続イレギュラー
音風も呆気にとられ、口をぽかんと開けて愛理の顔を見ていた。
まさかのキスおねだり?…って…なんっすか?この意外すぎな展開…
「お前、急に何言ってんだ?」優も完全に呆れ口調だ。端正なユーディの顔が歪みまくっている。
「ふっ。ほら、絶対優でしょ?」
「愛理の顔して、訳わかんない事言ってんじゃねーよ」優は思い出したかのように睨みを効かせ、鎌を突き付ける手にも力を込めなおした。
「ね、優、キスしてよ。早くぅ」愛理は上目使いで甘い声を出した。
「やめろ!気持ち悪い。んなこと、するかよっ。ったく」ユーディの青っぽい姿に嫌な赤色がはっきりと出た。
「あたし、向こうでね、優ってすっごく素敵ーって思ってたの。鬼ごっこより良いじゃない」愛理は甘え口調でそう言ったかと思うと、豹変したように低い声を出した。「キスしてくれないなら、愛理ごと魔界へ戻るわよ。連れてっちゃって良いの?」そして、恐ろしく冷たい視線を、青を秘めた赤い瞳に向けた。
へ?何?そんな事出来んのか?
突然、優の頭の中でスーちゃんの声がした。スーちゃんと繋がった。
『こいつ、愛理ごと魔界へ戻るとか言ってんだけど、そんな事出来んのか?』優はスーちゃんとレジィに同時に尋ねた。
『それ、僕わかんないーって言うか、優、下に居んの?どうなってんのさ…』レジィの声がした。
『天使様、わからないって…上もわからないって言ってるそうです』スーちゃんの声だ。
音風は音風で花奈と繋がり同じ事を尋ね、こっそり現状を報告した。
『優先輩、天使様が気を付けてって言ってます。きっと何か企んでるって』再度、スーちゃんの声がした。
『って言われてもさ、気をつけろって、一体どう気ぃつけりゃいいんだよ』
『時間稼いでって…レジィが矢をみつけるまでなんとか…だそうです』スーちゃんがアイリーンの言葉をそのまま伝えている。
「優、誰かと話してんの?」愛理はいぶかしげな顔をした。「こんな下の層で話せる相手なんて、居る?…あっ、あの昨日の地味か派手かよくわかんないヤツか、あたしに派手な光、撃ちこんでくれた…あれ、祓師でしょ。弓持ってたもんね。あたし大嫌いなのよねー、祓師。向こうでさんざん祓われたし、あいつら鬱陶しくて仕方ないのよね。あっ、もしかして…さっきのあの臭いの…ああ、あいつか。なるほど…」
こいつ…なんかおしゃべりだな、典型的な女子か?…だったら、立ち話で時間稼ぎだ!
優はそう思いつくと口を開いた。
「お前さぁ、一体何がしたいわけ?」ユーディの姿ではあるが、すっかり普段の優の調子だ。嫌な赤色はもう消え去っている。
「は?…優とキスしたい。さっきからそう言ってるでしょ」
「はぁ?…まあ、ちょっと聞けよ」
「…誰だかわかんない人の話なんて聞かない。優なの?どうなの?」
「…優だから、聞けって」
「ふっ、まあ良いわ。聞いてあげる。この鎌鬱陶しいからどけない?どうせ意味無いんだし」
優は少し間を置き銀の月をゆっくりと降ろすと、話を続けた。
「良く考えてみろって、愛理と私は幼馴染、友達、親友」
「だったら何?」
「でもって、女同士。それがキスってさ…おかしいだろ?」
「良いじゃない。優だけど、姿はユーディなんだから、愛理も喜ぶんじゃない?」
「いや、でもさ、私の方はさぁ…」
「あたしも、幼馴染の愛理じゃないから良いでしょ?」愛理ではない愛理はニッコリ笑った。
「けど、愛理の顔してるし…さ」全く優らしくはないが、時間稼ぎの為にグダグダと言っている。
「ふっ。はい。終わり。で、キスするのしないの?どっち?」
くそっ、切られちまった。
ユーディの姿の優は唇を噛みしめた。
「良いの?永遠にさよならしよっか。このままなら、音風も一緒に行くことになるわね。離した方が良いんじゃない?音風ちゃん」愛理はそう言って、するどい視線を音風に向けた。
へっ、魔界?って何?なんかすっごいやばそう。けど、離したら永久に追えなくなるって…えー、これ、究極の選択っぽくないっすかー?
音風はスッポンしたまま困った顔をした。
「待て!わかった。待てって。キスするから待て、早まるな」優は慌てて口をはさんだ。
『レジィまだかー?!』優はレジィに向けて叫んだ。
『見つからないんだってば、頑張ってるんだよ、ホントにさ』最後にレジィの溜め息まで聞こえてきた。
「優、早くしてよ。あたし、もう待てない」愛理は口を尖らせて、とろーんとした目をユーディに向けた。
くそーっ!何でこうなる…
ユーディの体に、また嫌な赤色が出ている。
ユーディの姿の優は、小さく舌打ちして、ゆっくりと銀の大鎌を背中に収め、ゆっくりと愛理に近づき、愛理と見つめ合う形になった。
愛理は満足気に微笑みながらユーディの両肩に手をかけた。
こいつ、愛理の顔しやがって、くそっ、私の方は愛理にキスする気しかしないってんだよ!
『優先輩、気をつけてって、天使様が…』スーちゃんの遠慮がちな声がした。スーちゃんは優と繋げっぱなしなので優の考えてる事も全部聞こえている。優が相当イラついているのもびしびし伝わっていた。
だからー、どう気ぃつけんだよ、キラキラ人形!こうなったら、キスするしかねーだろがっ!ばかレジィ、早く矢みつけろ!
優が心の中で思いっきり悪態をつくと、ユーディの姿が一瞬にして完全に嫌な赤色に染まった。これもかなり相当な超レアだ。そして、嫌でも全部聞こえている、ほんわかスーちゃんが『青の島』でほわーっとした顔をしながらびびりまくっているのも間違いない。
音風は音風で更に困った顔をしていた。
姿は違うけど…優先輩と部長のキス?こんな超至近距離で?えー、私、見てて良いんだろか?いや、でもどうなってるか伝えないと…だし…えー
愛理がうっとりとした顔つきで口を近づけながら言った。
「ねぇ、優。目、閉じてよ」
「はあ?」ユーディの顔は完全に険しいお怒りモードだ。目の下がひくひくしている。
「言う通りにするの?しないの?」と二択で聞いてはいるが、実際の選択肢は1つしかない。愛理はもう後10cmほどで唇が触れる距離まで来ていた。
ユーディの姿の優は、はぁーと大きく息を吐き、仕方なく目を閉じた。
が、すぐにバッと開いた。青を秘めた赤の目が大きく見開かれている。
「ひっ」音風が目の前の光景に思わず声を漏らした。
『何か…』音風は半分顔をそむけながら花奈に伝えた。『気持ち悪い黒いドロドロしたのが、部長の口から出て…ユーディ…優先輩の口に…移動してる…ぁぁ、何これ、グロすぎる…無理ー!泣きそー、部長ー優先輩ーどうなんのー?!』
『…音ちゃん先輩…ファイト…です…』花奈が涙声になっている。
音風は目を逸らすわけにも、閉じるわけにもいかず、涙の溜まった目で不気味な光景を見ているしかなかった。
でも愛理を握りしめる手は離さず、むしろギュッと握りしめて、歯を食いしばってスッポンに徹した。




