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夕食時、両親とジルと、4人で食卓を囲む。
・・・囲むという表現が相応しいかはわからない。広すぎるんだもの。
この場には給仕をしてくれるメイドさんたちもいる。例の話は、このあと時間を設けてもらったほうがよさそうだ。
「父上、母上。夕食の後にお時間を頂けますか?
お話したいことがあるのです」
「ジルが改まって話とは、珍しいな。
人払いが必要な話ということだな?」
「はい」
ヴォイドはジルの言葉に頷くと、給仕のメイドさんに声をかける。
「食後の紅茶は書斎に運んでもらえるか」
かしこまりました、とメイドさんが一礼すると、もう一度ヴォイドは頷く。
無事、時間をとってもらえることになった。
さて、どんな精霊秘話が聞けるのか・・・
書斎に場所を移し、運んでもらった紅茶を口にしながら、私とジルは緊張した面持ちで顔を見合わせた。
レイは私の精霊だし、私から切り出すべきだろう。
「実は、魔法と、精霊の力のことなんですが・・・
レイが言うには、精霊の力には本来個体差がないそうなのです」
ヴォイドは訝しげな顔で、私の隣に座るジルのほうを見つめた。
「僕もそのように聞きました。
詳しい話は、父上と母上がいる場でしたほうがいいと思い、聞いておりません」
ジルに確認を取ると、ヴォイドは真剣な表情を浮かべる。
屋敷では見たことがない、王の顔だ。
「レイどの、詳しく聞かせてもらえるだろうか。
我々は、宿した精霊の力が魔法の強さに影響を与えると考えているのだが」
レイは王としての威厳に満ちたヴォイドを前に、なんら臆することもない。
「うん、それは間違ってないわね。
ただ、精霊は生命に宿るまで、その力に優劣はないの。
精霊の力に差が出るのは、宿主の影響を受けるからよ」
「つまり、レイどのが私やシエラに宿っても、ティエラのような力は発揮できない、ということか?」
「そういうことよ!」
ヴォイドの理解が早いことがお気に召したらしく、レイは上機嫌でいつもどおり胸を張って答える。
つまり、レイが宿ったから私の魔法が強いのではなくて、私に宿ったからレイの力が強い、ということなのだろうけれど・・・
「なぜティエラならば良くて、我々では駄目なのだ?」
「あたし達精霊が記憶や知識、思い出なんかを糧にしているからね!」
国内にも数名存在するという他の転生者のことに思い至る。
彼らは皆一様に、精霊の加護を強く得ている。
それが、強い精霊が宿ったから、ではなくて、宿った精霊を強くしているから、と考えれば確かに納得がいく。
転生前の記憶があるという時点で、この世界の記憶しかない人々に比べて圧倒的な記憶量になるのだろう。
一般に老齢になるほど魔法の威力が上がるというのも、この理由ならば説明がつく。
ふと、不安が一つ生じる。
「記憶を糧に、って。
私の記憶、消えていくの?」
「別に食べちゃうわけじゃないわよ!無くなったりしないわ。
本当に記憶を欲しがっているのは、世界樹だもの。
あたしたちは記憶や知識を力に変えることができるんだけど、力が使われて世界に還ることで、世界樹はその記憶を得るの」
世界樹。創世記に出てきたフレーズがこんなところで出てくるとは思わなかった。
創世記はおとぎ話だと思っていた私ですら驚いているのだから、3人はなおさらだろう。まさか本当に世界樹が自我を持っているというのだろうか。
「世界樹は、なぜ記憶を欲しがるのだ・・・?」
「そんなの知らないわ。
でも・・・寂しいんじゃないかしら」
そう小さくつぶやいたレイの顔は、いつもと違って真面目で、悲しげだった。
その表情に、それ以上聞いてはいけないような雰囲気を感じてしまう。
きっと、父王もそうだったのだろう。
「二人とも、良い判断をしたな。
ここでの話は他言無用とする。よいな?」
有無を言わせぬ父王の気迫に押されて首を縦に振りはしたものの、誰かに話すつもりも毛頭なかった。
これはきっと、この世界のあり方に関わる話だ。




