破魔矢
派手なレジィが派手に光りながら矢を作り始めると、すぐにアイリーンが現れた。
「アイリーン、向こうがやばそうなら教えて。すぐ行くから。アイリーンが眠らせてくれたの?」レジィはアイリーンをチラッと見ただけで、話しつつも派手に光って矢を作り続けている。
「そう。でもすぐに起きるかもしれない。ごめんなさい、すごい事になってて、大変ね」アイリーンは何か筒のような物を大事そうに両手で握っていた。
「まあ、予想以上だけど、仕方ないよねー。サラ助かったよ」
「サラ一人しか捕まえられなかった。他の祓師は都合がつかなくて」
「だろうね。祓師は大抵誰かについてるからさ。そもそも足りてないしね。授業のたびにあの状況じゃ、完璧に祓うのは無理かも。強力なのが入らないようにだけはなんとかする。矢が切れなければ…だけど」レジィはニコリともせずに、かなりのハイペースで矢を作っている。さっきから点滅するかのように派手な光が放たれていた。
「ありがとう。出来るだけ眠らせるようには働きかけるわ」
「うん。頼むね」
「優も眠らせて貰って、出来るだけ愛理に話しかけるように伝えたから。下手な事考える隙与えないようにって。授業中はどうにも出来ないけど。…後、家に帰って一人になってからが大変かもしれない」
「だねー。合い間見てこまめに矢作らなきゃ。かな。最善は尽くすよ」
「お願い。それと…あのね、レジィ」アイリーンは言いにくそうな様子で持っていた筒から矢を取り出した。「これなんだけど」
レジィは派手な光を放ちながら、アイリーンの出した矢にチラッと目をやった。
渦巻くような七色以上の何とも表現できない色に包まれた、ギラギラとしたメタリックシルバーの矢。一瞥しただけで、何か特殊な強い力が宿っているのが見てとれた。
「何?その矢」聞きたくないけどなー、すっごいヤな予感がする…
「上で作って貰ったの。魔界の者ならば、これを突き刺せば消える。魔界へ戻る。はず」アイリーンはそう言って、レジィの様子をうかがった。
「やっぱり」レジィは矢を作るのを中断してアイリーンを見た。「僕が愛理を射るってこと?」
アイリーンは申し訳無さそうに小さく頷いた。
「ヤダ。ごめん、絶対イヤ!」レジィは速攻で拒否し、だだっ子のように口を尖らせた。
アイリーンはレジィをじっとみつめた。
「そんな『おねがい』って顔したってダメだからね。だって、すっごいイヤ。それ突き刺すんだよね?愛理に?ヤダヤダヤダ」レジィは首を左右にブンブンと振った。派手なレジィの色が目に見えてくすんでいる。
「ごめんなさいレジィ。あれは、間違いなくかなり下の方をうろつくはずだから…優の覚醒を解いてユーディにやって貰うって方法もあるけど、ユーディは優が眠ってないと下へは行けない。それに…また辛い事…レジィあなたしか…あなたなら」
レジィはアイリーンから目を逸らして独り言のように呟いた。「はぁ…僕のこの特殊能力、なんで身についちゃったかな…ほらね、良い事無い」そして、考えたくないとでも言うようにまた矢を作り始めた。
「ホントにごめんなさい。レジィもイヤだってわかってる。特別に、例外的に私の光輝を切って貰ってって…考えたけど、私、ちゃんと出来る自信がないの。本当に私、歌う事しか出来なくて…ごめんなさい」アイリーンは頭を下げた。
レジィはしばらく、レジィらしからぬ思いつめたような真剣な顔で、職人のごとく黙黙と矢を作り続けていた。
「歌う事しか出来ないなんて思わないけどさ…」レジィは矢を作りながらポツリと呟いた。「僕を信頼してくれてるって事だよね」
「ええ勿論」
レジィははーっと息を吐いて話し始めた。「祓師ってさ、相手を直接的に攻撃するんだけど…ぁぁ、銀の月…ユーディもそうか…そーゆーのを不快に感じる人が祓師になってる。祓師ってみんな嫌な事やってるんだよ。でも嫌でも出来るって、それにも理由があって…あー、もぅっ!」レジィは矢を作るのを止めてアイリーンを見た。
「だから、僕に頼むの、正しいよ」レジィは口を尖らせてはいたが、色は元に戻っていた。
アイリーンはほっとした表情をした。
「ユーディだって引き受けると思うけどさ、相当凹んでたし…確かにこれ以上かわいそうだよね」レジィは半分独り言のようにそう言って、小さく溜め息をついた。
「ありがとう、レジィ」そう言ってアイリーンが微笑むと、虹色のやわらかい光が広がった。
「わかってたくせにさ。結局僕が引き受けるって」レジィはボソボソと呟いた。
「だってレジィだもの。それも、信頼してるからよ」アイリーンはレジィのボソボソを拾って言った。
「だよね」レジィが力なく笑うと、ほんの気持ち程度にキラッと光が散った。
「はぁ、ホントに、僕、今日笑えない」
アイリーンは矢と筒をレジィの方へ差し出した。
「レジィ、この矢、1本しかないの。2本目を作るのは当分無理みたい。これを作るのにかなり消耗してしまったらしくて…」
「だろうね。その矢見れば想像つくよ。すっごい力感じるもん。大丈夫、射程内に入りさえすれば、確実に当てる自信あるから」
レジィは諦めた様子で矢を掴んだ。「うわっ、すっごいね、これ。力強すぎてピリピリ…ビリビリする。これ…まさに『破魔矢』だね」レジィは、破魔矢を筒に収めて、背中に固定した。「これで大丈夫かな」レジィはそう呟くと、何事もなかったかのように、また派手な光を放ってハイペースで矢を作り始めた。
「けど、ちゃんと動いてくれてたんだねー、上。魔界系が入ったの追及するのが先で、後回しにされてるのかと思ってた」
「勿論そっちもやってるわ。同時進行みたい」
「へぇ、さすがぁ。完璧じゃないけど、完璧に近いだけのことはあるぅ」
「そうね」
「今日一日長そうだなぁ」レジィは大きな溜息をついた。「で、夜になったらこっちで愛理を射るわけね。僕」レジィは一瞬しゅんとなった。一瞬だけレジィの色がまたくすんだ。
アイリーンは申し訳なさそうな顔はしたが何も言わなかった。
「あ、でも、どうやって探すのさ?僕、拒否られてるしさー、この広い霊界、飛び回ってみた所で、出会える確率なんて、すっごい運が良くても、向こうの愛理の寿命が尽きる頃じゃない?」
「ええ、それも考えてる…愛理が起きた。レジィ行って」
レジィはすぐに消えた。