21
目を覚ますと、あたたかなベッドの中だった。
私が目を開けたのに気づいたレイが、ヴォイドのほうへと空中を踊るように飛んでいった、
ちりん、ヴォイドの手元で、軽やかな鈴の音が鳴る。
体を起こして目をこすったところで、ドアをノックする音が響いた。
「温かいミルクと、軽食をご用意いたしました」
トレイを持って入室したのは、狐耳のまだ年若いメイドさん。
先程の鈴の音は彼女を呼んだ音だった。
「ありがとうございます」
机の上に置かれた、湯気を立てるミルクとサンドイッチ。はじめて、お腹が空いていることに気づく。
頭を下げて退室していくメイドさんを見送ってから、ホットミルクに手を伸ばす。眠ってしまった私を、ヴォイドが運んでくれたのだろうか。
カップを傾けてほんわかする私。軽食を用意してくれたということは、夕食の時間はとうに過ぎているのだろう。
「食べたらもう少し眠るといい。
慣れない長旅だろう、きちんと休みなさい」
ヴォイドに言われるまま、サンドイッチを平らげた私は、再び朝まで眠りについた。
翌朝。身支度を整え部屋で朝食をとった後、馬車の前に集まる調査団を前に、私は頭を下げていた。
「昨日は眠ってしまったようで、あの・・・ごめんなさい」
「ふん、転生者といえど幼子に変わりはありませんな。
大方力の使いすぎか何かでありましょう?分を弁えないから・・・」
尚も続こうとするタリムのお小言を遮って、バイゼル将軍が言う。
「ふむ、幼いながらも頑張ってくれている、気にすることはない。
力の使いすぎであったとしても、そうまでして状況を打開してくれたのだ。
謝ることはない」
遮られ、言葉尻を取られたタリムは厳しい顔で一瞬バイゼルを見て、すぐに私を睨みつけた。将軍相手に怒りを向ける勇気はなかったらしい。
正直、なぜタリムにここまで敵視されるのかわからない。ただ幼いという理由でここまで邪険にされるものだろうか?
あるいは、転生者に対する嫉妬をぶつける相手として丁度よかったのだろうか。
幼さも転生者であることも、どう足掻いても変えようがないので、そうなると打つ手はない。
来るときには見られなかったクロウの街を窓から眺める。
クロウの街は内陸部に位置し、緩やかな丘をひとつ、街にしたような場所だ。
郊外では牧畜が盛んで、田舎町というほどではないが、時間がゆっくりと進んでいるような素朴な街だった。
飼育される動物も、牛や馬、羊など、馴染みにあるものだ。馴染みがあるといっても日本であまり見たことはないけれど。
そんな中、上空からピューイッという軽やかな口笛が聞こえた。
見上げてみると、翼の生えた人が飛ぶのを先頭に、たくさんの鳥たちが群をなして空を横切っていく。
「お父様、あれは?」
「ロロという鳥だな。手紙を運ぶのに使われる賢い鳥だ。
ああやって翼を持つ獣人が飼育し、調教してくれている」
伝書鳩的な存在であるらしい。
それにしてももともと翼を持って生まれた獣人であるとはいえ、あのサイズの翼で空を飛べるのは何か秘密があるのだろうか。それがわかれば私も空を飛べそうな気がするけれど。
「お父様、ああいった獣人たちは、皆幼い頃から飛べるのですか?」
「いや、翼を持っていても、あのように高く飛ぶことができるのは少数だと聞いている。
少なくとも精霊を宿すまでは飛べないという話だが」
つまり、精霊の力を何らかの形で使っているということか。
カチアに教わった索敵は、精霊の力を探知していた。・・・あれの範囲を思い切り狭くすれば、もしかして。
私は探知の魔法を自分の視界の範囲内だけに集中させた。
ヴォイドを見る。体全体に透明でゆらぎのない光が見えた。
自分の手を見る。右手に力を集めてみると、その部分の光が増した。
・・・これならいけるかも。
再び空を見上げ、空を舞う獣人の姿を探す。
その姿に重なって澄んだ光が見えるのと同時に、うっすらとした光が体全体を包み、尚且つその球体の光から時折別の力が外側に広がるのが見えた。
・・・どんなイメージを浮かべているのか可視化できたらいいのに・・・
そう思いながら観察していると、外側に力が広がったときにだけ、獣人の飛ぶ方向や高度が変わっていることにきづいた。
おそらく、体を覆っている球体をうかせ、その外側の力が推進力。・・・多分。
体を浮かせることだけは簡単だ。空気より軽くすればいい。浮かせた体のほうを動かすことじゃなく、外から体を押してやると考えれば・・・いい?
また一つ試してみたいことが増えた。
私にとって既にこの旅の成果はかなり大きい。探知魔法、身体強化を覚えて、マジックボックスと飛翔の魔法の可能性を掴んだのだから。
今日は野宿の予定だ。野営のときに試してみよう。




