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<2>

「 おかえり」


リビングへの扉を開けると、少女が正座をして待ち構えていた。同年代の女の子と比べるとやや小柄の黒上ロングの少女だ。


「おぉ...久しぶりだな雪」


約1年ぶりに会う妹へ俺は懐かしみを覚えながら言うと、俺の事情を勿論知らない雪は首を傾げる。


「あー、いやなんでもないぞ」


「...そう」


雪はぽつりと言うと、急に俺に抱き付いてきた。雪の慎ましいが自己主張する胸が押し当てられる。


「雪?」


「少し待って。にぃ分を補給してるところ」


昔から理解できていないのだが、にぃ分とは何なのだろうか?しかし、考えていてもしょうがないので言われた通り待つことにする。

暫くすると、俺の体に埋めていた顔を上げて「...補給完了」と小さく呟くとキッチンへ向かった雪。どうやらにぃ分が補給できたようだ。


家で家事をやるのは雪となっている。手伝いたい気持ちで山々なんだが、俺が何かを作ろうとするとゲテモノが出来上がるので雪に任せているのだ。実際、俺が異世界へ行った際に一番苦労していた事はまごうことなき食事なのである。


雪が夕飯を作ってくれてる間、俺は風呂掃除をするため風呂場へと向かった。しかし、もうお湯は入っていて、お風呂はいつでもカモンというかの如く湯気を放っている。

他にも何かやろうかと探したのだが、どれも先に雪がやっていて俺は申し訳ない気持ちでリビングへと戻った。


雪は兄の俺が言うのもなんだが、顔は良いし家事も難なくこなし、更には勉強もできるという運動が苦手なことだけを除けばハイスペックな子だ。将来は全国の男の理想の結婚相手として君臨するであろう。

あと1点言うのであれば胸が少し控えめなのでもうちょっと成長しないかなーってくらいだ。


と、雪に聞かれたらまずいことを考えていると、不意に背後―――キッチンのほうから何かが飛んでくるのを感じた。俺は振り返り、その飛んできたものを取るとそれを確認する。どうやら食器のようだった。


「...雪さん?」


「...今変なこと考えてた気がした」


目を細めて言う雪。なに、俺の考えてることわかっちゃうの?以心伝心ってやつ?俺今雪が何考えてるか分かるし。


「い、いや?考えてないよ?まぁ取り敢えずその手に持ってる包丁を納めてくれないかな?」


「...」


「ごめん。考えてました。ちょっと胸が心配だなーって。いやでも雪はこれからだから大丈夫だって!それにほら、貧乳好きの大人だっているし!」


「...にぃは好き?」


「へ?俺?そりゃー胸は大きいほうが――」


そこまで言ったところで、俺はハッとなり慌てて訂正しようと口を開く。

が、口を開く前に雪は相変わらず無表情のまま、キッチンへ行ってしまった。しかし、なんだかいつもとは違う無表情に、いや言い方が難しいのだが、なんだか無表情なのに悲しそうな顔に見えてしまった俺はキッチンへ行くと野菜を切っている雪をこちらへ向けさせた。


「さっきは悪かった。いや、正直に言うと胸は大きいほうが好きだ。だけど、雪なら何でもいいぞ」


我ながらクソみたいな訂正の仕方である。いや、もうこれクソみたいじゃなくてクソだな。

蹴られるか殴られるか刺されるか覚悟する俺。


しかし、雪はなぜかほっと胸をなでおろすと「...よかった」と言葉をこぼした。

ん?これはまあ結果オーライってやつなのか?

何とも分からないが、無事雪の機嫌を直すことに成功した俺だった。



翌日、今日は久々の学校なので緊張してしまい早く目覚めてしまった。何と時刻は朝の4時だ。

当然辺りも暗いため、部屋の明かりをつける。そしてベッドへ座り、暫く壁をボーッとみていると暇になったので何かしようかと考える。


そして悩んだ末、俺が思いついたのは喋り相手を作ることだった。

基本的に俺は一人でいることが好きなのだが異世界では野宿などをする際、孤独を感じるものだ。薪の火を挟みながら仲間と話してみたい。そんな俺の願いを叶えたのは魔法だった。


『召喚魔法』

契約を交わしたものを呼び出すことができるという魔法だ。


この召喚魔法のおかげで俺は孤独さを感じることがないまま最後までたどり着けた。召喚魔法様様である。


俺はベッドに座ったまま、手を前に出し魔力を込め、床に魔法陣を展開すると召喚したい者の姿を思い浮かべた。グルグルと回りながら輝きを増していく魔法陣。そして、一瞬この部屋を覆うように光が爆ぜると魔法陣があった場所には一人の少女が横たわっていた。


「ッ!ノア!!」


久しぶりに会った少女の名前を叫ぶ。ノアになにがあったのだろうか。横たわるノアの体を傷だらけで、衣服もボロボロだった。


「『キュア』!!」


慌てて治癒魔法を唱える。俺は回復専門の職業ではないため、あまり高度な回復魔法は使えないが、この傷なら大丈夫だろう。キュアの光は見る見る内に、ノアの傷を塞いでいった。

ひとまず安心なので、ノアをベッドに寝かせてやる。先程は苦しげな表情をしていたが今は健康的な寝息をたてているので大丈夫だろう。


体も前より痩せこけているし、食べ物も必要かと俺はキッチンへ向かった。


「えぇ、何もないじゃん...」


冷蔵庫の中にはなんと飲み物しか置いていなかった。仕方ない、近くのコンビニで何か買うか。

そう決めた俺は自室に戻り、着替えた後財布を取りだすと外へ出た。夏に近いせいか空は少し明るくなっていた。


コンビニまではそう時間はかからなかった。中へ入るとパンやおにぎり、サラダなど色々なものをカゴに詰める。女の子はこんなに食わないと思うが念の為だ。財布は軽くなったが、またバイトで稼げばいいだろう。屋根を伝って家へ帰った俺は自室へと向かった。


「あれ、起きてたのか」


ベッドの上にちょこんと座る少女へ声をかける。どうやら寝起きの為かボーっとしていて、聞こえていないようだ。


「おーいノアー?」


目の前で手を振ると、ノアはゆっくりと俺の顔を見た。そのまま見つめ合うこと数秒。

眠そうな顔は見る見るうちに変わっていき、目を見開き驚いているようだった。


「レン...ト?」


「おう、蓮人だぞ」


「ほん...とに?」


「ほんとだ」


そう言うと同時、ノアは飛び込んできた。そして、腕を俺の体に回すとそのまま顔を埋めて「蓮人蓮人」と連呼する。


「えーっとノア?」


呼びかけても聞こえていないのか、ひたすら俺の名前を呼び続けている。その声は、泣いているのか震えていたので俺は黙って収まるのを待つことにした。

暫くすると声が止んだのでノアの頭を撫でる。


「落ち着いたか?」


「ぅん...」


「そうか、んじゃあまずこれ食べろよ。腹減ってるだろ?」


パンを袋から出して差し出すと、ノアはそれに被りついた。

余程腹が減っていたのだろう。初めての物を何の警戒もせずに平らげたので、追加のパンを渡すと、それもすぐに平らげてしまった。

結局、ノアはコンビニで買ったもの全てを平らげた。


「まだ食うか?」


とは言うが、金は無し家に食料無しの状態なのでどうしようもないが...


「もう...大丈夫。ありがとう」


その言葉に俺は安堵の息を漏らすと「いいってことよ」と笑顔で言った。


「んで、さっきボロボロだったけどどうしたんだ?」


問うと、ノアの表情が曇る。


「盗賊が村を襲って、家もお婆ちゃんも失って...私」


「そんなことがあったのか...」


「レント...私これからどうすれば......」


再び泣きそうになるノア。


「ならここにいろよ。ここなら俺もいるし」


「ほんと...?」


「あぁ、ほんとだ」


そう言葉をかけてやると、ノアは笑顔になった。

召喚魔法は任意で召喚される前にいた場所へ戻ることができる魔法なのでノアが戻ることを願わない限りあの世界に戻ることはないだろう。


「ありがとう...レント」


「おう」


「ところで...ここってどこ?」


そのセリフをずっと待ってましたぁ!まぁあの状況下じゃ無理もないが。


「ん?俺の住んでた世界だよ?ノアから言うなら異世界だな」


「え!?」


本当はその驚いた顔を最初に見たかったなぁ。それを...おのれ盗賊め。

今度異世界飛ばされたらまず盗賊を殲滅してやる。


「本当?」


「おう、ってかこの部屋にあるのなんて今まで見たことない奴ばっかだっろ?」


俺が言うと、辺りを見渡し「確かに初めてのものばっかり」と納得した様子のノアは一冊の本を取り、興味ありげにその本をじっと見つめ――――


「―――ってそれは見ちゃだめだからね!?」


本を勢い良く取り上げ後ろに隠す。ノアはむぅと唸ったが観念したように辺りを徘徊し始めた。これは後で他のも隠しておかなければ...。


すごい、なにこれ、と子供のようにはしゃぐノア。

暫くそのままにしておこうとベッドに座った俺は携帯を確認する。


「6時前...そろそろ雪が起きる頃か」


「ん?ユキって誰?」


「俺の妹」


「レントって妹いたんだ...いいな、妹」


電源の入っていないゲーム機を持ったまま、自分にも妹が欲しかったのだろう、そう呟いたノアに俺はふふんと胸を張った。


「いいだろういいだろう!しかも雪はそんじょそこらの女と一緒にしないほうがいいぞ!可愛いい上に家事も出来るという最強の女の子なのだぁ!!」


最強の妹を持つ俺に嫉妬してるのか、さっきから唸ってばかりだな。まぁそれも無理はない。雪が俺の妹じゃなかったら告白して振られてるからな。振られるのかよ。


「むぅぅ...」


「まぁ、後で紹介してやるからそう拗ねんなって」


頭にポンポンと手を置き宥めてやる。しかし、それが逆効果だったのか「もういいもんっ」と後ろを向いてしまった。

どうすりゃいいんだこりゃ。妹が羨ましいんじゃないのかよ。


そこから数十分ほどノアは口を聞いてくれなかった。


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