第12話 たとえ奴隷でも…後編
どうも、初心者Pです。
今回の話はユウト視点しかありません。なので、ユウトの心情を細かく…ではないですが、メインに書いています。
さて、ノラとユウトの距離を縮める大切な話ですが、あまり楽しみにしないように。
では、第12話どうぞ~。
第12話 たとえ奴隷でも…2
俺だ、ユウトだ。今、かつてないほどに動揺している。動揺と焦りで変な汗が出て来た。
理由は簡単だ。ノラが家出したことだ。
「とりあえず、俺はこっちに行く。ユウトはそっちを探してくれ」
「分かった」
ジーンに言われるがままに、ノラ捜索に出かける。ミリアを一人にする訳にはいかないので、一応俺について来てもらっている。そういえば、ミリアの声って聞いたことないな。
宿屋を出て、ノラ捜索を開始してから数十分が過ぎた。
「あの、このくらいの茶髪の女の子見ませんでしたか?」
「いえ、見てませんけど」
「そうですか……」
聞き込みをしているが、一向に目撃情報が集まらない。道行く人に聞いて回っているのだが、やはりノラを見た人はこの中にはいないらしい。
結構真面目にどうしよう。こんなことならノラを連れて奴隷を買い行けばよかった。でも、今更こんなこと考えても意味ない。今はノラを探す事しかできない。
「ご主人様、お困りですか?」
「……え?」
どうするどうする、と俺が考えていたところに可愛い声が聞こえた。それはもう、ノラに匹敵するくらいの可愛い声が。
声のした方を見ると、そこには買った時から無表情だったミリアが立っていた。
「み、ミリア……?え、お前?しゃべれたの!?」
「……当たり前です。しゃべれない訳、ないじゃないですか」
「え、えぇ~」
ちょっと残念な気持ちになった。だって、さっきから何もしゃべらないし、「無口キャラか…それも、いいなぁ」と思っていたところだったのに。なんだよ~、しゃべれるなら最初っからしゃべれよ~。
「声を掛けられませんでしたので」
「心読まないで!」
「それよりもご主人様、何か忘れていませんか?」
「え?あ、ノラ!」
ミリアがしゃべったことがあまりにも衝撃的すぎて、ノラのことを一瞬忘れていた。危ない危ない。
とはいえ、ミリアがしゃべったからって何の解決にもなっていない。クソッ、一体どうすれば……。
「ご主人様、もしよろしければお手伝いしましょうか?」
「手伝い?何をするんだ」
「私は【探索】というスキルを持っています。これで、ノラさん?ですか。その方を見つけられると思います」
「……えぇ?」
あまりのビックリさに志村けんみたいな声で「えぇ」って言っちゃったよ。いや、人間本気で驚くと変な声出るって本当なんだな。
「じゃないよ!え?できるの、探せるの?」
「おそらく」
「早く言えよ!!」
「聞かれませんでしたので」
無表情で答えるミリアを見ながら俺は思った。あ、こいつ本当に聞かなきゃ何も話さないタイプだ。
「そっかぁ……じゃあ、探してくれる?」
「はい、分かりました」
なんだかお兄さん、ガッカリだよ。今までの数十分は一体なんだったのかなぁ。これからのミリアとの付き合い方を考えなきゃな。
まず、一番最初にミリアに質問する。これくらいじゃないと、この子は絶対にしゃべらない。
その後、ミリアのスキル【探索】で大体の場所が分かった。俺はミリアを連れてそこに急いで向かった。
ちなみに、ちゃんと「コピー眼」でしっかしとミリアを見ていたので、おそらく【探索】は覚えられていると思う。
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「なぁ、本当にこの辺りなのか?」
「はい、そのはずです」
ミリアが示した場所に到着した訳だが、ここはどこをどうみても裏路地ですね。ごみは散乱しているは、薄暗いは、ジメジメしているは、変な落書きはあるは……気持ち悪い!
本当にこんなところにノラはいるのか?お兄さん、不安なんだけど。
「こっちです」
「あ、ちょ…ミリア!」
何かに気が付いたミリアが小走りで裏路地のさらに奥に行ってしまった。俺は焦りながらも慌ててミリアの後を追う。
ミリアの後を走り少し経った頃、小さな声が聞こえ始めた。それは、だんだんと近付いて行き……
路地の曲がり角を曲がると、ノラを発見した。しかし、そこにはノラの他に見知らん男がいる。何をしているのだろうと様子見をしようと思った時……
「ユウトー!!」
ノラが悲鳴にも似た声で俺を呼んだ。この声を聞いた瞬間、俺の中で何かが冷える感覚と共に、殺意が湧いて来た。その矛先は言うまでもない、ノラと一緒にいる男だ。
「ぐ……うぐ」
「……ご、ご主人様?」
殺意で自分を忘れそうだ。良く見える。「ズーム」を使ってみると、男がノラの手を掴んでいるのがハッキリ見える。そして何より、俺の名を叫び泣きそうなノラの顔が良く見える。
「……あぁぁ!!」
本当に男を殺してしまいそうだったので、地面に向かって思いっきり「ファイアーボール」をぶっ放した。
ファイアーボールは地面にぶつかり大爆発。しかも、その威力はレッドグリズリー戦では見なかったほど協力なものだった。
「ミリア……いいな?」
「分かりました」
その爆発に気が付いたノラと男はこっちを見ている。丁度いいと思い、俺はゆっくりと歩きながら近づいた。
「テメェ、死ぬ覚悟はできてるんだろうな?」
拳を握りしめ、出来るだけ力を暴走させないように我慢する。
俺は男と5mのところまで来て立ち止まる。
「生きていたことを後悔させていやる」
男は目を血走らせながら俺を見ている。怯える様子はない。というより、ニヤリと笑いノラを強引に腕を掴み持ち上げた。
「あ?まさか、コイツの主人ってのはお前か?」
「チッ……テメェ、その汚い手を離せよ!」
「うるせぇなぁ。コイツが生きるか死ぬかは、俺の気分で決まるんだぜ?分かってるか?」
俺は怒りに任せて一歩を踏み出そうとした。しかし、男が腰の剣を抜きノラの首元にあてるのを見てグッと堪えた。
どうするか。思いっきり踏み込んで男をぶん殴る。だが、もし加減を間違えたりすれば通り過ぎたり……最悪、ノラに当たるかもしれない。
「クソッ……」
「ヒヒッ、やっと自分の立場ってやつが理解できたか。それで?コイツを助けたいんだろ。それ相応の態度ってもんがあるだろ、あ?」
「テメェ……」
俺は目を見開き男を見ながら拳を血が出るくらいに握りしめている。だが、その痛みを感じないくらい俺は怒っている。
「ヒヒッ、そんなにコイツが大切か?奴隷だろ、コイツ」
この男、何故ノラのことを……。いや、それよりもこいつにノラを奴隷だと言われると余計に怒りが湧いてくる。
「コイツが自分で言ってたよ。まったく、奴隷は<道具>だろ?何でそんなに固執する?壊れたらまた<買えばいい>じゃないか」
「それ以上汚い口でしゃべるな!本当に殺すぞ」
「あ~?まだそんなこと言ってるのか?分かってないなぁ。お前、これが見えないのか?」
男がノラの首元に剣を近づける。すると、少し当たったのか首元から血が流れ始めた。
「ッ……うぅ、ユウトぉ」
「クヒヒ、そうかそうか、あいつがユウトか。それで?新しい奴隷を買ったユウト君はどうしてコイツをそんなに守りたがるんだい?たかが、奴隷だろ?」
奴隷、か。ノラは本当は俺の奴隷ではない。ノラが自分で俺の奴隷だと言っているだけであって、奴隷契約をしていないし、ノラ自身も奴隷ではない。
だから、言ってしまえば自称奴隷な訳だ。だけど、ノラは本気で俺の奴隷になろうとしてくれていた。
「そいつは奴隷じゃない。だけど……」
奴隷じゃない。だけどな、たとえ奴隷でも……。
「たとえ奴隷でも、俺はノラのことを大切にするって決めたんだ。守るって、決めたんだよ!」
そうだ、奴隷だろうと奴隷じゃなかろうと、ノラはノラだ。俺はノラという一人の女の子を守ると決めたんだから。そんなもの、関係はない。
「ミリア!!」
「はい。凍れ、全て凍れ、この景色を白銀へと変えろ。《アイス・フィールド》」
ミリアが男の後ろから魔法を放つ。すると、ミリアの下の地面が凍った。それは男の足元まで伸びていき、男をも凍らせ始めた。
「な、なんがこれは!?」
「俺との会話で気が付かなかっただろ。あの爆発の後、ミリアは一人で路地を走り回りお前の後ろまで移動して魔法を放つ。そういう計画だったのさ。その時間稼ぎ、させてもらったぜ」
「く、クソォォ!」
男は足が一瞬で凍り、次は腰、腹と段々と凍っていくのに狼狽えている。凍るスピードは凄く早く、既に男の腕をも凍らせ始めた。
「ノラを離せ!」
男との距離を一気に詰め、さっきまで握りしめていた拳で男の顔面をぶん殴る。殴られた男はノラを離し吹っ飛んで行った。そして、路地の壁にぶつかり埋まっている。
「ノラ、大丈夫か?」
「ユウト……ユウト!、ユウト!!」
「ごめん、怖い思いさせて」
泣き付いて来たノラの抱きしめる。ノラの体はまだ震えており、本当に怖い思いをしたと無言で伝えてきていた。
俺はノラの頭を撫でながらミリアの方を見る。ミリアは相変わらずの無表情で俺達を見ている。
「ミリア、ありがとう。ミリアのおかげでノラを助けられた」
「いえ、私は奴隷です。ご主人様が望むことは、全てこなさなければなりません。……しかし、今回は私がしたいと思ったことなので、その、どういたしまして」
ミリアが軽く頬を赤く染め、俯きながらボソボソしゃべっている。無表情で無口キャラだったミリアが、照れている。可愛い。
「さて……」
俺はノラを離し、壁に埋まって気絶している男の元に歩き出そうとした。
「ユウト、待って!」
しかし、それはノアによって阻止された。
「その人、きっと悪い人じゃないと思うのですよ……だから、許してあげて?」
ノラの上目使い。効果はバツグンだ。ユウトは気絶……しかけた。
しょうがない。ノラのお願いだ。今回は見逃してやろう。
「だが、次同じことをやったら……」
俺は心の中で、自分の大切を自分一人で守れる強さを手に入れることを誓った。
その後、宿に男を担いで戻るとジーンとナタリアちゃんが出迎えてくれた。
ジーンにはノラを見つけた経緯と、この男が何をしたかについて話し、ノラを探すのを手伝ってくれたことへのお礼を言った。
ナタリアちゃんへは、ノラを心配してくれてありがとう、と言った。
こうして、ノラ家出事件は幕を閉じた。
いかがだったでしょうか。
私としては、やはりノラの視点がほしくなってしまいました。皆さんはそうは感じませんでしたか?
ということで、おまけとしてノラの気持ちとミリアの気持ちを書いたものを投稿したいと思います。
お楽しみに~。
ちなみに、ここで第1章は終了となります。
次章、日常。そちらも、お楽しみに~。




