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川沿いを進み東西に延びる橋を渡ると、夕日に照らされた白い建物が並ぶ街にたどり着いた。
本日の中継地、水の街リューイ。川と海に囲まれた大きな街だ。
街の入り口には巨大な門が作られており、街の外からの訪問者はこの門で一応の検査を受ける。勿論調査団は顔パスなのだが。
門をくぐると、遠くから見えていた通りの白い石を積んで作られた建物が並ぶ。リューイの街はこの白い建物に統一されていて、夕日に赤く染まる家々はとても美しい。
景観も美しいが、肥沃な土地で作られる作物も豊富で、この街の食事は数々の野菜や果物、そして海で獲れる魚介類と、新鮮で美味しい料理が評判である。
・・・家庭教師の受け売りだけれど。
馬車はこのまま市街地を抜けて、中央区に位置する領主の館へと向かう。
アルディアで街に泊まる場合は今回のように領主邸にお邪魔することになるようだ。
館の前で馬車を降り馬を預けると、領主直々の出迎えを受けた。
ようこそいらっしゃいました、と微笑む領主の笑顔からは、ヴォイドに対する親しみを感じられた。
「久しいな、ゼラート。今日は世話になる」
「お食事の準備ができておりますよ。
リューイ自慢の料理でございます、お口に合えばよいのですが」
ゼラートと呼ばれた領主の案内で、食堂へと進む。時間は丁度夕飯時。
お腹も空いてきた頃だ。噂の料理が楽しみである。
席についた調査団の前に、次々と料理が置かれていく。
彩りあふれるサラダや魚介のうまみたっぷりのスープ。メインは白身魚をふっくらと蒸してから焼いたというリューイの街の伝統料理。
食後の果物のコンポートもとても美味しくて、紅茶にもまたほのかに柑橘の香りが漂っていた。
「とてもおいしかったです」
心からの笑顔をゼラートに向けると、ゼラートはまるで孫を見るかのように私をみて優しく微笑んだ。
「お口に合いましたようで安心いたしました。
お部屋のご用意もできておりますので、お疲れでしたらお休みくださいませ」
「お気遣いありがとうございます」
調査団の全員が、美味しい料理を食べて満足げだ。
特にバイゼル将軍は随分とご機嫌で、朝に見た厳しい顔が少し緩んでいる。
美味しいもので幸せな気分になるのは、どこの世界でも一緒のようだ。
ヴォイドと共に用意された部屋に下がると、調査でなければこの街を観光したかったなぁ、と思いながら、案外疲れていたようですぐに眠ってしまった。
目が覚めると既に空は明るく、天気もいい。
身支度を整えレイを肩に乗せると、ティーセットがあったので紅茶を淹れる。私の分と、ヴォイドの分。
美味しい。今日も頑張れそう。
街の反対側の川を渡り、今日の休憩をとっていたときのこと。
カチアが少し緊張した面持ちで北側に目を向けた。
「魔物がいるわね。
進路からは少し離れているけど、ぶつかる可能性もある。
どうする?不意をつかれるよりは先に叩いちゃったほうがいい気がするけれど」
彼らに指示を出すのは、バイゼル将軍の役目だ。
「一匹か?」
「ええ。少なくとも私の探知の範囲に他の魔物はいないわね」
索敵を魔法で行っているのだろうか。
魔物だけを探知するなら・・・魔物にだけ特徴的なのは、精霊の力の歪み?
試しにまずは精霊の力そのものを探ってみる。
調査団の人数分と、遠く離れたところに大量の反応。これはリューイとクロウの方角だから街の人たちだろう。
あとはあちこちに分散する不特定多数の反応。動物かな?
その中でひとつだけ、他のものとは違う反応がある。
これが魔物の反応だろうか。
「カチアさん、魔物は北側7kmほどのところにいますか?」
「ええ。・・・探知ができるの?」
「初めてやってみたので、魔物の反応がどんなものかわからなくって。
でも、これみたいですね。覚えました!」
どう違うかと言われると感覚的なもので明確にこうだとは言えないが・・・
純粋な精霊の力は透明でゆらぎが少ないのに対して、魔物のそれはなんとなく濁っていて炎のようなゆらめきがある。
この感覚を魔導具に落とし込むとシエラが息子たちに買ったものと同じ効果が得られるのだろう。
この魔法、ずっと使っているとすごく疲れそうだ。なんせ何百kmの範囲にずっと思考を巡らせていないといけないのだ。カチア一人で道中常に使い続けるというのはかなりの負担なように思う。
カチアに素直にその感想を伝えると、初めて共感してくれる人ができた!と何故か非常に喜ばれた。でも、護衛としての仕事だから手伝いはいらないそうだ。さすがはプロフェッショナル。
結局、魔物は避けて進むことになった。
アルディア国としては討伐したいところだったが、アイゼストの将軍からしてみれば他国の魔物討伐に自国の精鋭を当てるのはおもしろくないのだろう。
怪我でもしようものなら尚更だ。
こうして、予定よりも少し西側を北上し、今日の宿泊予定地、クロウの街へと進むことになった。




