10.5話
暗い。暗い部屋の中。
近藤純介は部屋の隅で、足と腕を投げ出して座っている。
「なぁ優人、俺は自分が持てる全てを出した、全身全霊を賭けた、世界を壊した」
純介は部屋の真ん中に置かれた人一人が入れるほどの棺桶のようなカプセルに語りかける。
「そのおかげでいろんなことがわかった。ラピスの真実、人類の進化、これから先に起こるであろう未来。人類の誰も知ることない事実を俺は知った」
その目に光はなく、顔に表情はない。
まるで廃人のような純介。
「でも俺が望んだ未来も、結果も、何もかも、叶いはしなかった……」
はは、と中身のない笑い声。
優人が眠ってからの六年。全てラピスの研究を続けた。全ては目的のため、純介が望んだことのため、全てを注ぎ込んだ。
しかし、今日この日、純介の六年間の全てが無駄となった。
「俺はそんなにも高望みしたのか? 俺が願ったことはそんなにも難しいことだったのか?」
純介にはわからない。何がいけなくて、何が間違っていて、何がダメだったのか。
「俺は天才なんかじゃない。自分の望み一つも叶えられない天才なんかいない」
唯一、純介がわかることは自分を天才だと勘違いしたことだ。
「もしお前が俺の傍にいてくれたらきっとうまく行ったんだろうな。俺にはできないことがお前にはできる。今ならそう思える」
純介は立ち上がり、カプセルに優しく触れた。
「俺が望んだものはすぐ近くにあるのに、会おうとすればいつでも会えるのに、でも未来にはないんだ」




