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Persephone -The WorldHeart Zero-  作者: 天神いなり
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Sign006 冥妃の園




零はグレネードランチャーに変形したペルセフォネを両手でキャッチすると、木の陰から飛び出した。

その瞬間、零の隠れていた木が横に真っ二つに切り裂かれる。ニャルラトホテプの触手の横薙ぎだ。

「確か、ニャルラトホテプは火に弱かったはずだな…」

零は腐葉土の上を転がりながら、狙いを定めて放った。

スポーン! という小気味のいい音を立てて、弾が飛び出す。

 弾は重力に従い、回転しながらニャルラトホテプの足元に着弾した。

「………ん?」

瞬間、弾は地面で回転し、一瞬で灰色の煙を一帯に撒き散らす。

「目隠し?」

首を傾げるニャルラトホテプを尻目に、零はとっとと退却した。

深い森の更に深くに進んでいく。

「多少は時間が稼げるか?」

「人間の姿でいるうちはね。本来の姿は目というか顔が無いし、多分無駄よ」

ペルセフォネの返事に零は小さく頷き、目的の場所を探す。




「……鬼ごっこってところかな」

ニャルラトホテプはゆっくりと三十秒数えてから移動を開始した。煙幕弾が煙を吐き出し終えてから、十秒ほど経った頃だ。

あの人間が何を考えているのか、そんなことには興味も無いくらいニャルラトホテプは余裕だった。

そもそも存在としての格が違う。相手に『旧神』の味方が付いているとはいえ、ここは夢の中。ホームグラウンドだ。

「しかし、そろそろ鬱陶しいね」

ニャルラトホテプは、体の表面を黒い絶縁質の肌に変化させ、空からの雷撃をシャットアウトする。

『千の貌』の異名を持つニャルラトホテプにとって、こんなことは朝飯前だ。

そして、雷撃を放っていた主の方向へ、威嚇にありったけの咆哮を飛ばす。

「じゃあ、追いかけようかな」

熱量、匂い、音の全てが零の位置を特定させる。『闇に吠えるもの』ニャルラトホテプ。その能力は常人には計り知れない。

そして、その方向へ遠く幾本もの触手を伸ばそうとしたとき、自らの胸元に赤い点が点るのが見えた。舞う土煙に合わせて、遠くからのレーザーがチラチラと見えたり、消えたりしている。

「自分の位置を教えてくれるなんて、鬼ごっこには飽きたのかな?まぁいいけど」

再び歩を進めるニャルラトホテプ、唐突に照らされる地面、光を感じて上を見上げると、一斉に空が輝いていた。

「あれは───。……噴射炎?」




その数十秒前、ペルセフォネは空に舞っていた。

ごく細かいパーツに分離し、そして体積を肥大化させていく。

その時、ニャルラトホテプが放った叫びが零たちにも届いた。

「ん……」

零は冷静に耳を押さえ、ペルセフォネの変形が完了する時を待つ。

やがて零の周囲には巨大なコンテナのような箱が大量に集まっていた。その数、約二十個。

零が捜していたのは、それの展開適うような広場。

コンテナは全て上部に蓋がついた特殊な形をしており、端から延びたコードが、零の手元のノートパソコンに収束している。

「零、準備オッケーよ!」

「ああ」

零は変形が完了すると共に、ノートパソコンに各種の情報を入力していく。

入力の完了と共に、ペルセフォネが変身したアサルトライフルを構えた。今度の下部アタッチメントは、グレネードランチャーではなく、ただのレーザーサイトだ。

零はACOGサイトを覗きながら赤い光線を900mほど離れた位置のニャルラトホテプに定めて当てる。そしてそれに反応してか、天に吠えるようにコンテナの蓋が開かれる。

「周辺情報、入力完了。目的をレーザー誘導」

コンテナに積まれているのは短SAMと呼ばれるタイプのよくイージス艦に積まれるミサイルの弾頭だ。

「ヘルファイアミサイル、ロック解除。ヘルストームフレシェットミサイル、トマホークミサイルロック解除」

鈍い音と共に、コンテナからミサイルの弾頭がせり上がる。

「アスロック、一番から四番まで順次解除し発射待機」

最後に残った四つのコンテナは底が変形し、底部を持ち上げて真横を向いた。

零は、躊躇せずFireキーを押した。

「無差別飽和攻撃、開始。…火の矢に焼かれろ、邪神」

零の言葉と同時に数多のミサイルが尾を引いて、前方の森へ向かって、飛翔した。

そして襲う壮絶な爆音と爆炎に、零はやや思案顔をした。

「夢の中だからといってやり過ぎたかも知れんな……ま、いいか。邪神のダメージ予想と、吹き飛ばされる先は、あの辺か」

零は爆心地から更に600mほど離れた辺りを見据えた。

「やるなら徹底的にと、教導官に教わっているからな。アスロックMk.112低出力核爆雷、全弾発射」

半径8kmにわたる巨大な森の三分の一が、零の攻撃によって焦土と化した。




Sign006 冥妃の園




「…やったか?」

零はペルセフォネを元の回転式拳銃に戻してから数本の木々を抜け、平地の如く変貌を遂げた火の粉舞う荒地へと足を踏み入れる。

クレーターがいくつもの層をなし、まるで流星群がそのまま降り注いだかのようだった。

「いえ、…まだのようね」

ペルセフォネの冷静な声と共に、零の右目が熱い痛みを取り戻した。

よく見ると、溶けた絶縁体を身に纏ったヒトガタが立ち上がろうとしていた。

零はすぐにペルセフォネを上に投げ、瞬間ペルセフォネが零の意思を汲み取りショットガンへと姿を変える。

 想像した銃は大字(デーウー)社のU.S.AS12。誰が何のために考えたのか、毎分360発のフルオート機能を有したショットガンだ。

「核爆雷の同時爆撃でも形を保っているとはな。流石にしぶといな…」

零はダッシュで2mの距離まで駆け寄り、腰溜めの体勢で引き金を引き続ける。

一発の威力だけでも人間が吹き飛ぶショットシェルを至近で二十連発だ。

ニャルラトホテプの体は見るも無残に砕け、零の右肩にもかなりの負担がかかる。

「む、ぁ……」

しかし、まだニャルラトホテプは死なない。絶縁体の体は黒く溶け、ショットガンの乱射を受け、マガリの面影などもう無いに等しかったのだが。

死なない、それどころか。

「…夢の中とは言え、流石は邪神ね」

すぐに人とわかるシルエットまで再生する。

しかし、シルエットのみだ。

体表は漆黒で筋肉質、両腕は無く触手が生えている。首からも太い触手の先のような奇妙に曲がった円錐のようなものが生えていた。

「真の姿って奴か?」

零はペルセフォネを戻して距離をとりながら冷静に呟いた。

「まだ人に近いサイズなだけ、ありがたく思わなきゃね」

零は先の広場は避け、まだ木々の残る樹林に退却する。

「ま、あなたのとはいえ夢の中だし、流石に分が悪いわね」

夢の中で人を発狂させるのはクトゥルフとハスターの専売特許だと思ってたけど。とペルセフォネはどうでもいいことのように告げた。

「とりあえず、ノーデンスとかヒュプノスあたりが来れば夢からは覚めるんだけど」

「そ……ッ!?」

零は殺気を察知して咄嗟に身を低くした。

真っ二つに折られる樹には目もくれず、たったか逃げ出す。零は騎士ではない、だから矜持(プライド)なんかよりは生命(ライフ)優先だ。 

「それ、なんだが」

「ん?」

零は100mを60kgの装備付きで十三秒弱で走り抜ける黄金の俊足で駆けながら右手の回転式拳銃に問う。

たまに触手が飛んでくるが気にしない。こういうもんは死ぬときは死ぬのだ。

「お前、ペルセフォネって名乗ったよな」

「ええ」

「で、ニャルラトホテプに敵対してるノーデンスに、ギリシャ神話の眠りの神ヒュプノス。この感じでいくとさっきの雷は」

「ゼウスだけど?」

やっぱりか、と零は思った。

「…冥府の神ハデスの妻のペルセフォネなのか? 本物の」

「うーん、あの根暗には三行半を叩きつけて出て来たんだけどね。まあそういうことになるのかしら」

「ギリシャの神が何でソビエトの地で日本人を助けてるんだ……。まあ、夢だしな」

零は納得して、再び木陰に息を潜めた。

「私達は『旧神』って呼ばれているわ」

ふと、ペルセフォネがそんなことを言い出す。

『旧神』というのは、ニャルラトホテプら邪神、主に『旧支配者(グレートオールドワン)』と呼ばれる者たちに対抗する地球由来の神だと、零は母の資料で知っていた。

「ま、ノーデンスの仲間ならそうなんだろうが…」

ノーデンスはその中でも有名な、ニャルラトホテプを倒すためなら人間に協力することもあるという、『旧神』だ。

ふんふんと零は頷きながら、ゆっくりと姿勢を起こす。

「さて、どうするかな」

零が呟いた刹那、少し大きな薄い金色の蜘蛛が手の甲に乗ってきた。上の枝から糸で降りてきたのだろう。

陸を這う蜘蛛というよりかは、脚の細く長い蜘蛛の巣を張るタイプの蜘蛛のようだ。

「あら、アリアドネじゃない」

不意にペルセフォネが声を上げた。

「知り合いか?」

零は怪訝な表情で手の甲の蜘蛛を見つめる。というかまともに人の姿をした奴は居ないのか? と。

「こんばんわ…。手伝いに……きたわ…」

「ええ、ありがとう。助かるわ」

零の同意も得ずにペルセフォネは返事をすると、アリアドネと呼ばれた蜘蛛は器用に零の体をよじ登って右の瞳に覆いかぶさり

「お邪魔…します…」

瞳の中に吸い込まれるように溶けて消えた。

「うおっ!?」

流石の零も目を覆う。来るであろう痛みに耐えようと零は声を出すが、いつまで経っても痛みはこない。

それどころか、慢性的な目の痛み、熱さが段々と和らいでいくようだ。

「ふふ……この眼…邪神に……反応してる…みたい……」

「ああ、中和してくれたのね。ナイスよ、アリアドネ」

「お安い御用…。ふふ、いいわね……若い…男の体って」

正直助かったと零は思う。実はずっと瞳の奥の燃えるような痛みで、戦闘に集中出来なかったのだ。…後半の言葉にはゾッとしたが。

「どうかしら? いけそう?」

「ああ、楽になった」

じゃあ、そろそろ反撃開始ね。そう、ペルセフォネは呟いた。



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