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その日は昨日とは打って変わって、なんのトラブルもなく過ぎていった。
結論から言うと、私の新しい魔法は成功した。
飛翔の魔法、そして身体強化魔法どちらも、だ。
自由に空を飛べたことに大喜びする私に、レイは相変わらず夢のないことを言っていたが、できないこととできるけどやらないことは別物だ。仮に使いどころがなかったとしても、飛べないよりは飛べたほうがいい。
探知魔法の範囲に、危険な反応はない。今日は野営になる。
この旅での野営の際は、身分に関係なく全員が交代で見張りをする。さすがに全員で眠りこけても問題ないほどに安全な世界ではない。これが例えばもっと近距離への移動で護衛を雇っての旅であれば雇い主はゆっくりと眠るのだろうけれど、世界の果てへの道程は長い。護衛だけに夜の番を任せて日中のパフォーマンスが落ちてしまっては護衛としての意味をなさなくなってしまう。
そんなわけで、焚き火を囲んで見張りの順番を決めたところで、もう慣れてきたタリムの嫌味が始まった。慣れてきたとはいえ、一日の終わりに聞かされるのは気分がいいものではないし、朝一番のときは尚更だ。
「子供に夜更しは負担でありましょうし順番はお譲りしますがね。
配慮した以上は全うしていただかないと。
先日のように眠りこけてアルディア王に手間をかけさせないことですな」
配慮というのはつまり、私とヴォイドで最初の番をすることが半ば前提のように話が進んだということだ。最初と最後が一番まとまった睡眠時間を取れるし、最後の、つまり朝の番と違って最初ならば朝食の準備なども必要ないので、最も負担が少ないわけだ。本当なら自分が最初の番をしたかったのだろう。
「お気遣いありがとうございます、役目はしっかりと果たします」
適当に流そうとした私だったが、ヴォイドは貼りついたような笑顔を浮かべ、言い放った。
「ティエラへの気遣い感謝する。
私は旅の間ティエラを対等な一人の同行者として扱うよう努めている。
仮に眠ってしまうようなことがあれば勿論叩き起こすさ。
・・・とはいえやはり大事な愛娘なのでな。
あまり侮辱が過ぎるようならば、ミュール国王にそれなりの抗議をすることになりかねんぞ?」
度重なる私への嫌味な態度を、王としては見てみぬふりをしていたが、親としては腹にすえかねていたらしい。笑顔が怖い。逆に怖い。
タリムはこれまで父王から私へなんの助け舟も出されないことで、自分の行動が許容されていると思っていたのだろう。急な口撃を受けて言葉を失い、ふるふると悔しそうに握りこぶしが震えている。
他のメンバーの視線もまた、ヴォイドの言葉に味方するように、批難の目でタリムを見ている。この空気はちょっと居た堪れないが・・・私がフォローに回っても逆効果だろうな。
それにしても、一国の姫に対する扱いとしては、私への態度はどうなのだろう。バイゼル将軍もタリムもそれなりの地位ではあるのだろうが、仮にもヴォイドは国王で、私はその国王の同行者であり娘である。ヴォイドに対して敬意を払っているのはよくわかるし、それはまぁ立場的に当然のことだが、私の中でのお姫様のイメージって、もっと腫れ物を触るような扱いをされるものなんだけどな。いやそうしてほしいとかではなく、上下関係どっちが上なんだろう、ってこと。
しかし、ヴォイドが私を姫としてではなく同行者として扱ってくれているのだから、私も同じようにするべきだろうと思っている。タリムも将軍も護衛の4人も、同じ調査団のメンバーとして対等に考えている。まぁだからといってそこに身分の差や立場の差がないわけではないから、護衛4人と他国からの使者をまったく同列にすることはできず、敬称で差をつけたりはしているが。
・・・ザルツのことをつい忘れてしまう。おどおどして喋らないんだもの。
結論として、私の中では「まぁいっか」である。ヴォイドが父親として怒ってくれたことは嬉しいし、普段同行者として扱ってくれることも嬉しいのだ。私は満足している。タリムの嫌味など今後も適当に右から左、だ。
「皆、もう休むといい。
カチアどの、マティスどの、2時間後に起こさせてもらう」
私とヴォイドが一番始めに2時間。次がマティスとカチア、ティテスとジェロス、最後がタリムとザルツ、バイゼル将軍の3人だ。一応戦える人間を一人ずつ配置して、かつ立場諸々考慮した結果がこの順番だった。
それぞれが、設置したテントへと入っていく。馬車の中では御者がもう眠っている頃だろう。御者は一日中交代無しで馬車を走らせるのだから、見張りは無しだ。
念の為探知魔法を広げる。魔物の反応はない。
一瞬、テントの中の反応が揺れた気がしたが、目を凝らすとなんの反応もない。
少しそれが気になりながらも、もう異常無くなったものは確認しようがない。
焚き火をヴォイドとレイとで囲みながら、皆を起こさないよう小声で話をする。
初めて両親を見たときのこととか、ジルが読み聞かせてくれた絵本の話。ヴォイドは私が生まれる前の、男ばかりの4兄弟だった頃の、兄弟のやんちゃ話や、一緒になってシエラにいたずらした思い出を、穏やかな顔で聞かせてくれた。
あたたかな焚き火の炎が、時々パチパチと音を立ててゆらめいた。




