第29話 せっかく解決したのに…
どうも、今回うまく書けたか不安の初心者Pです。
戦闘シーンに悲しい描写、難し過ぎます(´;ω;`)
そんなことよりも、第29話どうぞ~。
第29話 せっかく解決したのに…
王女の嘆きとも思える心の叫びを聞き、俺は解決を確信した。これならまだやり直せる。だって、この人はこんなにも自分の息子を愛している。王子も、母のことを愛している。
だが王女の話を王子に聞かせなければ、本当の解決にはならない。ということで、王子を呼びに王子の寝室へと向かって歩いている時だった。王子の部屋から異様な気配を感じた。
「(これは……マズイかもしれない)」
俺は直感した。この気配は敵だ。敵意というか、殺気を感じる。いや、それよりも王子の部屋にこんなのがいるってことは……。
「王子がヤベェ!!」
危険を察知した俺は、扉をノックもしないで強引に押し開け中に入る。中には王子と見知らぬフードを深く被った奴がいた。そして、そいつは細長い剣で今まさに王子を刺し殺そうとしている。
俺は躊躇いなくその人物に斬りかかった。しかし、俺の剣がまるで赤子をあやすように受け流されてしまった。しかも、動きは最小限にしているのが見て分かった。これは体力を温存しているというよりも、別にそこまで動く必要がないということだろう。
「お前、何者だ」
「……」
「しゃべらないか。だったら、しゃべらせてやるよ!」
俺は「コピー・オン」と呟きながら再び斬りかかる。そして、剣を交えている間に相手を観察する。
動きはジーン以上、技のキレもなかなかだ。持っている剣も業物だろう。黒い外套を纏いフードで顔が見えないが、長い髪がフードから見えるのでおそらく女。
しかし、女がここまで強いものなのか?俺の出会ってきた女は皆、戦闘が出来るタイプではなかったのだけど。
「ふふっ」
「ッ!?」
女が笑った。小さく、一瞬だったが確かに感じた悪寒。体が硬く動かなくなり、呼吸が乱れる。こんなこと初めてだ。ドラゴンと初めて戦った時だってこんなことにはならなかった。
何をされたか分からないが、取り敢えず俺は女と距離をとり剣を構える。が、どうにも力が入らない。それどころか、少しでも気を緩めれば剣を落としてしまいそうだ。
「ふ~ん……君、強いんだね」
「ぐ……」
少し高く艶めかしい女の声が耳に響く。その一言一言が俺を狂わせる。そんな気分だ。フードを被っているはずなのに、女の顔が見える。いや、見せられてる?
ダメだ!完全にのまれてる。きっと、これは相手の魔法か何かだろう。そうじゃなきゃ、こんな……。いや、もしかしたらあれかもしれない。今まで戦闘をいくつか経験してきたが、こんな気分は始めてだ。戦う前から、敗けると感じたのは。
「王子、王女のとこへ行け……」
「へ?で、でも————」
「早く行け!!こいつは、こいつはダメなんだ。俺じゃ、勝てない……だから早く!!」
「そ、そんな……うわぁぁぁ」
俺の指示通り王子は部屋から飛び出していった。我ながら情けないとは思う。強くなったと思ったら、こんなに弱腰になるなんて。でも、死なせるわけにいかない。あいつは守る……守る?あれ、これどこかで……。
「考え事なんてしてる暇、あるのかしら?」
「ぐ、うるさい!黙ってろ!」
「ふふっ、若いのね」
「くそ……」
ダメだ、余計なことを考えては。ここで相手から意識を一瞬でも逸らせば殺される。だから、相手しか見ない。集中だ。集中しろ!俺!
女を視界の中心におき、そこからずれないように立ち回った。そのおかげで女が良く見え、攻撃を凌ぎやすかった。だが、何か違和感も同時感じていた。それが何なのかは、女から意識を逸らさないためにも考えないようにしていた。
「《薙ぎ払い》!!」
「ふふっ、残念」
「馬鹿にしやがって……」
「じゃあ、次は私の番」
「な!?」
女がそう言った瞬間、俺の視界から女が消えた。驚いた俺は辺りを見回したが女の姿はなく、王子のところへ行ったかと思い後ろを振る向く。すると、背後から背中を触られる感触と女の声が聞こえた。
「捕まえた」
女の声はその一言だけだったが、それを聞いた時完全に体が動かなかくなった。いや、これは動かないんじゃなく、動かせなくなったのだ。まるで、蛇に睨まれた蛙のように。
力が抜ける感覚と共に、死の恐怖が俺を襲った。死ぬ、このままでは殺される。ただそれだけが思考を支配した。
「ふふっ、怯えちゃって可愛い」
「あ、あぁ……」
「でもダメよ。逃がさない。私の邪魔をしたことは、罪だもの」
「あぁぁぁ!」
動かない体を動かそうと必死にもがき、地面に倒れた。言葉もまともに出ない体を引きずるように扉まで這って行った。だが、扉の前に女が居て、俺の蹴飛ばし部屋の中へと戻した。転がりながら女の顔が見えた。笑っている。口が裂けていると見間違いするくらいに、満面の笑みを浮かべていた。
俺は蹴られた痛みよりも、逃げられないという恐怖で押しつぶされそうになっていた。
痛い、痛いし苦しい。俺は十分強くなったと勘違いしていたのか?いや、俺は今でもより一層強くなりたいと願っている。だったら、何が足りなかったんだ。俺に、何が必要だっていうんだよ。
「ふふっ、やっぱり君は強くなんてなかったわね。弱いわ」
「……あ?」
女の言葉が剣で突き刺されたと勘違いするくらい、鋭く俺の心を貫いた。弱い、そう女は続けてこう言った。
「弱い。それじゃ、何も守れないわよ?あの王子も、君の仲間も……ね」
仲間を守る……そうだ、俺はそのために強くなろうと思ったんだ。ただ強くなるためじゃない。守るために。でも、これはなんだ?今、俺は地面に這いつくばりながら涙を流している。なんだよ、これ。
女が床に倒れている俺に近付いて来る。手には鈍く光る剣が握られている。きっと俺は心臓か頭を貫かれて死ぬんだろう。何もできず、無様に死に絶えるのだろう……
「そんなの嫌だ!!!」
「あら?立ち上がった」
「死ぬのは嫌だ!何も出来ないのは嫌だ!弱いままじゃ、嫌なんだぁ!!!」
剣を握り締めようとしたが、やはり力が入らない。再び力を込めようとしたとき、さっき女に触れられたであろう背中が熱くなった。まるで、俺の力を吸い取っているように、力を込めるのと同時に熱くなる。
どうやら、女に何かされ力を吸い取られていたようだ。だが、それが分かってもなんの解決にもならない。今できること、それは吸い取られるよりももっと力を込める。馬鹿らしいが、これしか現状出来ることはない。そうしなければ、立っていることもままならないからな。
「ふふっ、かっこいい。そんな君にプレゼントをあげるわ。《インフェルノ》」
女が人差し指をこっちに向けて来たと思ったら、指先から黒い火が出た。そして、その火はゆっくりと部屋の床に落ちていき……大爆発を起こした。
俺は爆発で壁に叩き付けられ、意識を失いそうになるも立ち上がった。部屋は業火に包まれたような風景で、どうやら逃げ場はないらしい。このままだとウルトラ上手に焼けてしまう。
「頼む、出てくれよ。《アイス・グランド》」
床を思いっきり殴りつけるように、拳を突き立てた。すると、部屋全体が凍り始め炎をも凍らせ始めた。しかし、今の俺じゃ炎を全て鎮火することは不可能。まだ部屋の中には炎が立ち込めている。
そうなると必然的に氷は溶けていく。そして、中にあった炎も復活する。残念ながら、成果ナシだ。
「ふふっ、無駄な抵抗ね」
「やらなきゃ、やられるんでね」
「いい心がけ。でも、私が1人で来たと本気で思っているの?」
「は……?」
女の言葉に思考が停止した。考えれば直ぐ思いつくことだったが、緊迫したこの状況にのまれていて思いつきもしなかった。敵が、この女だけだと思い込んでいた。
だが、女のハッタリという可能性もある。俺の予想ではこの女、相当ヤバイ性格をしている。そんな女が言ったことを信じるのは……。
「信じないわよね?人は信じたくないものは信じない。そして、信じたいように信じる。そういう生き物だもの」
「……」
でも、本当だったら?もし、この女の言っていることが本当だったらどうする。今頃、王女と王子が2人とも殺されていたら。いや、考えるな。考えたらこの女の思う壺だ。
俺は再び《アイス・グランド》を発動、また溶かされ水となった。しかし、炎が完全に消された。なんとか炎を消すことに成功し、しかも部屋は氷が大量に溶けたため洪水状態。
「無駄よ?そんなことしても、何にもならないわ。ただ、君が疲れるだけ」
「かもな……でも、もし成功すればお前を一撃で倒せるだけの力があるんだよ」
「ふぅん、見てみたい気持ちはあるけど、倒されちゃ嫌だから君を殺すわ」
俺は祈っていた。この女が《インフェルノ》という魔法を使ってきたことから、俺を確実に殺すために業火以上の魔法を使ってくると予想していた。だが、もし雷とかの魔法でも使われたら計画は大失敗だ。
女は手を俺に向けてきて、魔法を唱えた。それは、俺の期待に応えるには十分な魔法だった。
「死になさい。炎よりも熱く、全てを溶かす《ラヴァーストリーム》」
女の手から放たれた溶岩の濁流は洪水状態の部屋の真ん中に流れ落ちる。俺は「キタ!」と叫びながら自分の周りに分厚い氷を張った。
高温の物体に水が触れた時、水は蒸発し水蒸気となる。この時、水の体積は約1700倍になるのだ。それが、大量の水に同時に起こったらどうなるか。答えは大爆発を起こす。これがきっと一度は聞いたことのある言葉、水蒸気爆発だ。
爆発は俺の予想通り部屋を吹き飛ばし城に大きな穴を開けた。まぁ、残念ながら俺も巻き込まれて死にそうなんだけど。というか、威力あり過ぎ……城半壊しちまうよ。
「まさか、ここまで計算していたなんて思わなかったわ」
女の声がさっきまで部屋だった場所、女が立っていた場所から聞こえた。まさか、そんなはずはない。だって、あれだけの爆発があったのにその場から一歩も動かないなんてあり得ない。
そう思ったが、声のした方を見てみるとそこには女の姿があった。服は破れているものの、特に外傷はなく。言いたくはないが、無事のようだ。
「ユウトさん!」
「な……お前」
「だ、大丈夫ですか!」
「ば……にげ、ろ……はや……にげ」
声が全然出ない。これじゃ、王子に逃げろと言えないじゃないか。ダメだ王子、ここに居たら。あいつは、女はまだ倒せてない。
俺が必死に王子を逃がそうとしていると、いつの間にか女が俺の隣に立っており喉を踏みつけて来た。そのせいで、余計に声が出せなくなってしった。
「ダメよ、君。言っちゃダメ」
「ゆ、ユウトさん!!」
「がぁ……あぁ」
「や、やめろ!」
「そうねー。じゃあ王子、君が死ぬ?」
「え?」
「君が死ねば、この子は助けてあげる」
王子が考え込む。そこで迷ってどうすると言ってやりたい。俺はいいからって、言いたい。けど、喉を踏まれている俺は声がまったく出ない。これじゃ、俺の戦った意味は……。
「分かった。僕が死ぬ。だから、その人を離せ」
「!?」
「ふ~ん、じゃあこっちに来なさい」
女の指示通りゆっくりとこちらに歩いてくる王子。俺は、それを見ていることしかできない。必死にやめろと声に出そうとするが「がぁ」とか「ぐぅ」としか出ない。しかも、うるさいと女に強く踏みつけられた。
「ユウトさん、僕聞きました。母様が僕のことを守ろうとしてくれたこと。僕のことを、愛してくれていたこと……。ユウトさんのお陰です。ユウトさんがいなかったら、こんな幸福な状態で死ねなかった。本当にありがとうございます。僕はもう、十分です」
やめてくれ……そんなことを言うな。そんな顔をしないでくれよ。俺はお前を守ろうとしたんだ。でも、力が足りなくてこんなことに……なのに、何でそんなに笑顔なんだよ!
俺の気持ちが伝わったのか、王子が苦笑いしながら俺にこう言った。
「だって、どっちにしろここで僕は死ぬ運命だったんです。でも、ユウトさんがそれを少し伸ばしてくれた。そして、僕の悩みを解決してくれた。これ以上何も望めないですよ」
「もうおしゃべりはお終い。じゃあ、さよなら」
女の剣が王子の胸に突き立てられた。そこからはスローモーションを見ている気がした。ゆっくりと剣が王子の胸に近付いて行き、突き刺さ……らなかった。
王子が何者かに突き飛ばされ、その人物の胸に剣は突き刺さっていた。そのことに女は驚いていたが、王子はもっと驚いた。もちろん、俺もだ。
「は、母様!!」
「と、トリナ……大丈夫?」
「母様、何で!」
「息子が危険な目にあったら、助けるのが……母親よ?」
王子を突き飛ばしたのは、王女だった。王女は王子を突き飛ばし、自らを犠牲とした。息子を助ける、ただそれだけのために自分の身を生贄にしたのだ。
「トリナ、強く生きなさい。私はずっとあなたを……あい、し……てる、わ」
そこまで言うと王女は倒れ、動かなくなった。死んだのだ。王子はそんな王女に近寄り、抱き着くようにして泣き喚いた。
女は突然のことで思考が鈍くなっているのか、踏みつける力が弱まっている。俺はチャンスだと思い女をの足を思いっきり持ち上げた。女は転び、俺は踏みつけから脱出できた。
だが、この状況は非常にマズイ。女には勝てないし、王子は……。
「許さない」
王子がそう言ったかと思うと、王子の体が光り出した。しかも、その光は黄金でどこか温かく、失われていた力が戻ってくるようだった。そして、さっきついた傷までもがその光のお陰で治っていた。
女の方を見ると、その光を見て酷く狼狽えていた。まるで、恐れていたことが実現したかのような。
「チッ、覚醒しちゃったか。まぁ、いいけど」
「許さない……お前だけは、絶対に許さない!!」
「ヤバッ」
王子の光が強くなったかと思うと、女は逃げるように外へと飛び降りて行った。それを確認すると王子は糸の切れた人形のようにパタリとその場に倒れてしまった。
女は逃げる時、破れた外套を脱ぎ捨ててこう言っていた。
「私はサザリー、この世界に神を呼ぶ者よ。王子も君も、必ず殺してあげるわ。待ってなさい、ユウト君」
気持ち悪。でも、こう言ってはなんだが……意外と美人さんだった。いや、これはマズイだろう。いろんな方面から大ブーイングされてしまう。
サザリー、か。あいつとの戦いは避けられそうにないな。でも、俺1人でノラ達…‥いや、世界を守れるのか?無理だな。そうなるとこれからの課題に、強くなるにプラス仲間を増やすを付け加えておかなければ。
この戦いで王女は亡くなった。俺が、守れなかった。いや、俺では何も守れなかった。自分さえも。これから、もっともっと強くならなければいけない。たとえ、何を切り捨てても……。
どうですかね。うまく書けていましたでしょうか?
次回から新章突入です。
お楽しみに~。




