バーニング・レジーナ いま永遠の炎へと
(城が……、壊される!)
バーニング・レジーナは、城のゲートへと走った。
瞬きをしかけた目を鋭く突き刺す、黒い光。そして、耳を貫く爆発音。バーニング・レジーナはその異変のする方に、ひたすら走り続ける。
そして、バーニング・レジーナは城を出た。
そこで立ち止まった。
ゲートは粉々に壊され、門番はメサイヤが放ったと思われる黒い光で貫かれていた。
そして、バーニング・レジーナにゆっくりと近づき、薄笑いを浮かべるメサイヤの姿が、目に飛び込んだ。
「ほぅ……。まだ生きているとはな。バーニング・レジーナ」
「……いい加減にしなさいよ!」
バーニング・レジーナは、両手の拳を力強く握り、メサイヤを睨みつけた。炎を放つ前から、バーニング・レジーナの心は激しく燃え上がっていた。
だが、力強く叫ぶバーニング・レジーナを蹴散らすように、メサイヤは言葉を吐き捨てた。
「力の差を、いい加減認めたらどうだ?」
そんなの認めない!
ヘル・ブリザードは、私が……、私が打ち破る!
「バーニングファイヤー!」
バーニング・レジーナは、一歩引き下がると、右手をメサイヤに伸ばし、力強く叫んだ。そして、彼女の右手に灼熱の粒子たちが集い、それらが一気に燃え上がった。
宿敵メサイヤに挑む、熱く、激しい炎。バーニング・レジーナの勇気、そして怒り。
だが、その炎を前に、メサイヤは力強く言い放った。
「ヘル・ブリザード!」
メサイヤまで数メートルに迫っていたバーニング・レジーナの熱い炎は、三度メサイヤの放った白い光の前でその勢いを失いかけてしまう。極寒の世界を焼き尽くす前に、またしてもその熱が奪われ始めてしまった。
少しずつ、少しずつメサイヤから遠ざけられてしまう、バーニング・レジーナの炎。
バーニング・レジーナの目に、それがはっきりと見えた。
「これが、力の差というものだ……!」
メサイヤは、フレイ王国を背負う女勇者に笑う。
「バーニング・レジーナには、ヘル・ブリザードを焦がすだけの力などない!」
(くっ……!)
メサイヤの言い放ったその言葉とともに、ヘル・ブリザードがさらにその威力を強めていく。
熱い炎を放っているはずのバーニング・レジーナに、その炎に隙間でもあるかのように、冷たい風が流れ込む。
炎が、その形を失うのは、もはや時間の問題であるかのように、誰の目にも映った。
しかし、それでもバーニング・レジーナは、自らの炎を信じた。
(私の炎は……、フレイ王国そのものよ……!)
燃え上がるその炎の中にあるのは、のどかなフレイ王国の自然、そこに住む人々の笑顔。
絶対に守らなければならない、生命の炎。
この炎は消さない!……絶対に消さない!
その時、フリーの声がバーニング・レジーナの耳にかすかに届いた。
――あと少し君の炎が燃え続けてたら、たぶん僕が負けてた。
(その言葉、私は信じる!)
「ファイヤアアアア!」
バーニング・レジーナは、迫りくる極寒の世界に立ち向かうように、激しく叫んだ。バーニング・レジーナの勇ましき声で、氷の世界で消えかけていた炎が、再び激しく燃え上がった。
少しだけ勢いを取り戻した炎で、周囲が一気に熱くなる。その熱で、ヘル・ブリザードを数十センチだけ押し戻していく。
(私は、まだ負けない!)
その時、バーニング・レジーナに三度、限界が訪れようとしていた。
激しい炎を解き放ち続けることで、自然のうちに奪われていくバーニング・レジーナの体力。フレイ王国を救うために、これまで何度も強敵を退けたバーニング・レジーナの力をもってしても、その限界は必然的に訪れてしまう。
「ハァ……ッ!ハァ……ッ!」
気力だけで、何とかその姿を保っている炎。
あと少し燃え続けていれば勝てるはずが、そのあと少しがどれほどの時間になるか知らず、もはや孤独に燃え続けていた。
バーニング・レジーナの、そしてフレイ王国の完全敗北。
それは、もはや目に見えていた。
灼熱の炎を放つ女勇者に待ち受けるのは、メサイヤによって決めつけられた現実なのか。
その時、バーニング・レジーナにかすかな追い風が吹いた。
その追い風に乗って、次々と送られる言葉が、バーニング・レジーナの耳に届く。
「頑張れよ、フレイ王国の勇者!」
「バーニング・レジーナ!ほら!負けるな!」
「お前の力を、国じゅうのみんなが信じてるんだから!」
(フリーの声にも……、アイシアの声にも……、似てる……。みんながそう言ってるように……聞こえる!)
誰も、フレイ王国にとっての最悪の結末など、望んでいない。
これまで何度もそうしてきたように、バーニング・レジーナが右手から解き放つその炎で、強敵を焼き尽くす。
それが、フレイ王国に住む全ての人が抱いていた、バーニング・レジーナに対する、絶対の信頼。
(私は、信頼されている!アルメルトじゃなくて、フレイ王国を背負う勇者だと思われてるの!)
女勇者バーニング・レジーナは、はっきりとそう言い聞かせた。
「ファイヤアアアアアアーッ!」
バーニング・レジーナは、力ずくでそう叫んだ。その声に誘われるように、これまでにない勢いで炎が燃え上がる。
何か特別な力でも働いたかのように、バーニング・レジーナの体が軽くなり、苦しさを感じなくなっていく。
これまで何度も跳ね返されたヘル・ブリザードを、次々と焦がしていく灼熱の力。
バーニング・レジーナが、ついに発揮した、その本気の力。
宿敵メサイヤを、いま灼熱の炎が包み込む。
(これが、フレイ王国の意志よ……!)
ゴオオオオ!
バーニング・レジーナの解き放った炎が、メサイヤの体を次々と焦がしていく。そして、水色の髪が真っ黒に染まり、メサイヤはその場にうずくまった。
「そ……、そん……」
やがて、炎はメサイヤの全てを飲み込んでいった。
バーニング・レジーナは、メサイヤが崩れていく瞬間を、その目ではっきりと見た。
だが、それが二本足で立つバーニング・レジーナの、最後の姿だった。
その炎を右手に収めた瞬間、バーニング・レジーナの目に飛び込む世界が、突然真っ白になった。
(何……。何なの……)
バーニング・レジーナは、苦し紛れにその場に倒れ込む。バーニング・レジーナに備わっていた魔力は非常に高く、これまで全身の力を使い果たしても、立っていられないほど苦しくなることはなかった。
だが、今回は違う。何もかもが、突然消えていくような苦しみだ。
(……っ!)
バーニング・レジーナは、白く染まった世界の中で、不意に見覚えのある青年の姿を見つけた。
フリーだ。
破壊されてしまった城壁があった光景が、嘘であるかのような甘い世界が、そこにあった。
「限界を、越えてしまったようだね。バーニング・レジーナ」
「限界……」
「そう。君は、最後に限界を突き破ってしまった。……だから、もう君はその姿を、保てない」
嘘だと言って……。
私は……、バーニング・レジーナは、これで最後なの?
だが、フリーはバーニング・レジーナのその言葉に、ただにっこりと笑うだけだった。
「これで、分かると思うよ」
「えっ……」
フリーは、バーニング・レジーナに、ゆっくりと右手を差し出した。引き寄せられるように、バーニング・レジーナの右手も、ゆっくりとフリーに近づいていく。
そして、お互いの手が重なり合ったとき、バーニング・レジーナはフリーの手の感触を覚えた。
甘く、やわらかい感触だった。
(私も、精霊になってしまった……)
バーニング・レジーナは、深いため息をついた。
だが、そんなバーニング・レジーナを見て、フリーはゆっくりと言葉を返した。
「君が、勇者バーニング・レジーナであったことは、きっといつまでも語り継がれると思うよ」
ちょうどその時、力尽きたバーニング・レジーナを国王の側近が見つけ、泣き崩れる瞬間だった。
その知らせは、すぐにフレイ王国の隅々まで広まり、城のゲートの前にはバーニング・レジーナの死を悲しむ人々が次々と訪れ、人々の列は後が絶えなかった。
しかし、そのすぐ前で焼き尽くされたメサイヤの姿を見るうちに、誰もが悲しみなど忘れてしまった。
バーニング・レジーナの解き放った最後の力で、フレイ王国を守りきったのだと。
メサイヤという強敵に、二度も完全敗北を喫した、フレイ王国の勇者、バーニング・レジーナ。
だが、それでも立ち上がり続けた彼女は、メサイヤを倒す強大な力と引き換えに、自らの命を犠牲にした。
バーニング・レジーナにとって、三度目の完全敗北は、あまりにも残酷な結末だった。
しかし、それはフレイ王国の誰しもを勇気づけた、価値のある完全敗北だったことに、変わりはなかった。
フレイ王国に対する熱い想いを灼熱の炎に変える、女勇者バーニング・レジーナ。
その姿は、永遠に人々の心に刻まれる……。




