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一団は潮風を浴びながら海沿いの開けた道を進んでいた。
かなり遠くの方にではあるが船らしき影が時折見える。昼過ぎには次の街、アイゼンに到着する予定だ。
到着後は馬車を領主に預け、御者たちが必要な物資を補給する間、私達は視察と言う名の観光ができることになっている。
アイゼンは海沿いの街であると同時に森の恵み豊かな街でもある。街の南側に海が広がり、丁度逆方向、北側には実り豊かな森が広がっており、自然のままの部分もあれば、一部を果樹園として切り拓いていたり、あるいは香辛料や砂糖を栽培していたりもする。
イメージ的には、南国。・・・元日本人の考える南国なんてそんな大雑把なものでしかない。発想が貧困、という自覚はあるのだ。
自然の風合いを残した灰色の石材が積まれた建物に、場所によって真っ白だったり赤茶だったり、長方形の煉瓦を敷き詰めて作られた通り。灰色の建物は殺風景な印象を与えそうなものだが、あちらこちらに植えられた樹木の緑の葉と、街の至るところから見える海の青色に彩られて、その町並みは美しかった。
森林を擁する街は木材の調達も容易なのだろうけれど、海から吹く風によって傷みが早い。テラスだけ木の風合いを取り入れている建物も多いが、基本は石材である。
それは領主の屋敷も同様で、背の高い木々が数多く植えられ、庭には芝生が敷き詰められ、木陰には木製のテーブルと椅子が置かれている。
木陰で読書が捗りそうだ。
馬車を預けた私達は思い思いに散策に出る。領主付きの騎士が護衛についてくれるため、アイゼストの4人の護衛たちも午後は完全にオフだ。
現地の護衛がついてくれるメリットは他にもある。観光案内だ。
ヴォイドは幾度も視察に訪れているから、今日の行き先は私に任せてくれるという。どんなところがいいだろう。景色が綺麗な場所、買い物ができるところ、あるいは食道楽・・・
悩む私をヴォイドはいつもの優しい面差しで眺めている。この午後の時間は、私を娘として扱ってくれるという。父親とのデートがこんなに嬉しいと思ったことは、多分日本にいた頃にはなかった。ごめんね日本のお父さん。何が違うのかはわからない。王としての顔を見ているからだろうか。全ての人々に常に公平な王様を、わがまま放題独占できるのだから。
まずは、買い物に出かけることにした。
お土産を買いたいのだ。家で待つシエラとジルに。
二人は国内のお土産など貰い慣れているかもしれないが、事前に聞いているアルディアを出た西側の様子からは、落ち着いて買い物ができるのかどうか不安だった。
護衛の騎士が案内してくれたのは、たくさんの露店が並ぶ広い通りだった。
曰く、お勧めの店もあるのだけれど、こういう賑やかなのは観光という感じがするでしょう?とのこと。
その意見には同意せざるを得ない。
人々が広げる露店には、この地域で取れるフルーツや海で揚がったばかりの魚介類が並んでいたり、果物をジュースにして売っている店、木製の食器を並べる店や、色とりどりの貝殻を使ったアクセサリーを扱っているところもある。
今日は思いっきり甘えてやろうと決めている。ヴォイドにジュースをおねだりし、買ってもらった冷えたジュースを二人で飲む。露店の一角で見世物をしていれば、ヴォイドに抱えてもらって見学してレイと3人で笑い合う。
時間を忘れて遊び尽くして、私は最後に夕日の見える場所をリクエストした。
ここはアルディア国のなかでも西の方に位置する。遮るものなく大きく見える夕日と、それを反射して光る穏やかな海は、今まで見たどんな景色よりも強く私の記憶に残るだろう。
私は、きちんと両親の娘でいられているだろうか。
奏が邪魔をしていないだろうか。
消えたはずの罪悪感は、小さいながらも、まだ私の心に燻っている。
「お父様、お母様とジルお兄様は喜んでくれるでしょうか」
桜色の貝殻で作られた髪飾り。シエラが選んでくれた桜色の服と、その色合いはよく似ていた。
木材に細工をあしらった、ほのかに香木の香りがするしおり。風の魔法を習得するために、ジルはたくさんの本を読んでいた。
それから、小さな手鏡を。父と王、ふたつの顔を持つヴォイドが、いつでもその堂々たる姿を写し出せるように。
家族の理想の姿などわからない。けれど、今まで注がれてきた愛情と同じくらい、私も今の家族が大好きだ。無駄にした6年を、取り返すんだ。
今度はレイも一緒に。
私はこの、精霊と魔法の世界を、生きていく。




