【短編】それどこで買ったの?~丑の刻参りセット~
「今日はわざわざ家にまで来てくれてありがとう理奈」
「いいってば。美央とアタシの仲でしょ? それでどうしたの? 引きこもりの美央が家に人を呼ぶなんて珍しい」
「……呼んどいてなんだけど、相変わらず遠回りな言い方をしないわね」
「えへへ、小さい頃から正直者で通っているからねー」
「そのせいで私の知る範囲でも女子同士の秘密の会話に混ぜてもらったこと1度だってないじゃないの」
「“内緒だよ”って言われると逆に話したくならない?」
「それは“口が軽い”って言うのよ。まあ私も他に頼れる友人がいないから理奈に来てもらったのだけど」
「ぶーぶー。酷いよー」
「そろそろ本題に入っていいかしら?」
「どうぞどうぞ」
「呪いたい相手がいるのよ」
「今日は楽しかったよ。じゃあねー」
「待って。逃げないで」
「逃げないであげるから説明プリーズ」
「私が株やゲーム実況なんかで稼いでいるのは知っているでしょ?」
「普通それで稼げるとは思えないし、思っても9割方成功しないはずなのに、地味にお金持っているよねー。小金持ち?」
「才能はあったんだと思うわ。実はこの前から人気のオンラインゲームの実況のためにそのゲームをやり始めたの」
「最近人気だよね、オンラインゲームって」
「私のゲーム内での地位もどんどん上がったわ」
「さすが24時間引きこもりの達人」
「やかましい。で、オンラインゲームだから不特定多数の人たちとゲームを進めるのが基本なのよ。ソロだとすぐに限界が来るわ」
「そうしないとオンラインの意味薄れそうだもんね」
「そして問題は先日の公式イベントで起こった。イベント自体はよくあるありふれた内容のものだけど、最後まで生き残った時にもらえるアイテムが私好みのモノばかりで。イベントに参加した私はクリアを目指しながら生き残ることを重視しながら戦った」
「生き残ればいいなら、ただ隠れているだけじゃダメなの?」
「システム上のルールで毎回一定以上の時間が経つまでに戦闘しないと失格になるから、そんなことしたらすぐに失格よ」
「ズルには厳しいのかー」
「ついに迎えたボス戦。安全マージンを取りながら独自の戦闘方法で戦い、イベントクリアが目前に迫る」
「そういう時ってワクワクするよね」
「最後の瞬間、フレンドリーファイアで私に攻撃してくる味方のはずのキャラ」
「あ、何となく展開読めた」
「狙ったかのようなタイミングで放たれるボスの必殺技」
「ダメージ大きそうだね」
「みんなが回避なり防御なりする中、1人だけ直撃を喰らいHPがゼロになる私のキャラ」
「それはつらいね」
「そのすぐ後にイベントが終了。生き残りのキャラが画面に絵文字を浮かべ、とても胸が躍る音楽が流れだす」
「その時、美央は?」
「頭の中が白一色。胸にポッカリ穴が」
「だろうね」
「それから後の記憶は曖昧よ。突如向こうの空間が見えるようになった画面。バチバチと嫌な音を立てるパソコン。なぜか血だらけの右拳」
「それ右ストレートで画面を貫通させてるよね? 家に来た時からずっと気になっていた包帯でグルグルの右手の謎が明らかに」
「翌日、別のパソコンをセットし終えた私はゲームにログインしてフレンドリーファイアをやらかしたあん畜生を捜索」
「誰かは分かっているの?」
「同じギルドのメンバーだから」
「すでに相手側、積む一歩手前かー」
「しかしギルドのメンバーを脅しても奴の居場所が分からなかった。ログインしているのは確認できているのに、いくら探しても見つからず」
「聞き流しそうになったけど、仲間を脅しちゃったの……」
「このままじゃ埒が明かない。そこで私は考え付いた。そうだ、間接的に呪ってやればいいんだ! と」
「普通の人はまず呪おうだなんて思いつかないよ」
「それで呪いの方法について調べてみたら『丑の刻参り』って日本に古来から伝わる呪いがあったの。いかにも相手を呪ってやる感情が高まりそうで良かったわ」
「また古典的な呪いをチョイスしたねー。えーと、確か蝋燭を頭にセットして藁人形を釘で刺すんだよね?」
「もう少し正確に言えば、白装束を着て、丑の刻――夜中の1時から3時までの間にお寺か神社にある御神木にするのよ」
「それで? その呪いとアタシがどういう関係なの?」
「お金は後で渡すから、『丑の刻参り』に必要な物一式を買ってきてほしいの。藁人形なんて普通のお店で売っているかどうか怪しいし。ネットで注文するにしても、そんな如何にもな代物を購入したら履歴から要注意リストに載る可能性もゼロじゃないから」
「おぉ! それはおもしろそうだね! OK分かった。そういうのだったら一通り置いてそうなお店を個人的に知っているし、任されたよ!」
「ありがとう。揃ったら直接渡しに来て」
「了解~」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あれから1週間。昨日も今日も理奈と連絡が付かないわね。一体どこに行ったのかしら? ……明日になっても連絡できなかったら本格的に探すしか――」
「美央お待たせー。待ったー?」
「遅い。でも安心したわ。この1週間どこで何していたのよ? 昨日から何度電話を掛けても繋がらないし心配したわ」
「あー、電波が届かない所に行っていたからねー」
「ちょっと待って。今の時代で電波が届かない所にいたって、本当にどこに行って――」
「それでは! 買って来たもののお披露目ターイム!」
「無視なのね」
「じゃんじゃかじゃじゃーん! 『初心者でも簡単にできるよ♪ みんな大好き、丑の刻参りセット』~!!」
「………………は?」
「むぅ、リアクションが薄いぞー!?」
「……呪いのアイテムがセット物としてあることも驚きだけど、大きな箱にデフォルメされた『丑の刻参り』の格好をした美少女が描かれていることに声も出ないのよ。吹き出しの『呪っちゃいぞ♪』っていうセリフが癇に障るわ。というか待って。本当にどこで買ってきたのよそんなの?」
「うふふ~。ひ・み・つ」
「……とりあえず、中身を見せてくれないかしら」
「了解しました! 実は事前に確認したから説明には自信があります!」
「早よしろ」
「まずは頭に付ける蝋燭!」
「暗い場所で蝋燭の火がついていると雰囲気あるわよね」
「色は明るい赤色・黄色・青色の3色」
「信号機か。それ蝋燭じゃなくてアロマキャンドルなんじゃ……」
「火をつけるといい香りが周囲に漂います」
「アロマキャンドルね」
「心を落ち着かせる効果も」
「アロマキャンドルね」
「頭に付けても邪魔にならない透明な受け皿も」
「アロマキャンドルね。ガラスじゃないみたいだけど。どう考えても受け皿邪魔よね? いらないわよこんなの」
「え? でも現実的に考えて、頭に蝋燭を付けた状態で釘を打っていたら溶けた蝋が体に掛かって、熱くて呪うどころじゃないと思うけど?」
「確かに。言われてみればそうね」
「それにしっかり固定しないと、髪に引火しちゃうと思うけど?」
「確かに。呪ってる最中に火だるまとか笑えないわ」
「それじゃ続きまして~」
「1つ目からぶっ飛びすぎて聞くの恐い」
「アロマキャンドルを頭に固定するためのハチマキ~!」
「蝋燭じゃなくてアロマキャンドルって認めたわね」
「なお、ランダムで文字が書かれています」
「文字? どれどれ……“必勝●合格”って書いてあるわ。これ受験生のでしょ。●の部分が赤いし。すでに使われた形跡があるし」
「ちなみに予備のハチマキも」
「表面が赤色で裏面が白色ね。運動会のハチマキじゃないの」
「たまたまだって」
「端っこに“3-1 田中”って書いてあるわよ」
「続いては~」
「はいはい無視なのね。慣れてきたわ」
「黒の縮れ毛風カツラ~」
「カツラなんて必要?」
「だって美央ってば髪の色が茶色じゃない。絵にならないよ」
「まあ茶髪よりは黒髪の方が合っていると思うけど」
「使用後はお湯に浸すといい出汁が取れます」
「よく見たらこれ乾燥したコンブじゃない」
「産地を厳選して選び抜いた1品」
「なんて無駄な」
「4品目は白化粧~」
「必要って言ったら必要なのかしら?」
「今なら口紅とちょんまげのオマケ付き」
「バカ殿〇になれって言いたいのかしら」
「ちょんまげの先っぽは取り換え式で5種類の中から選べます」
「無駄なこだわりを感じる。そして意地でも殿様にする気か」
「5品目は白装束~」
「見栄えの点で言えばかなり大事な物よね」
「なんとこの白装束、リバーシブルになっていて飽きを感じさせない仕様」
「いらない仕様ね。何度も呪えって遠回しに言いたいのかしら?」
「ちなみに肝心の裏側は濃い目のオレンジ色となっております」
「絶対にバカ〇様にしようとしてくるわね」
「裏ポケットには扇子が」
「もう確信犯ね」
「6品目は下駄だよ」
「下駄? あぁ、なるほど。白装束や蝋燭でそれっぽい雰囲気を出していても、履いているものがスニーカーとかじゃ締まらないものね」
「ちなみにこの下駄……」
「あ、分かった。どうせ飛ばすと必ず裏になるような構造で、『明日天気にな~れ』って言って飛ばしても意味ないとか。もしくは紐の部分を外すと寿司を置く木の台に再利用できますってオチに――」
「何の変哲もないただの下駄です」
「いろいろ考えていた私がバカみたい」
「クソ、何でここまで来てネタに走らないのよ」
「私、今アナタに少し引いているんだけど気持ち分かる?」
「気を取り直して、7品目以降にいってみよ~」
「次からは道具のカテゴリーに入りそうね」
「その通り! まずは御神木!」
「分厚い木の板ね。本物の御神木から切ったのかしら?」
「いんや。どこにでもあるような木みたい」
「ニセモノかい」
「でもこんな状態じゃ誰が見たってただの木の板でしかないから、御神木って言い張ればそれは御神木になるらしいよ」
「どっかの詐欺師が言っていそう」
「お次はトンカチ!」
「……私の目にはピコピコハンマーにしか見えないけど」
「このトンカチ、叩くとピコンッ! という音が鳴ります」
「やっぱりピコピコハンマーじゃないの」
「小さなお子様でも持てる軽さのトンカチです」
「だからそれピコピコハンマーだってば。そこまで言うなら試しにこの机の少し飛び出している釘を戻してみなさいよ」
「いいよー。それピコン! ピコン!」
「そんなバカな。普通に戻った」
「叩く部分は丈夫に作られており。内蔵されているバネの力で楽々叩ける優れもの。頭に打てば強盗だって撃退できるよ」
「普通のトンカチでも撃退できるわよね?」
「ちなみに中央にあるこのキャラクターだけど……」
「著作権に触れそうなデザインのネズミね」
「顔の部分を強く押すと、頭のてっぺんから催涙スプレーが出る仕組み」
「何と戦おうとしているのよ? 強盗?」
「おまわりさん」
「なにゆえ」
「神社やお寺で呪いなんかしていたら、おまわりさんに見つかった時に言い逃れできないでしょ? スプレーを噴射して怯んだ隙に逃げるの」
「本当にありえそうだから必要あ――いや、やっぱ無いわよ」
「次に五寸釘。5本もあるよ」
「藁人形の四肢と胸部分に打ち込むにはちょうどいい数ね」
「ちなみにこれが現物」
「思っていたよりも大きいわね。少し短い鉛筆ぐらいあるじゃない。あら? 先端の辺りに細い線が……」
「キャップみたいに捻ってみて」
「『――キュポン』取れた。中からペンの先っぽが」
「それぞれボールペン、赤ペン、青ペン、ペン型消しゴム、筆ペンとなっております。勉強しろってことだね」
「意味分からないわ。さっきのハチマキと合わせて受験しろとでも?」
「最後にお待ちかねの藁人形~!」
「本来の予定ならこれさえあればよかったのに、なんでこうも訳分からないモノばかり目の前にあるのか理解に苦しむわ」
「では取り出しましょう。よいしょっと」
「……大きすぎない?」
「通常サイズの2.5倍だって」
「何でそんなに大きいのよ。もう嫌な予感しかしないわ」
「実は胴体を開けると納豆が出ていきます」
「やっぱりそういうオチなのね」
「産地を厳選した1品だそう」
「だから何でそんなところにこだわるのよ」
「ふう。けどようやく終わり――」
「最後におまけがあったよ」
「まだ終わらないのかい」
「はい。デコレーションシール。いっぱい種類があるよ」
「なぜに? いったいこれをどうしろと?」
「呪いたい相手の写真に張って楽しんでくださいねって」
「プリクラか」
「五寸釘のペンで文字を書いてみるのもオススメですって」
「プリクラか」
「一緒に両面テープも入っているよ。藁人形だけじゃなく、携帯やちょっとした小物に張って思い出を残しましょうだって」
「プリクラか。呪いたい相手の写真を飾ってどないせいと」
「そういえば、今更だけどオンラインゲームのギルドメンバーが呪いたい相手らしいけど、本人の写真はあるの?」
「前に1度だけオフ会に参加したことがあって、その時に撮った写真が残っていたからそれを使うつもりよ。念のためそいつのゲームキャラのスクショをプリントアウトしたものも用意はしたけど。ほら、これとこれよ」
「同い年くらいの男性と魔法使いっぽいキャラがそれぞれピースしているね」
「他に写りのいいモノが無かったの」
「じゃあじゃあ、藁人形の顔部分に両方ともくっつけて、ペンで『オレたち同一人物で~す!』って書いてみたら?」
「プリクラか」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ねえ、その後『丑の刻参り』はしたのー?」
「……一応貰った物で準備して、後はやるだけって所まではいったんだけど……やっぱりこんもので呪うことなんてできないんじゃ? と考えている内に不思議と落ち着いてきて、もう呪いなんていいかと思って帰ることにしたわ」
「あ、アロマキャンドルの効果だねそれ」
「言われてみれば」
少し前に見てから好きになった小説を参考にして書きました。
コメディー系なら会話だけの方がいい場合もありますね。
よろしければ作者の連載小説『逆転生した魔術師にリアルは屈しました』と『アルビノ少女の異世界旅行記~チート貰ったし自重無しに生きるか~』もご覧ください。