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優、覚醒

 レジィはすぐに地味な姿で戻ってきた。

 愛理は衝撃に耐えかねて膝と手をついていた。が、すぐにゆっくりと立ち上がった。

「はっ、やーね。びっくりした。何なの?地味なふりして派手な事してくれちゃって」愛理はレジィを睨んだ。

 レジィは、悔しそうに唇を噛みしめた。

「ただの下っ端と思って油断してた。でも、無駄だったみたいね。ふっ。ここじゃ、誰もどうにも出来ないんじゃない?あたし、嬉しくってついしゃべりすぎちゃったみたい。じゃあね。バイバイ」

 愛理ではない愛理は、軽く手を振ってパッと消えた。


 突然の静寂。

 サビママの『ニャー』とうい声が沈黙を破った。

 サビママは金の瞳でユーディを見上げていた。

「ありがとう、サビママ。もう戻って」ユーディがそう言うと、サビママは一度瞬きをして姿を消した。

「拒否られてるね。追うにも追えないし」レジィがそう言った。が、ユーディは無言だった。

「ユーディ、協力してくれるよね?まさか、アイリーンさえ無事なら良いとか言わないよね?」

「言うわけがない」ユーディはレジィを軽く睨んだ。

「そ。なら、まずはアイリーンと合流しよっか。作戦会議。ほら、一緒に行こっ」

 レジィは笑顔でユーディの腕に親しげに腕を回してジャンプした。

「『青の島』?」ユーディは自分の腕に寄り掛かっているレジィを見た。

「も一回ー」レジィは人懐っこい笑顔を見せてもう一度ジャンプした。

「到着ぅー」


 ユーディの目の前に、アイリーンが立っていた。

 ラベンダーカラーの瞳の、愛らしいアイリーン。流れるようなウェーブのかかった長い明るい金色の髪、ハイウェストで切りかえられた絹のような光沢のある、シフォンのようにふんわりとしたラベンダーカラーのドレス姿。全身が色んな色にきらめき、やわらかい包み込むような光が溢れ出している。ユーディが慣れ親しんだ色と光に溢れたアイリーンの姿がそこにあった。

「アイリーン、無事…なのか?」ユーディは遠慮がちにアイリーンの方へ片手を伸ばした。

「ええ。私は、何ともない。有難うユーディ」アイリーンはユーディの手を両手で包むようにして微笑んだ。やわらかいやさしい光がアイリーンの周りに広がっていった。

「良かった」

「良くないわ。あんなものに愛理を奪われた」アイリーンの全身の色が一瞬くすみを見せた。

「まあ、座って話そうよ。僕、矢、作りたいし」いつの間にか鮮やかな色と光でキラキラな姿に変わっていたレジィは、そう言ってテーブルと椅子を作り出した。

 ユーディはレジィの姿に目が釘付けになった。

 派手な黄金、オレンジの髪は良く見ると赤味も交じっていて、虹色以上の鮮やかな色合いにきらめいている。南国の海のような明るいターコイズブルーの服も、派手な魚の鱗のように表面に色んな色が現れてキラキラと光り、太陽のような黄金色の大きな瞳は眩しいほどの輝きを放っている。

 こちらでは、内面が外にでる。ユーディには、一見で、レジィがどれ程の力の持ち主なのか、察しがついた。

「派手でしょ?僕」そう言ってレジィはニッコリと笑った。レジィの周りにキラキラと明るいオレンジや黄金の光がパッと飛び散った。

「さっきは一瞬過ぎて良くわからなかったけど…このレジィの力でも…あいつを愛理から追い出せなかったのか」ユーディが力なく呟いた。

「うん、あれ僕の全開。あんな所で全開にしたら一瞬で飛ばされるってわかっててやったんだけどね。僕の置き土産、ちゃんと当たったんだよね?」レジィは椅子に座りながらユーディに尋ねた。

「直撃した」

「んー、でもダメだったのかぁ…まあ、ダメ元だったんだけど。そもそも僕、中から追い出すってやった事ないし。向こうじゃ、一旦入っちゃったら、もう一切手出しできないからね」

 アイリーンが小さく溜め息をついた。「レジィでも無理だったの…」

「うん。どうするかだよね。あっちではどう頑張っても手出しできないから、眠ってる間にこっち戻ってる時に何とかするしかないんだろうけど…あ、僕、矢作りながら話すよ。愛理が目覚めたら、すんごく忙しくなりそうな嫌な予感がするからさ、出来るだけ多く作っておきたい。ほら、2人とも座ってよ」そう言って、レジィは愛理に見せたあの金色の矢を作り始めた。

「あれは異質よ」椅子に座ったアイリーンが話し始めた。「あれが入ってきた時、探りをいれてみたけど、ひとかけらの善意も無かったわ。いくら最下層のモノでもこの霊界に属するモノなら、埋もれてしまっていようが絶対に持ってるはずなのに。霊界のモノじゃ無いのは間違いない」

「という事は…魔界に属するモノ?」ユーディは少し顔をしかめた。

「そう。だからあなたの鎌で刈れなかったの。あるべき場所へ飛ばすといっても、銀の月の影響力はこの霊界の中に限られるわ。あの時、コントロールを奪われそうだったから、愛理が目覚めた瞬間、自分ごと固めたの。あれは、愛理と一緒に抜けようとしてた。私の中になんとか押しとどめたけど、それでも一部は愛理と行ってしまった。狙いは最初から愛理だったのよ」

「そう…銀の紐のある者に入ってあちらへ行って、自分の好きなようにしたいと言っていた」ユーディがいつもの淡々とした口調で言った。「けど、魔界のモノは、ここ霊界へは入れないはずだ」

「普通はねー」レジィが口をはさんだ。「けど、あっちにはゴロゴロしてるからさ。僕、魔界系も結構(はら)ってるよ。あっちの世界を介して、何かうまくやったのか…たまたま入れちゃったのか、何かしらイレギュラーが起こったんだろね」派手なレジィは、さっきから金の矢を作りだす度に、更に派手な光を放っている。「大体、僕のこの光輝制御できる能力だってイレギュラーだしさ。自分でもどうやって出来るようになったのかわかんない。祓師(はらえし)で向こう行く度に、切ったり戻したりして貰ってるうちに、なんかコツつかんじゃったのかなーって思うけど。きっと、僕、霊界中で一番可動域広いんじゃないかな」そう言って、レジィはまた派手な光を放ち、1本矢を作り出した。「けど便利なようでそうでも無いんだよね…これ」レジィはボソボソと独り言のように呟いた。

「確かに、例外は必ずあるものだが…上が間違ったって事か…」

「仕方ないよ。どこまで行ったって完璧なんて無いんだからさ。僕らはただそれを目指すだけ。だよね?」レジィは矢を作るのを中断して真顔でユーディを見た。

「わかってる。わかってるが…私は、無駄にアイリーンと愛理を切り割いたのか…」ユーディの全身の色が目に見えてくすんだ。

「ユーディ、ごめんなさい。あなたに辛い事させてしまって」アイリーンが慌てて声をかけた。「でも、もうそれは気にしないで。助ける為にしたってわかってる事だから。あなた、いつも言うじゃない。何事も動機は考慮されるべきって。私は何ともないわ」そう言ってアイリーンはユーディに微笑みかけた。

「けど、愛理に深い衝撃を与えてしまった…向こうでも記憶に残るほどの」

 アイリーンは何も言えずに目を伏せた。

「確かにね。刈られた方も衝撃受けたみたいだけど…」レジィが口を開いた。「どうやら、刈った側の方がダメージ大きいみたいだね」レジィは半ば独り言のようにそう言った。

 ユーディはレジィを見た。

「気持ちはわかるけどさ…僕だって、祓う為でも射るのイヤだし…アイリーンや愛理をってなると、すっごいキツイよね。良くわかるよ、ホントに」レジィはまた派手に光って矢を作った。「でも、前見てよ」レジィは真夏の太陽のような瞳をユーディに向けた。「でないと、その愛理がもっと大変な事になる。愛理さ、心の中で思ってたよ。炎が消えてるって。青い炎みたいだったのに。ってさ。僕にも見せてよ、その青い炎。そろそろ、火、点けてよ」そう言ってレジィがニッコリと笑いかけると、キラキラと派手に光が舞った。

 愛理…そう、前を見ないと…

 ユーディは小さく頷いた。ユーディのくすんだ色が少し回復していた。

「あれが入ってから愛理の思念、バッタリ途絶えたね。どこに居たって僕たち守護者なら聞こえるはずなのにさ。アイリーンも聞こえないよね?」そう言いつつ、レジィはまた派手な光を発して矢を作り始めた。

「ええ。愛理の意識、あれに抑え込まれてるんだわ」

「完全にヤツに乗っ取られてるんだね。向こうが拒否っててジャンプも出来ないしさー、ここの仕組み良くわかってるよね。かなり長く潜んでたんじゃないかな。頭の切れる慎重なタイプ?っぽい?」レジィはチラッとアイリーンを見た。

「そうね。さっきは、もう、私も愛理もアレも全て一緒に固めてしまおうとしたの。そうするしかなかった。あれに、愛理を奪われて永遠の(せい)(けが)されるくらいなら…狂わされてしまうくらいなら、固めてしまった方が良い。そう考えたの…ユーディ、あなたを信じて」

 ユーディは驚いてアイリーンを見た。

 アイリーンはユーディをじっとみつめて続けた。「あなたなら、きっと、いつか解決してくれる。何とかしてくれる。そう信じて」

 ユーディのくすみの残る色がみるみる戻り、元以上の輝きを見せた。

「けど、あっちが上手(うわて)だったわ…銀の月を利用して私だけ飛ばした。確かに中まで刃が入れば私だけがあの場所にはそぐわなくなって飛ばされる。直前に耳にした話をうまく利用するなんて…自分が銀の月では刈れない事も承知してやった。ホント、悪知恵が働くみたい。愛理が…あんなモノに奪われてしまったなんて」アイリーンは涙をためて、唇を噛みしめた。アイリーンの色も一瞬くすみを見せたが、すぐに戻った。「上も考えてはくれてるはずだけど…とにかく今は追う事すらできない。今、他の守護者たちに愛理の周りの人の守護者に手分けして連絡して貰ってるの。愛理に注意するようにって。それから、青井音風(あおいおんぷ)の守護者には協力してくれるようお願いして貰ってる。愛理の周りにいる人の中であの子が一番守護者の声が届きやすいから。それにあの子は愛理の為ならきっと無条件で動いてくれる」

「そうだね」ユーディは同意した。

「それから、ユーディ。優を覚醒させて欲しいの」

 ユーディは困惑したような顔をした。

「どの道、刈取りの仕事はできない。なら覚醒させても問題ないはずよ。お願い、優にあっちで愛理を守って貰いたいの。これも今、他の守護者に頼んで上に許可を取って貰ってるから」

「優が拒否したら…するはずが無いな」

「ええ。あ…許可取れたって」と言って、アイリーンは耳を傾ける様子で少し難しい顔をした。「今は、愛理が先よ!伝えた以上の事は何もわからないって伝えて!」アイリーンは急に声を荒げた。アイリーンの色が一瞬にして黒味の強い赤を帯びた。

 レジィは目を見開いてアイリーンを見た。「嫌な赤が強く出たアイリーンなんて初めて見た。アハッ。貴重体験だ」

 ユーディは少し口の端をあげた。

「え、何?ユーディ、見た事あるんだ?」

「アイリーンとは随分と長い付き合いだからね。でも貴重体験には違いないよ」

「ごめんなさい、つい」アイリーンは恥ずかしそうにそう言うと、すぐに、元の色に戻っていた。「上が、私に報告に来いって言ってるって言うから…魔界のモノがここに入り込んだ原因を究明しないとって事みたいだけど…私にわかるのは、あれが魔界系だって事だけなのに。私はいつもみたいに歌ってただけよ、光の波が広がって行くのを感じながら気持ち良く歌ってただけ。突然異変を感じた。どこからどうやって入り込んだのかもわからない。どういう姿だったのかもわからない。何も見てないの…私が目を閉じた隙をついたんじゃないかしら。…色んな考えがあるのはわかるけど…今は愛理が何よりも先よ」

「アイリーン、優の意識を覚醒させると、私と一体になった時、優の意識が優位に立つ。優がしようとさえすれば、私が出来る事は何でも出来るだろうけど、私としては直接的には何もできなくなる」

「ええ、愛理を覚醒させた時の私がそうだった。承知の上よ」

「わかった。アイリーンから話して」そう言ってユーディは目を閉じた。


 ユーディはすぐに目を開いた。


 何?このキラキラ空間…キラキラな2人?ハロウィンだっけ?過ぎたよな。いや、そんなレベルじゃない、何かの撮影か?

 ユーディの姿の優は、いぶかしげにキョロキョロと周りを見た。

「優」アイリーンが声をかけた。

「わっ、キラキラ人形がしゃべった」優はビクッとして体をのけぞらせた。

「え?」

「ぷっ」レジィは思わず噴き出した。周りに光が飛び散る。

「わっ、なんだ、ぴかぴかって…目の錯覚?こっちは超ド派手だしー」

「アハッ。僕、優の方が話しやすいかも。ユーディかたいんだよねー」レジィの光のキラキラが派手に飛び散った。

「夢かな…」優はあっけにとられた様子で呟いた。

「ふふっ、そうね。こんな表情豊かなユーディ、見たことない」そう言いつつ、アイリーンは、優の前に鏡を作り出した。

「うわっ、今度はなんだ?イルージョニスト?あっ、だからキラキラ?いや、そーゆーレベルのキラキラじゃないよな、これ」

「創造しただけよ…こっちでは想像…思い浮かべたものをすぐに形に出来るの」

「は?」

 アイリーンは見たことのないユーディの表情に笑いをこらえながら、鏡を指差した。「良いから、見て」

 優は言われるまま鏡を覗き込んだ。

「わっ、誰これ…私?はあ?キラキラだ…ってか完全に男だし…何か、かっこ良いけどさー、なんだよこの目、カラコンか?ってか、これ何色?青?赤?こんな色見た事ない…で、なんで鎧?なんだよこの綺麗な…鎌か?なんなんだよー、コスプレ?わー、でもコスでこんなキラキラ無理だー。目も無理だー。私、どうなったー、やっぱ夢か?イヤ違う、実感ありまくりだし」優は頭を抱えて一人で混乱し始めた。

「あーあ、違う意味の火が点いたみたいだ」レジィは肩をすくめた。

「ん?こっちの2人は金で、私は銀?2位?同じキラキラでもなんか負けた気分だ」優は訳のわからない事を言い出した。

「クッ。2位って…大丈夫、負けてないからさ。まあ、落ち着いてよ。ねっ」レジィが、小首を傾げてかわいくそう言うと、明るい光がキラキラと飛び散った。

「はあ?光がー、キラキラ~ピカピカ~ってー?こんなの金粉撒いたって無理だー、有り得なーい。しっかりしろ、私」優は自分の両頬を平手でバシバシ叩き始めた。

 レジィはアイリーンを見た。「面白いからずっと見てたいけどさ。時間ないし、これ、どうする?」

 アイリーンは軽く息を吐いて言った。

「優、愛理を助けたいの。力を貸して」

 さすがにアイリーンはツボを心得ていた。

「へ?愛理?」

 優は一瞬で冷静な様子になって、真っ直ぐにアイリーンをみつめた。



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