表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10月の桜  作者: 佐々木コジロー
第4章 活路
10/16

再会

20X3年7月1日 自宅


 大学の前期試験が近づいてきた。

 卒業に必要な単位はだいたい取得しているので、そこまで力を入れて準備する必要はなかったが、万が一を考えると油断もできなかった。

 試験の前は、いつもインターネットで情報を収集する。

 SNSだ。

 現実世界では交流がなくても、同じ趣味を持った人同士が意見交換できたり、現実に交流のある人同士がインターネット上で動画や本のレビューなどを交換、共有したりすることなどに利用されている。

 SNSはいくつも種類があるが、僕は日本で最もユーザの多いSNSに参加している。

 理由は単純だ。

 僕はこのSNSを情報収集のために使っている。見る専門、いわゆる「見る専」だ。だから、ユーザ数が多い方が情報の数が多い可能性も高く、利用価値があるということだ。

 特に、試験前になると、大学生はSNSを通じて各授業に関する情報交換などを盛んに行うようになる。

 試験対策情報の交換場所になっているのだ。

 あの授業の情報を書くので、この授業の情報が欲しいとか、そういった類のものだ。

 僕もこれを参考にさせてもらっている。

 別に真面目に授業に出ていないわけではない。むしろ、積極的に授業に参加している方だと自負している。

 とはいえ、試験に向けて情報が多いに越したことはない。

 教授の癖から、問題の傾向を分析して予想を立てたりする分析は、真面目に授業に取り組んでいる僕としてはあまりやらない対策だ。そういった情報がSNSには載っていたりする。

 このSNSでの情報収集については、大学に入学してすぐに先輩に教えてもらって知っていたが、最初はあまり当てにしていなかった。しかし、1年生の後期試験でかなりの的中率であることが判明したため、その後はずっとお世話になっているのだ。

 今回は特に、就職活動中に授業に出られなかった部分が分からなかったりするため、こういった情報が必要なのだ。

 そして何よりも、将来について考える時間を確保するためにも、試験にかける時間を短くしたいと考えていた。


 一方で、バイト先から就職の提案を受けたあの日から、また様々な職業を調べようと思い、就職活動をしていたときに使っていたコミュニティサイトを久々にのぞいていた。

 秋採用の情報が結構載っていた。

 サイト上で、僕宛にも結構案内が届いていた。

 就職活動用に使っていたメールアドレスにもかなりの会社情報が送信されており、大学院に行こうと決めたあの日からほとんど見ていなかったので、全て見るのには数日かかった。

 業界と会社名、職種を確認しながら興味を持った会社の詳細情報を見てみる。

 しかし、なかなか興味を持てる会社が見つからなかった。

 正確に言えば、どれも良いと思ったし、どれも決め手に欠ける感じだった。

 やはり自分のやりたいことが明確になっていないと、会社の良し悪しも判断できないということを再確認させられた。


 気がつくとまた小一時間ほど就職活動の情報収集をしていた。

 しかし、結局ここだという会社は見つからなかった。


 思考を大学の試験に切り替えてSNSで情報収集をすべくインターネットの画面を切り替えた。

 SNSにログインするのは久々だった。

 いつ以来だろうか。思い出せない。

 ログインすると、1通メッセージが届いていた。

 友達申請だ。

 SNSにて現実の友達を見つけたり、同じ趣味の人を見つけて交流したりしようと思ったらまずこの友達申請をする。その上で申請した相手が承認するとSNS上でも友達関係であることが確定し、相手の情報やブログが参照できるようになる。

 僕はインターネットだけのつながりというのがいまいちピンとこないので、基本的には現実の友達としかSNSでも友達関係を結んでいないが、3ヶ月に1回くらい知らない相手からの友達申請を受けることがある。相手が知らない人である場合は承認をしないでやり過ごすようにしている。

 ちなみに、通常SNSでは本名ではなく、そのSNS上での名前を名乗るので、知らない人かどうか判断することは難しいのだが、僕が使用しているSNSでは本名を名乗っている人も多く、僕自身も本名で登録している。所属の大学や出身高校も書いている人も多いので、たいていは相手が友達かどうか判断がつくのだ。それに、実際の友達から申請をもらう場合は直接会ったときやメールなどで友達申請したことを伝えてくれていたので、そもそもそういった判断が必要ないケースがほとんどなのだが。

 しかし、誰からだろうか……。

 相手は「トモ☆」という名前なのはすぐに分かったが、心当たりがなかった。

 やはり知らない相手だろうか。

 そのままやり過ごそうかと思ったのだが、友達申請に合わせてメッセージが届いていたので、確認することにした。

 メッセージが送られたのは5月の半ばだった。


 こんにちは。

 宮村友子です。

 昨日のグループワークでご一緒した沖田さんだと思って、申請しました。

 もし違ったらごめんなさい。

 この申請は拒否してください。

 もし合っているのであれば、情報交換とかもできると思うので、友達になりませんか?

 せっかくお茶したのに、良く考えたら携帯のアドレス交換していませんでしたし。

 良かったら、よろしくお願いします。


 2か月近く経過した申請だったが、僕にとってはあのグループワークがほぼ最後の就職活動だったので、覚えていた。

 「ポニー」だ。

 確か宮村とかいう名前だった気がする。

 しかし、まさかこんなに期間を置いて見られるとは思わなかっただろう。

 別に特に断る理由もないのだが、今さらながらに申請を承認するのも恥ずかしくて承認するのをやめよう思った。

 画面を切り替えて試験の情報を集めた。


 試験の情報を集めると、やはり勉強ははかどる。

 ヤマを張ってそこに集中した結果、ただ勉強量が少なくなっているだけとも言えるが、要領良くやるのも大事だと言い聞かせる。

 試験よりも大事なことがある。

 さっと風呂に入って、寝る前にもう一度就職活動のサイトを眺める。

 残念ながら、特に収穫はなかった。

 もう寝ようと思い、パソコンをシャットダウンしようとしたとき、ふと手が止まった。

 特にやり忘れたことがあったわけではないが、このままで良いのか?という疑問が頭をよぎった。

 結局春にやっていたときと同じように一人でインタネットから情報を集めようとして受けようとする企業も見つかっていない。

 7月は始まったばかりだが、この調子では1か月はあっという間に過ぎてしまうのではないだろうか。

 やり方を変えた方が良いのかもしれない。とはいえすぐに他のやり方が思いつくわけでもないので、このままやるしかない。いや、しかし……と思考がどうどう巡りする。

 就職活動がうまくいかないときもよくこういった思考に陥ったものだ。

 勢い良く仕切りなおしても結局同じだ。

 椅子にもたれかかり大きくため息をついた。

 数分ぼーっと天井を見上げていたが、ふと先ほどのポニーの申請メールを思い出した。

 「情報交換とかもできると思う」

 そう書いてあった。

 人に頼っても良いのではないか。

 これまでは僕は自分一人で就職活動をしていた。

 もちろんOB訪問などでは先輩に話も聞いたし、親には学費も含めて工面してもらっている。

 しかし、就職活動に関する情報収集や自己分析、志望会社の選択などは本や雑誌を読むことはあったが、基本的には自分自身で頭を抱えてやっていた。

 そうしなくてはいけないと思っていた。

 そういえば就職活動を始めたときは何人かから協力しないかと声をかけられたが、基本的にはみんな独力でやっているのだろうと思って敬遠していた。

 でも、それでは結果は出なかった。

 仕切りなおしても答えは出なかった。

 だったら、人の力を借りよう。

 会社の情報、魅力、入社したときの懸念など、人が調べたことを聞いてみよう。

 自己分析だって人から聞いても良いじゃないか。

 大学の勉強だってそうしているのに、なぜ就職活動ではやってこなかったのだろう。


 もう既に就職活動を終えている同期も多い。

 話を聞いてみても良いのではないだろうか。

 快く話してくれそうだ。

 何せ向こうは行き先が決まって余裕しゃくしゃくに決まっている。

 そう思ったが……。

 自慢話をされるかもしれない。

 僕のやり方を否定してくるかもしれない。

 やり方を押し付けてくるかもしれない。

 そもそもこいつ必死になるのが遅いんじゃないかとか思われないだろうか。

 そんなこんなで、身近な人には聞くのははばかられた。


 ポニーはグループワークでも頼りなかったし、どうせ協力してくれるなら髭男の方が頼りになる気もするが、髭男の連絡先も分からないので仕方ない。

 そうはいっても、逆にポニーも苦労しているだろうから、良い情報を持っているかもしれない。

 思い立ったら吉日だ。

 僕はもう一度SNSのにログインしてポニーの申請に対して承認をした。

 2か月遅れになった言い訳を冒頭に添えて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ