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プロローグ


 赤を秘めた青の不思議な瞳の色のユーディ…

 銀青色の髪をなびかせ、青白い光を放つ三日月型の大鎌を大きく振るった

 ユーディの目が、血のように赤く鈍い光を放つ


 愛理(あいり)はパチッと目を覚ました。すぐにガバッと半身を起こし、パジャマをまくり上げて自分のお腹を見た。

 何ともない…心臓がバクバクしてる…何、今の…夢?赤い目のユーディ?

 私、ユーディに切り割かれた…



「年明けたらあっと言う間に部長、卒業しちゃうから、3人になっちゃいますよ」愛理が部長を務めるウクレレ同好会の副部長、一学年下の青井音風(あおいおんぷ)がウクレレの調音をしながら愛理に話かけた。ウクレレ同好会の部員は一学年に1人ずつ。ここ2年は新しい部員は入っていないから、たったの4人だけ。

「私ぎりぎりまで居るから。このまま短大に上がるの決まったし、顔出すよ。同じ敷地だしね、ここも近い」愛理も同じく、(げん)の調整中だ。ウクレレ同好会の部室があるのは本館と呼ばれるレンガ造りの古い建物の2階。本館は短大の校舎と中高の校舎の間にあった。ちなみに、ここは、聖イリス女学院。清楚で可憐な制服が人気の中高一貫の名門私立女子校。

「私もそのままここの短大上がるつもりなんで、まだまだご縁は切れませんよ、部長」他の部員2名はまだ来ていない。チューニングしながら2人で雑談タイムだ。

「ふふっ、嬉しいな。思えば(おん)ちゃんとは長い付き合いよね」

「そうですねー、あっと言う間に5年ですよ。私、良い音出せるようになりましたかね?」

(おん)ちゃんのは元々良い音」

「ホントっすか!音フェチの部長にそう言われると気分最高です」音風は片手でガッツポーズを決めた。

「けど、ほんとに、気が付けば、結構長いね」ホントに音ちゃんには色々助けて貰って来たな。2年前のあの時だって、音ちゃんが居てくれたおかげでどんなに救われてたか。音ちゃんが居なかったら私耐えられなかったかもしれない…

「そうですけど、部長にはもっと長い付き合いの人が居るじゃないですか」

「へ?…(ゆう)のこと?」

 音風(おんぷ)は弦の音に聞き耳を立てながら頷いた。

「優は、長いって言うか…生まれた時からずっと一緒。腐れ縁」

 多分、それ以上の縁。だって生まれる前から予定されてたらしいから。

 私と優は向こうでの使命を持って生まれた。私と優は眠っている間に向こうに戻って毎晩使命を果たしてる。私はアイリーンと一体になって歌い、優はユーディと一体になって下層のモノを刈り取る。4人が揃わないと成り立たない使命。きっと、ただの腐れ縁なんて言葉で片付けちゃいけないんだろうな。でも、起きたら向こうでの事は全部忘れてるから、こっちの優は何にも知らない。知ってるのは私だけ。私は2年前、イレギュラーに記憶が残るようになってたから…ユーディは覚醒させたって言ってたかな、あの時の記憶がまだしっかり残ってる。私のただの妄想って言われたら終わりなんだろうけど、誰に何言われようが、私の中には確信がある。なのに、なんであんな夢見たんだろう。ホントに夢なのかな…ユーディは私を守る存在。ユーディが銀の大鎌…『天翔ける銀の月(あまかけるぎんのつき)』で私を刈るなんて、そんなはずないのに。あの夢のせいで朝からずっとすっきりしない。なんだかちょっと不安だし。

「部長、少なくとも、まだ後2年、よろしくお願いしますよ」

「あ、こっちこそよろしくねっ」愛理は少し首を傾げてニコッと笑った。

「部長、なんか最近変わりましたよね。いや、良い方にですよ?愛嬌出てきたっていうか」

「へっ?そう?」愛理は驚いて音風を見た。

「なんて言うか、部長、もっと真面目ーな硬い感じだったですよね。もうすぐクリスマスだし、もしかして彼氏できたとかですか?」音風は目を見開いて少し身を乗り出した。

「出来てたら、ここに居ないと思わない?」愛理は苦笑いした。

「確かに。ま、毎日、(ゆう)先輩そばで見てたら、その辺の男どもはしょぼく見えそうですね」

「んー?どうかな。まあ、ずっとそばで見てるのは確かだけど」

「あのハーフ男子みたいなかっこいい顔で話しかけられたらドキドキしません?」

「えっ、(おん)ちゃん、ドキドキする?」

「いや…多少…ですかね?」音風は少し首をひねった。

(おん)ちゃん、そういう趣味あった?」

「全く無いです。先輩かっこ良いーとか言ってるの聞くと、女が女相手に何を騒いでんだか。って思いますね。けど、(ゆう)先輩は、例え女子校じゃなかったとしても、女子にもててたと思いますよ」

「んー、かもね」

 幼児期の髪の長かった(ゆう)がとんでもなくかわいかった事を(おん)ちゃんは知らないからなー。そう言えば、うちの母親なんて『優ちゃん、お人形さんみたい!かわいー!』って会うたびにバカみたいにキャーキャー騒いでたっけ。こういう記憶はいつまで経っても消えないんだから、もう良いのに、全く。ま、優は、普通に髪伸ばして女子らしくすれば、その辺のモデルなんて屁でもないだろうし、男にだってもてまくるに違いないんだけど。あ、噂をすれば来た。

 噂の優は戸口で2人にニッと笑いかけながら軽く手を上げると、部外者だというのに遠慮の欠片もなく中に入ってきた。そして、自分の指定席と言わんばかりに壁際の椅子に座り、隣の椅子にカバンを投げ出した。「バスケ引退してからホント暇だなー。推薦も無事決まったし」

「優、またここで時間つぶすの?」

「うん。愛理と一緒に帰る」

「先帰れば良いのに」

「まあ、部長良いじゃないですか。みんなも喜んでますし」

「喜んでる?花奈(はな)とスーちゃん?」愛理は怪訝な顔で音風を見た。

「ええ。あの2人、ほわーってしてるんでわかりにくいですけどね」

 (おん)ちゃんがそう言うなら、きっとそうなんだろう。「まあ、みんながイヤじゃないなら良いけど」

「やな訳ないですよ。部長、他でもない、優先輩ですよ?学校中の憧れの的ですよ?」

「そうだよな?音風(おんぷ)は話がわかるやつだなー」優がここぞとばかりに乗っかった。

「だから、それ、やめてくださいって。『(おん)ちゃん』か、せめて『青井』でお願いします」

「そんな嫌?かわいい名前じゃん。『青井音風(あおいおんぷ)』ってさ」

「ぅわーっ!」音風は優の声をかき消すようにわめいた。「フルネームは特にダメですよ」

「なんで?お前さ、自分でそんなの描いてるくせに何言ってんの?」優は音風のペンケースに描かれている青い色の音符マークを指さした。『青い音符』だ。

「これは、なんていうか、自分で自分と闘ってるっていうか…うまく言えませんけど、名前のせいで色々あったんで。きっとトラウマってヤツですよ。後10年くらいしたら受け入れられる…かもしれません」いつも明るく元気な音風が珍しく神妙な顔つきになっている。

「ふーん。なんかわかんないけど、お前、頑張ってんのな。じゃあ、『音ちゃん』で」

「どうも」

「音ちゃん、一体どこがドキドキしてんのかさっぱりわかんないんだけど?」愛理はわざと話を逸らした。

「えっ、部長ー、それバラすの無しですって」

「は?何がドキドキすんの?」

「なんか、優に話しかけられたらドキドキするんだって」

「へー。ふっ、ホント良く言うな。嘘つき発見。お前はしてない」優は音風を見てニヤッと笑った。

「そうですかね?」

「見てりゃわかるって。愛理の次に普通。珍しいタイプな。超レア。貴重品」

「何それ、優に話しかけられたらみんなドキドキしてるみたいに聞こえるけど」すかさず愛理がつっこみを入れた。

「してるよ。笑いかけでもしようもんなら、一瞬で恋しちゃいましたみたいな顔するしさ」優は平然とした顔で言ってのけた。

「もう、優、やめときなよ」愛理は呆れた顔をした。

 ホントに優は年々かっこ良さに磨きがかかりまくってる。それは認めるけど…

「やめとくも何も、私は普通にしてるだけ。向こうの勝手だし、知らないよ」

「まあ、そうですよね」音風が優に同意した。

「そうそう。やっぱ、音ちゃんは話わかるヤツだわー」優はニッと笑った。

 ふふっ、この『ニッ』が無敵なんだよねー。優の場合これだけで大抵何でも許されちゃう。

 そんな事を思いながら、愛理はジャンとコードを鳴らした。「音ちゃん、コード一緒に合わせてみて、せーの」ジャン「うん。OKだね」


「ウクレレ同好会、部長抜けたら3人になっちまうのかー。大変だな」2人で帰りながら優が愛理に話しかけた。ちなみに、優と愛理の家は同じマンションの同じフロアにある。

「短大行っても顔だすつもりだけど、音ちゃんが居れば大丈夫。音ちゃんは私の事立ててくれるけど、実質、ずっと音ちゃんが部長みたいに仕切ってくれてたし」

「そう?ま、あいつが良い意味で変わってるのは認めるけど、別に立ててるって感じには見えないけどな」

花奈(はな)とスーちゃんが入部してくれたのだって、しっかり者の音ちゃんが居たから。見学に来た時、すごい頑張ってアピってくれてた。私何もしてないし」

「んー。愛理はさ、多分、自分評価が低すぎる」

「へ?急に何」

「もうちょい自信持って良いと思うけどな。色々と」

「ふーん」そりゃ、私も優みたいなら自信持てるだろうけどね。


 夜、愛理はベットに入って眠ろうとすると、ユーディに刈られた夢を思い出し、不安な気持ちが膨らんだ。

 今日は特に何も無かった。優もいつも通りで普通だったし、大丈夫よね?あれはただの夢。きっと、私が気にし過ぎなだけ。

 愛理はそう自分に言い聞かせ、眠りについた。



 気が付くと、愛理の目の前に、青白く光る大鎌を背にした鎧姿のユーディが居た。ユーディは赤を秘めた青の目で愛理をみつめていた。

「ユーディ…」突然、愛理の脳裏にユーディに刈られた映像が鮮明によみがえった。

「いやっ!」愛理は頭を抱えてそう叫ぶと、その場から消えた。



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