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出立は急だった。
どうやらヴォイドはぎりぎりまで私を同行させるか決めかねていたようだ。
袖を通して半年しか経ってはいないが、胸当てのサイズを調整し、ブーツは少しきつくなっていたので新調し、以前と同じ短剣と一緒に、訓練で使用していた木剣と使用感の似たショートソードを腰に携える。
どんなに装備を充実させたところで、おままごとに行く子供にしか見えない。だってまだ6歳だものね・・・
それでもこの旅はヴォイドが最低限自分の身は守れると判断してくれたからこそ実現したものだ。その期待を違えるつもりはない。
きりりと、表情だけは一人前に。
これから私が戦う相手は、魔物や盗賊ではない。
もっと強大な権力という武器を持った、腹黒い大人たちだ。
「賢王として知られたアルディア王が正気を失ったとしか思えませんな。
本当にこのような幼い娘を連れて行かれるおつもりか?」
今物申したのは、隣国ミュールからの調査団代表、タリム様。
はっきりいって私よりも戦えなさそうな外見をしているが、そこは突っ込まない。
「我が国最強の護衛たちがつくとはいえ、このような幼子を守りきれるものかどうか」
ミュールの更に向こう側、北東の国アイゼストの将軍、バイゼル様。
彼の言う最強の護衛たちというのは、転生者のパーティのことだ。
「まぁまぁ、バイゼル様、俺達がいるんですから心配ご無用ですよ」
へらへらと笑いながら将軍様のご機嫌をとる4人の転生者たちは、皆殊更にミドルネームを強調して自己紹介をしてくれた。
身体強化で盾役を務めるという、カイト=ジェロス=グラシア。
弓矢を外すことはないという、クロノ=マティス=オルガノン。
索敵を担当するという、ベローナ=カチア=ゼシア。
回復魔法が得意だという、ハンス=ティテス=ヨルン。
ミドルネームがある人間が4人も集まると、こんなにも自己紹介が面倒くさいということが初めてわかった。貴重な体験だ。
残念ながら、日本からの転生者はいない。いたからといって花咲くほどの話もないのだけれど、やはり故郷が同じというのはそれだけで気心が知れると思うのだけどね。
ただ一人、その場で、学術都市からの調査員だけが、私に対する文句を言わなかった。事前に私のことをどんなふうに通達しているのかはわからないけれど、学術都市の人ならばレイに対する興味は群を抜いているだろう。
私は集まった調査団のメンバーの前で、優雅にお辞儀をしてみせた。
「アルディア王が末子、フォルティエラ=カナデ=アルディアと申します。
皆様のお手を煩わせることのないよう、精一杯お伴させていただきます」
伊達に地球で23年間生きていたわけではない。
この程度の嫌味、かわせて当然なのだ。そもそも、何か失敗して文句を言われているわけでもないので、私にやましいところは一切ない。言葉通り、足手まといにならないよう必死で食らいつくだけだ。
「転生者とは聞いていたが、魔法は使えるのだろうな?」
「はい、皆様に比べれば拙いものとは存じますが・・・」
これくらい下手に出るのも当然なのだ。日本は年功序列、生意気な若者がその意気を買われることなんて稀なのだから。
肩の上に乗るレイは随分とご機嫌斜めな様子だが、ここは堪えてもらわなくてはいけない。何よりも私を信頼してくれた父王のためにも。
(レイ、ご挨拶して)
小声でレイを急かすと、ヴォイドの立場が悪くなる可能性には気づいているようで、不満げながらも調査団の前へと踊り出てくれた。
「カナデの精霊、レイよ」
欲を言えば敬語を使ってほしかったとかよろしくの一言も欲しかったとかはあるものの、レイの性格を考えれば十分頑張ってくれたと思う。
言葉を話す精霊の存在は半信半疑だったのか、調査団全員がレイの方を見て信じられないという表情を浮かべている。
特にトリスの使者は、今にもレイに突撃せんばかりだ。レイを調べさせてなんて言われたら一大事だ、すぐにレイを再び肩の上に乗せ、よろしくお願いします、と微笑む。
はっきり言って、ティエラは非常に愛くるしい顔立ちをしている。
母ゆずりの優しい口元、父譲りの意思の篭った瞳。さらさらと流れるピンクシルバーの髪と白い肌は、朱がさしたような唇によって儚さを強調されて、6歳にしてかなりの美少女と言えるだろう。
ティエラの容姿を見るとき、どうしてもまだ自分の体だとは思えないのである。なんせ転生前はサラサラロングの黒髪こそ自慢だったものの、顔立ちに自信など全く持てなかったのだから。
その美少女ぶりを発揮すれば、若い護衛たちは完全にこちらの味方である。
発言力の強いおじさまたちを陥落させられればそれが一番良いのだろうけれど、相手は権力闘争に打ち勝ってきた猛者たち。そう簡単にはいくまい。
かくして、護衛たちの「大丈夫ですよ」コールに後押しされて、一行は西の果て、世界の果てへと出発した。




