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願い

作者: 伊達邦彦

「願い」



水原啓子は、優しい女性である。美人ではないが、えくぼがチャーミングだ。

都内で、ひとり暮ししている。地味で、部屋も質素である。

年頃だが、男性から声をかけられることもない。

読書家で近眼なのも、なかなか発展しない理由かも知れない。


しかし、とても親切で電車に赤ちゃんのいる若いお母さんがいたら、すすんで席を譲るのである。

都会の駅前で、所在なげなおばあちゃんを見かけると、荷物をもってあげる。

ついまわりの人が心配するが、彼女は、のほほんとしている。けっこう精神的には豊かな毎日なのだ。


ある日、不思議なことがあった。

彼女は、空想癖があって、街角で白日夢をみているようなところがある。

よく母親が、「あんたは、よく魂が抜けたようになるから」と、こぼしていた。

考え事をしていて、電信柱にいやというほど頭をぶつけたりした。星が飛んだものだ。


ポンポンと肩を叩かれて振り向くと、その白髪の老人がいた。

老人なのだが、気品がある。

だが、服装が奇妙だ。白い着物を着ている。

「お嬢さん、近々いいことがあるじゃろう」白髪の老人は、豊かな髭を、なぜながら言った。

えっ?

そして、スゥーッと消えたのである。

真っ昼間から幽霊でもないわよね。

彼女は、気分を変えるためにお気に入りのカフェに入った。本来が楽天的なのである。

バックから読みかけの本を出すが、集中できなかった。

実は、あの老人の言葉が気になっていたのである。

いいことが……あるじゃろう……。

頭の中を、その言葉が、くるくる回ってるみたいだ。

いいことって……?

カフェ・オ・レをゆっくり飲み干すと、読書をあきらめて、店を出て歩き始めた。

給料日前だから、ぜいたくは出来ない。表参道をブラブラしていると、いつも気分が高揚してくるのだが……。素敵なバックを見ても、ピンとこない。

地味な彼女だが、やはり女性である。人並みにおしゃれしたり、素敵な男性とデートもしたい。

だが、自分には不相応なことだと思い込んでいるのであった。

だが、読書することは、彼女に大変な力を与えていたのである。本人は気付いていなかったが。


そして、その数日後、それはやってきた!

何の気なしに出したハガキ。オーストラリア旅行に当選したのである。

しかも当選したのは、ペアでの旅行である。

彼女は、思いきって一番優しそうな男性に声をかけた。恐る恐る……。

一つ年上の男性は、断るーー彼女は当然断られるだろうとーーどころか、いつも気になっていた。付き合ってもらえますかと、逆に告白されたのである。オーストラリア旅行は、ハネムーンとなったのだ。

老人はきっと神様だったんだわ。彼女は確信した。









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