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「まさかこちらに向かってくるとはな・・・
わざわざ迂回したと言うのに」
数分前、先頭を行くカチアが馬を止めた。
魔物がまっすぐこちらに向かっている、と言って。
このままもう数刻も走ればクロウの街だ。ここで討伐せずに街に向かえば、魔物を連れて行ってしまうことになりかねない。
バイゼル将軍はアルディアの街など知らん!とか言い出すかと思ってもいたが、すぐに護衛たちとともに自らも臨戦態勢を取っていた。
今は全員馬車を降り、襲撃に備えている。
「北東、接敵までの時間はおよそ2分!」
索敵を行うカチアがそう宣言すると、後ろへ下がる。
代わりにジェロスが前に出て、私の身長くらいある大きな盾を構えた。
マティスがいつでも弓を引けるよう矢をつがえる。
・・・タンクの人、盾しか持っていないようだけど大丈夫なのだろうか。
バイゼル将軍は自信満々だし、魔法もあるし、大丈夫なんだろうけど・・・
遠くに土埃が見える。探知魔法を使うと、かなりのスピードでこちらに向かっているのがわかった。
しかし姿形はまだわからない。
試しに手のひらほどの水の円盤を作り出し、土埃に向けて、覗く。
「猪・・・?」
「見えるのか!・・・猪の魔物か、手強いな」
円盤で作り出したのは望遠レンズである。
レンズ越しに、土埃の中に赤い双眸が光るのが見えた。まるで血に染まったかのような色。初めて見る魔物の瞳に、ぞわり、と背筋が冷える。
出番はないだろうが、一応腰のショートソードを抜く。ヴォイドもまた大きな剣を抜き身のまま構えていた。
「止まれぇええっ!!!」
ジェロスが咆哮とともにその盾で猪の体を受け止める。
全身の筋肉が、先程よりも太く盛り上がっているのを見るに、身体強化魔法を使っているのだろう。1mほどおされたものの、魔物の特攻は止まった。
マティスが弓を引く。矢は放たれた瞬間に炎を纏い、魔物へと向かう。
忌々しげに首を振る魔物の眉間からは逸れたが、矢は首筋へとささ・・・らなかった。
確かに命中したと思われた矢は、首元の体毛を焦がし、刺さることなく落下した。
「硬いな・・・だがこれならどうだ!」
次に放った矢は2本。一本は魔物の足元へと刺さり、地面が液状化する。次いで2本めもまた刺さり、今度は魔物の足をめりこませたまま、液状化した地面を凍らせた。
足を一本とられては、魔物といえどその突進力は格段に落ちる。その上凍りついているのだ、その場でもがくしかできない。
ジェロスが盾を担ぎ直し、もがく魔物の首を鷲掴みにする。
「うおおおお!!」
指がメキメキと音を立てて首筋にめり込む。おそらく首をへし折ろうとしているのだろうが・・・大型の魔物の強化された体と、分厚い皮に邪魔されてうまくいかないようだ。
このパーティ、火力役いなさすぎじゃない?
ちらりとカチアの方を見る。おそらく索敵を続けながら、応援している。
業を煮やしたバイゼル将軍が魔物の横に回り込み剣を振るう。美しいとさえ思えるその剣技をもってしても、魔物の分厚い皮膚を傷つけただけだった。
ちらり、と今度はレイを見る。その顔は「何やってるんだか・・・」と呆れ顔。
ヴォイドの方を見る。ヴォイドは苦々しい顔をしながら、私を見て頷いた。
「・・・出ます」
その巨体に恐怖感はあったが、このままでは埒があかない。
初めての実践だ。自分の鼓動が聞こえるほどに、脈がはやくなっているのがわかる。手が少し汗ばんでいるのがわかる。
一歩踏み出したその時、マティスによって作り出された氷の足枷が砕けた。
再び猛攻をしかけようと、魔物の体が若干沈みこむ。ジェロスはまだ盾を背負ったままだ、バイゼル将軍も後ろ足で蹴られかねない。
覚悟を、決めろ・・・!
”加速”ではジェロスの体が邪魔をして前に出られない。視界に不安は残るが、私はジェロスと魔物の間へと瞬間移動すると、即座に前方に半円の防壁をイメージする。成功。
何が起こったのかわからず目を見開くジェロスを後方に突き飛ばすと、バイゼル将軍が離れるのを目で確認した。
魔物は、元の猪の性だろうか、防壁で阻まれているにもかかわらず、私へと突進を続けている。
不可視の盾は十分な強度を見せてくれている。
その一部に腕が通る程度の穴をイメージする。そこから手を伸ばし、魔物の鼻先に触れる。指先に力を集め、雷に変えて流し込む!
電撃である。体内を焼かれては分厚い皮膚も用を為さない。皮膚の薄い鼻先を狙ったこともあって、魔物はその体を激しく痙攣させ、絶命した。




