優と愛理
次の日、優と愛理は、いつものようにマンションから一緒に登校していた。2人ともずっとほぼ無言だった。が、兄弟、もしくは長く連れ添った夫婦の関係に近い2人にとって、これは特に珍しい事でもなく、良くある事だった。
ただし、それぞれ、巡らせている思いはいつもとはまるで違っていた。
愛理、別に普通に見えるけどな?やっぱ単なる私の夢なのか?すっごいくっきりしてたし、はっきり覚えてるけど…
ニコニコと光撒き散らして、矢、作るたびにピカピカ光りまくるド派手なレジィ、あいつ、なんか気の合う楽しいヤツだったなー。
それから、アイリーン。綺麗だったー、キラキラ人形。あのふわっと包み込むようなやさしい光…ああ、なんか、思い出しただけでも癒される気がする…
『あなたはこっちでずっと愛理でもある私、アイリーンを守ってきた。だからあっちでも無意識で愛理を守ろうとするの。心当たり、あるでしょう?』
うん。あるな。すっごいある。
『あなたと愛理、2人の使命は、あなたたちが生まれる前から計画されてたの』
ああ、なるほどね。ってすっごい 納得できるんだけどさ…
けど、愛理、朝から見てるけど…特に変わった様子なんて無い。ホントに乗っ取られてんのか?やっぱ夢なのかぁ?けど、あんなハッキリした夢?あんなキラキラな夢?無いと思うけどなー。
優は首をひねった。
「どうしたの?優」愛理が一人で首をひねっている優に声をかけた。
「へ?ああ…なんか、朝からちょっと首、おかしくて」
「寝違えた?」
「かもな」優はわざと首をこきこきとひねった。
『あれは完全に愛理を抑え込んでるはずだから、優が覚醒してるって悟られないようにして』
ってアイリーンは言ってたけどさ…夢か?現実か?どっちだ?
優はまた、首をひねった。
愛理は優にチラっと目をやった。
ユーディと一体になってたのが、この優だとはね、びっくり。こっちでもこんなに近くに居たんだ。でもこっちでは向こうの事は覚えて無いはずだから、優は何も知らないはず。だけど、どうなんだろ?ホントに知らない?朝から見てる分には、何も知らなさそうだけど…。ま、どっちにしても、愛理の記憶も全部、あたしのもの。愛理が出来ることは普通に全部できる。普段の愛理がするようにするなんて簡単。愛理の意識には奥の方でうずくまってて貰うけどね、死ぬまで一生。とりあえずは愛理っぽく振る舞って、周りの様子見て、色々計画練りかなー。ふふっ、楽しみー。
ただ一つ。悔しい事に…愛理より優の方が全然イケてるのよね。2択ミスったかな。
愛理ではない愛理は、また優をチラ見した。
「あっ、音ちゃんだ。おーい!音ちゃん、おはよー」優は下駄箱の所で青井音風に向かってニッと笑って手をあげた。あからさまではないが周囲の生徒たちが優を意識しているのがわかる。
「あ、優先輩、おはようございます。部長、おはようございます」音風は、2人の方を見て挨拶した。
「おはよー…音風ちゃん」愛理は少し首を傾けてニコッと笑った。
音風は妙な顔をして立ち尽くした。
「じゃーね、また放課後」愛理は軽く手を振って歩いていった。
「愛理、なんで名前?音ちゃんが気にしてるの知ってるだろ?」優はすかさず問い詰めた。
「ん?…ちょっとずつでも慣らしてあげた方が、音ちゃんの為かなーって思って」愛理は優を見てニコッと笑った。
「ふーん」あー、嘘っぽ。
愛理はさ、人を傷つけない為の嘘はつくけど、こーゆー嘘はつかないんだよ。それに愛理は、人が嫌がってる事わざわざしねーから、慣らすとかそんな余計なお節介する訳がない。私と愛理の仲、見くびるんじゃねーっての、バーカ。
ま、おかげで、あれがやっぱ夢じゃないって確信出来たけどな。