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雄叫びを上げながら迫ってくる盗賊もどき。
いるのはわかっていたので先制攻撃もできたのだが、相手が襲ってきたという事実があったほうがいい。正当防衛を主張するために。
予定通り襲撃を受けて、私は御者台を飛び降りた。護衛2人が乗る馬はスイが馬車の近くに寄せてくれたので、馬車の周辺に障壁を張る。
「この中にいれば安全ですので」
メイド3人に微笑むと、私は振り返って剣を抜いた。
相手は丁度20人。実践で使えずにいた広範囲魔法を試す絶好のチャンスである。
タイミングをはかって、盗賊もどき達が走るその地面を、一気に陥没させる。
およそ1mほど落下する羽目になった彼らの頭上に無数の水球を出現させ、それを浮かべている魔力を解除すると、落下した水球でまるで滝のような雨が降る。
仕上げに落下した水の熱を奪うと、カチカチに凍った盗賊もどきの出来上がりだ。
一応完全に氷漬けにしないようには加減したつもりだが、私としては2、3人が生きて残っていればそれでいいので、あまり深くは考えていない。
こうして、あっさりと盗賊もどきたちは全滅した。
サイファが、姫様に護衛必要だったんですかね、と顔を引き攣らせていたので、頼りにしています、と微笑んでおいた。
生きていたのは4人。意外と生き残ったものだ。手加減の甲斐あって、氷漬けにされて死んだものは多くはなく、ほとんどは最初に地面が陥没した際に密集した状態で転んだせいで、自分たちの剣で傷ついて還らぬ人となったようだ。剣なんて振り回したまま走るからそうなる。自業自得というやつだ。
4人を縛り上げてから焚き火にあててあげた。こごえたままではうまく喋れないと思うし、放置して死んでしまっても困るのだ。必要なことを話してもらわないといけない。
「お前たちはトリスの兵士だな?
・・・うちの姫様怖いから早めに喋ったほうがいいと思うぞ・・・」
今はリッドとサイファが尋問をしてくれている。最後の一言は聞かなかったことにする。身内には甘いのだ。
「な・・・っ、お、俺達は盗賊だ!」
「その割には隊列組んで動いたりするんだな」
「・・・・・・」
黙秘ですか。
「誰の命令か、素直に言ったほうがいいって」
・・・随分優しい口調の尋問もあったものだ。
護衛の2人が単に尋問に向いていないのかも知れない。
私は縛られたままの4人の方をじーっと見つめ・・・薄っすらと微笑んだ。
「・・・!
バルド様のご命令だ・・・!」
何が怖かったのかあとで詳しく聞きたいところだけど。
ええと、バルド様・・・確かトリスの軍隊のトップ。いわば防衛大臣的な人がそんな家名だったと思う。
ジェーンに確認すると、さらに詳しい情報つきで教えてくれた。
「ハインツ=バルド様。爵位はありませんが代々軍事関連で要職を務める名門一家の現在の代表ですね」
「それがどうして私を狙うんですかね?」
「可能性としては、娘がいて妻の座を狙っていたとかですかね?」
ふむ。
「そのバルド様に、娘さんはいらっしゃいます?」
4人に再び笑顔と共に質問してみる。
「ご息女は既に他家に嫁いでおられる・・・」
ふむ?
首をひねったところで、別の男が口を開いた。
「ま、孫娘が・・・いらっしゃる・・・」
なるほど、そのお孫さんが妙齢なのか。
「ちなみにそのお孫さん、おいくつなんです?」
「確か、10歳になったと・・・」
子供だった。いやまあ私が婚約者である以上ナシではないのかもしれないけど・・・
「他に部隊は派遣されています?
あとは、暗殺とか・・・」
「我々はここを通過するようなら襲えと言われただけで・・・
スカラの宿を取ったという情報が早馬で知らされたから待ち伏せていただけだ、他の部隊のことは知らない!」
「わかりました。
・・・されただけ、してただけ、というお話ですけど、それ十分に悪いことですからね?
さて、抵抗の意思はありますか?」
「いや・・・すまない・・・
抵抗をする気も、ない」
すっかりしおらしくなったので大丈夫そうだ。そういうことならば兵士たちの遺体を埋める前に遺品とか、身元のわかるものは回収させてあげよう。遺族に罪はない。
リッドとサイファにそうお願いすると、彼らは縛られたまま遺体に近寄り、これを拾ってほしいなどと2人に頼んではそれらを回収していった。
4人をそのままこの辺に放っておくわけにもいかないので、土魔法で手枷を作り、馬車に乗っていてもらうことにした。
問題は、このあとのルートをどうするか、だが・・・
「スカラの街から早馬が出たという話でしたよね?
ならばルストでも同じという可能性が高いのではないでしょうか」
リッドの主張はもっともだ。私達は最初に想定していた通り、ここからは街道を外れて突き進むことにした。




