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世界樹は夢を見る  作者: 深月
幼少期
20/201

19

安堵のため息が漏れる。それは私だけのものではなくて、タリムやカチア、ヴォイドからも聞こえてきた。


「ティエラ、怪我はないか?」


「大丈夫です、お父様」


笑顔を返して、父の傍へ。頭に大きな手がふわりと触れる。

優しい父に危険がなくてよかった。


私の前に、バイゼル将軍が歩み寄る。嫌味の一つも覚悟して、私は背筋を伸ばした。

すると将軍は地に片膝をつき、目線の高さを合わせて私を真っ直ぐに見て、言った。


「見事だった。

非礼の数々、お詫びしたい。許してもらえるだろうか?」


予想外の言葉に私が驚いた顔を浮かべると、続けて


「ジェロスがかすり傷で済んだのは、カナデ殿のおかげだ。

・・・ありがとう」


「お役に立てたようで、なにより・・です・・・」


そう返すのが精一杯で、後半はなんだか口篭ってしまった。

ジェロスさんがかすり傷・・・というのは私が突き飛ばしたせいかもしれない。

必死だったとはいえ思い切り押してしまったからなぁ。


「ジェロスさん、突き飛ばしてごめんなさい・・・」


「あ、あぁ、いや・・・おかげで、助かった」


幸い怪我は本当にかすり傷だったようで、ティテスの魔法でものの数秒で治療が終わってしまった。回復魔法、練習しないとな。

魔法の練習に思いを馳せると、ふと思い出した。ジェロスの身体強化魔法だ。どういうイメージで発動させているのか、是非とも聞いてみたい。聞いてみたいが・・・なんとなく気まずい空気が流れる中、聞いてもいいものだろうか。


聞いていいものかとジェロスの顔をちらちらと見ていると、物言いたげな私の姿に覚悟を決めたようにジェロスが言った。


「お嬢さんのほうが強いよ、認めるさ・・・」


「あ、いや、あのそうじゃなくて・・・っ!

あの、その・・・身体強化魔法のコツ、教えていただけませんか・・・?

以前から試してみてはいるんですけど、うまく発動しなくて・・・」


「・・・嫌味を言われるかと思ってたよ。

そうだな、えぇと・・・俺は転生前、オークっていう化物に殺されたんだ。

オークって知ってるか?ばかでかくて、馬鹿力で攻撃的な化物だ」


小説に出てくるようなオークであれば、なんとなく想像はできる。


「まぁそいつに殺されたせいか、そいつの太い腕や足が記憶に残っててな。

自分の手足がそいつの手足に覆われるようなイメージで魔法を使ってる」


なるほど。何も自分自身の力を底上げすることにこだわる必要はないわけだ。

さすがにオークの手足まで事細かに想像することはできないが、例えば、そう、パワードスーツのようなものをイメージすればどうだろう?

介護用のスーツとかならテレビで見たことがあるし、ただ単に自分の腕を補佐する力強いアームが存在すると思うのもいいかもしれない。


「・・・手がかりがつかめた気がします!

ジェロスさんありがとうございます!!」


クロウの街についたら早速試してみよう。今はとにかく日が暮れる前に街にたどり着かなくてはいけない。ここで魔法の特訓をするわけにはいかないのが歯がゆいけれど、手がかりはつかめた。

その喜びに愛想笑いを忘れて全力で笑顔を浮かべてしまう。

バツが悪そうな顔をしていたジェロスも、未だなお私をうざったそうに見るタリムも、一瞬惚けたような顔を浮かべた。


「さて、魔物の死体、どういたしましょう?」


咳払いをしてタリムが話題を変える。

先程は魔物が突進しようと体を下げていたから鼻先に手が届いたが、普通にたった状態ではおそらく私の背では届かなかっただろう。つまり、高さにして150cmほど。かなりの巨体だし、その重量もかなりのものだろう。


「普通ですとどうするのですか?」


「革には値がつくかもしれないが、それだけのために解体する程の価値にはなりますまいな。

内蔵は薬の材料になったとは思いますが・・・」


一番高値がつくであろう部分は、私が内側から焼いてしまったということか。


「とはいえ放置していくわけにもいきますまい。

炎で焼き尽くすか、穴を掘って埋めるか、ですかな」


「あ、あの・・・っ!」


腕組みして魔物を見下ろすタリムに、気弱そうながらも大きな声がかけられた。

トリス国の研究員だ。・・・そういえば名前を聞いていない。


「えぇと、トリスの・・・ザルツ様でしたかな。何か考えがおありで?」


「は、はい、あの、その死体、僕に下さいませんか?」


捨てていくつもりのものだ、反対する理由はない。ないけど・・・


「持ち帰るおつもりか?

しかしこの巨体、馬車に積むのは不可能では?」


「はい、あの、頂けるのでしたら、回収させていただきます!」


そう言うとザルツは肩から斜めに掛けたカバンの蓋をあけ、魔物に歩み寄る。

入るわけがない、そう思いながらも、小説でよく見た”あの”カバンの存在への期待を隠しきれない私がいる。

ザルツは横たわる魔物に手を触れると、小さく何かを呟いた。


魔物の死体が一瞬で消え去る。

一同が驚愕の表情で固まる最中、私は一人興奮していた。


これは、マジックボックスというやつだ!

この世界にも存在するならば、付与魔法を覚えたら是非とも作らなくては!

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