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翌日もまた、私とジルは特訓に励んでいた。
「結局のところ、火と風を操れない理由がわからないんだけど」
昨日のレイの言い方からすると、火と風の経験値が足りないみたいな感じなんだろうけど・・・
「お屋敷が火事になったーとか、竜巻で飛ばされたーなんて経験をすると手っ取り早いと思うわ!」
ひどいアドバイスもあったものだ。
「もうちょっと穏便な方法で頼むよ・・・」
むぅ、と頬を膨らませるレイは、少し考えてから私の方を指して言った。
「カナデは前世の知識だけで使ってるわよ。
教えてもらえばいいんじゃない?」
確かに私には火事に遭った経験もなければ竜巻に飛ばされた経験もない。強いて言うならばキャンプファイヤーをしたことがあるとか、台風で突風を経験したとか、その程度だ。
知識だけというならば、私は酸素が燃えていることを知っているし、風が自転によって起こることも知っている・・・が、この世界に分子という概念があるのかは知らないし、世界の果てとかがある以上自転もしていないだろう。
本当に魔法はいろいろとアバウトだ。
「別に事実を知っているから魔法が使えるわけじゃないわ。
あらゆることに対する距離感みたいなものかしら。
遠くにあるものを動かすのは難しいけど、手元にあれば動かせるでしょ?
ジルはまず火や風を手元に寄せるところから始めなさいってことだわ!」
魔法の中で使えない属性があるというのは、その属性に対して距離があるから・・・つまり、やっぱり経験値が足りないってことでいいのかも。
そういうことなら、ジルに私の持つ知識を教えるのも手助けになるのかもしれない。
「ジルお兄様、座学になりますけど、私の知識で良ければお教えします」
「ありがとうティエラ。夕食後にでもお願いできるかな?」
喜んで、とジルに微笑むと、私はうまくいかない自分の魔法と向き合い直す。
誰しもが魔法と聞けば夢見るだろう。
目標は、空を飛ぶこと、である。
「これももしかして空を飛ぶ知識と記憶不足なのかしら・・・」
「カナデのはただ単に考えすぎてるだけだと思うけど?
さっきからカナデはぶつぶつ独り言でひこうりきがくーとかくうきていこうーとか
中身のないよくわからない単語ばっかり」
痛いところを突いてくる、この精霊め・・・!
地球にいた頃はリケジョとしてそれなりの知識はあったほうだと思うけど、飛行機の仕組みとか鳥が飛ぶ仕組みとかはさっぱりわからない。雑学として、頭にプロペラをつけても現実には首が吹っ飛ぶ、とか、人間が翼を使って飛ぼうと思ったらやたらと大きな羽が必要になるとかいうことを知っているくらいで、正直逆にこの雑学は邪魔にしかなっていないような気がする。
浮くだけなら、自分の体がすごーく軽いのをイメージすればできるのだけど、本当に浮くだけで、高度の調節も、前に進むこともできずにいる。
とりあえず浮くだけでも、自分でジャンプをするのに合わせて使えばそれなりに使えるのだが、やはり物足りなく感じてしまうのはきっと贅沢なんだろう。
「そもそも空を飛んでどうしたいの?」
自分は空を飛んでいるくせに、夢のない発言だ。
「移動手段なら、もっと他に何かありそうなものだけど」
言われて考えると、確かにまだ試していないことが色々とある。
移動といえば、瞬間移動とか空間転移が王道だろう。
瞬間移動をイメージしてみる。
魔法をあれこれ試してわかったことだが、魔法の発現には難しい理屈はいらないのだ。本当にイメージというか、ヴィジョンが大事。
もちろん、知識も無駄ではない。ただ、魔法を発現させるという段階においては邪魔になることもある。物理的に無理だよなぁとか思ってしまうのだ。
魔法の使いみちを考えたり、魔法を発展させる上では知識も役に立つのだけれど。
少し離れた、ジルの横。
そこまでの距離を一瞬で移動するイメージ・・・
「わっ!
びっくりするから何かするときは予告してくれよ・・・」
ジルの横に移動することはできたけど、これじゃあ加速してるのと変わらない。
一瞬で移動するんじゃなくて、その座標に自分を出現させる・・・線じゃなくて、点でつなげるような・・・自分がそこにいくんじゃなくて、発動したら自分がそこにいる、イメージで!
今度はレイの後ろに。
視界が一瞬で切り替わる。高速で移動したのとは違って、視点も方向も、一瞬前とは全く違う。成功だ。
ただ、この視界の変化は慣れないと使い物にならないかもしれない。折角一瞬で移動しても、移動してすぐに動けないのでは意味がない。
もう一つの空間転移には速さは必要ないし、できるなら自分以外も一緒に連れていける方がいいだろう。となると、自分が転移するイメージではなくて、目的地と空間をつなげる、と考えるべきだろう。
さっきと同じ点と点のイメージを、目の前の空間に発現させる。
なんとなく空気が歪んだように見える空間に、おそるおそる手を差し込んで見る。歪んだ部分に差し込んだ腕が吸い込まれてく。
特に問題なし。
・・・顔を入れるのは怖いけど、向こう側が見えないんじゃどこにつながっているかわからない。
意を決して覗き込んで見る。きっとジルとレイからみたら首から先だけ無くなって見えてるんだろうなぁ。その光景は結構ホラーかもしれない。
頭だけ突っ込んであたりを見回すと、見慣れた屋敷の自室だった。いつも使っているベッドが見える。机も見える。
全身を屋敷側に移動させ、ドアを開けて左右を見渡すと、ちょうどよく屋敷のメイドさんが通りかかった。
「! お嬢様、いつお戻りに?」
うん、この反応は幻ではなさそう。適当に誤魔化してドアを閉めると、つながったままの空間の歪みから再び訓練場へと戻った。
「お兄様!レイ!
屋敷へのショートカットができました!」
これならレイを見られることなくいろいろなところに行けるかもしれない。
レイのおかげで私は居場所を手に入れた。これでもレイには感謝しているんだ。だから、レイにはできるだけ自由にすごしてもらいたい。
その一歩を踏み出せたような気がして、自然と笑顔になる私を見るジルは、呆れと諦めを混ぜたような顔をしていた。




