことになる。
初めての旅、初めての国外。
馬車の揺れにすっかり慣れた私は、膝の上でくつろぐレイに問いかける。
「レイも、いろんな景色が珍しかったりするの?」
「うーん・・・まぁ、直接見るのは初めてね!
ただ、なんていうのかしら。
あたしたちはなんとなく世界とつながってるっていうか・・・
感覚を共有してる、みたいな感じかしら?
だから初めての景色でもなんとなく知っているような気分になるのよね」
なるほど、精霊はこの世界とやはり密接に関連しているらしい。
「でも、旅をして実際に目にするのはそれとは違う感じで楽しいわよ」
そういえばアイゼンではレイも楽しそうにしていたっけ。
一応人の多いところではあまり喋らなように気をつけているみたいで、レイは黙って肩の上に乗っていることが多い。
レイみたいな存在がもっとたくさんいれば、周りの目を気にすることもないのだろうけど・・・そんなに大勢の転生者がいるわけもないか。
でも、いつか気にしなくてもよくなったら。
レイともう一度旅をするのもいいなぁ。
そんなことを考えていられる程度に、旅はまだまだ順調だった。




