おっさんと、『自分のために張る意地』
「ギルロイ商会のやつら、狩りチームを全滅させる気だ……!!!」
その言葉に対するイサトさんの行動は早かった。
獣人たちを安くこき使うことで、利益をあげているはずのギルロイ商会が、大事な手駒である獣人を全滅させることに何の意味があるのか。
金の卵を産む鶏を今ここで殺したとして、何の得がある?
ついそんなことを考えてしまった俺の傍らをすり抜けて室内に足を踏み入れると、インベントリから取り出した謎の球体をどちゃーっとベッドの上にぶちまける。大きさとしてはピンポン玉をもう一回りほど大きくした程度、だろうか。色は単色だが、赤色のものと緑色のものと二種類ある。無造作にぶちまけられたそれらのうちの幾つかは、ころころとベッドから転がり落ちてしまっている。
「おっと」
俺は自分の足元にも転がってきたそれを、足で軽く踏むようにして止めた。
そんな俺にちらりと一瞥を投げかけて、イサトさんが一言。
「秋良青年、それ衝撃を加えると爆発するぞ」
「ぶ」
なんという危険物。
そろっと足を持ち上げて、足元にあったそれを拾いあげる。
「イサトさん、これ何?」
「ん? 使ったことないか?砲閃珠だよ」
「ああ、あの投擲用の?」
「そうそう」
砲閃珠。
今の会話からわかるとおり、前衛でがしがし敵とやりあう戦闘スタイルの俺には馴染が薄い、中距離攻撃用の使い捨て投擲武器である。その中でも、植物の種をベースに、生産スキルで生成するのが確か砲閃珠シリーズだったはずだ。
「……あ」
そうか、このためだったのか。
俺は今さらながら納得した。
以前、エリサとライザが俺たちへの恩返しのために何か出来ることはないか、と申し出てくれたことがあった。その時俺は、セントラリアの案内をしてくれればそれで十分だという話をしたのだが――…その後で二人がイサトさんにも同じ申し出をした時に、イサトさんは少し考えた後に、『それじゃあ、二人で植物の種を集めてくれないか?』なんて頼んでいたのだ。
その時はまた俺の『家』の庭に何か植える気か、としか思っていなかったのだが……なるほど、このためだったのか。ようやく合点がいった。
投擲武器というのは、他の武器と違って敵に与えるダメージ量が使用する人間のステータスに依存しない。ダメージ500と設定された投擲武器は、誰が使ってもどんな敵にでも必ずダメージを500与えるのだ。その分、高ダメージを叩き出す投擲武器ほど乱用を躊躇う程度には高額になるのだが……イサトさんなら材料さえ集めてしまえばある程度は自作が出来る。エリサやライザの戦力を強化する、という意味では、一番手っ取り早い方法だろう。
「ライザ、これを君に託す」
「ぼ、僕?」
「え?」
イサトさんの言葉に、ライザとエリサが二人して驚いたように声をあげる。
「今から私たちは狩りチームの方を助けに行くつもりだが、ギルロイ商会が動いたということは街に残った獣人側に対しても何らかの攻撃があるかもしれない。君はそれに備えて、私たちが行った後、他の獣人たちを集めて何とか凌いでほしい」
「……っ、お姉ちゃんは?」
「エリサには私たちの方についてきてもらおうと思ってる。私たちだけで助けに行ったところで、信用して貰えるかどうかわからないからな」
「…………」
エリサが一緒ではない、と聞いて、ライザが、少しだけ怯えたように息を呑む。
エリサはそんな弟の様子に、唇を噛んで迷うかのように瞳を揺らした。
両親を助けるために俺らと一緒に行くことを選ぶのが正解なのか、それとも、幼い弟の傍について共に戦いに備えるべきなのか。
「ライザ、もしオマエが……」
「……ううん」
躊躇いながらも口を開きかけたエリサに、ライザはゆっくりと首を横に振った。
まだ手は小さく震えてはいたものの、ライザはしっかりと両足を踏ん張ってエリサを見つめる。
「僕、やるよ。こっちは僕が頑張るから、お姉ちゃんはお母さんたちを助けに行ってあげて」
「…………わかった」
そう言い切るのに、ライザがどれだけの勇気を振り絞り、覚悟を決めたのかがわかるからこそ、それ以上はエリサも何も言えないようだった。そもそも、エリサもライザも『両親を助けたい』という想いは一緒なのだ。
ライザの覚悟を見届けたイサトさんは、続いて視線をレティシアへと流す。
「レティシア、君にはライザのサポートを頼みたい。君も、ギルロイ商会とは対立してる側の人間だ。街で何か動きがあった時には、いっしょくたに狙われる可能性も高い。それなら最初からライザたち獣人グループと一緒に行動していた方が良いと思うんだが、どうだろう?」
「わかりました。ライザさんも……構いませんか?」
「うん、よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
そう言って、二人はお互いに会釈しあう。
なんとなくだが、この二人はわりとウマが合いそうだ。
まだ出会って間もないこともあり、どこか少しぎこちなさもあるが、きっと何とかなるだろう。
「それじゃあ、このボールみたいなヤツの使い方を説明しよう。二人ともよく聞いておいてくれ。この緑色ものは砲閃珠粘といって、弾けるとべたべたした液体を撒き散らして敵の動きを止める。赤いのは砲閃珠絶だ。こっちは弾けると同時に当てた相手を一定の確率で気絶させることが出来る。緑で動きを止めて、赤で仕留めると思えばいい」
「緑で動きを止めて……赤で仕留める」
「万が一ギルロイ商会の方々が攻めてきたら……これで応戦すればいいんですね」
イサトさんの、いつもよりもやや低めの硬い声音で語られる説明に、二人は気圧されたかのように神妙な顏つきで耳を傾けている。
その様子を見つつ、俺はこそっとイサトさんの耳元に顔を寄せて聞いてみ
た。
「イサトさん、アレ威力はどうなの」
店売りの投擲武器はダメージが固定だが、プレイヤーが生成した場合そのプレイヤーの生産スキルのレベルに合わせて投擲武器の出来は変動する。正直イサトさんのレベルで生成した投擲武器なんていうのはかなり怖いものがあるわけなのだが。
「たぶん死なない」
「…………」
そうか。
「たぶん」か。
「ダメージよりもサブ効果の確率を上げるように調整したからな。粘だったらべたべた度UPだし、絶の方は気絶させる確率の方が上がってる」
「なるほど」
「まあ、ちょっとは威力も強化されちゃってるが――…、たぶん死なないとおもう。たぶん」
何故「たぶん」が二度ついたのか。
いまいち不安が残る。
が、今のところ使用を想定しているのはあくまで攻撃を受けた際の反撃として、というシチュエーションだ。万が一のことがあったとしても、自業自得で諦めてもらうしかないだろう。俺としても別に襲撃者の生死を心配しているわけではない。ただ……
「……直撃した瞬間人体が爆発四散とかしないよな?」
「さすがにそれはない」
良かった。
そんなことになったらレティシアやライザにトラウマが出来てしまうところだった。
「それじゃあ俺らも行くか」
「そうだな。ライザ、レティシア、後は任せた」
「うん!」
「はい……!」
そう言って俺は足早に部屋を出ようとして。
「どこに行くんだ、秋良」
そんな風にイサトさんに呼び止められた。
どこってそりゃあもちろん外に……、と思いつつ振り返った先、イサトさんは宿の出窓に足をかけ、半分身体を持ち上げた状態で俺を振り返っていた。片手にはすでに例の禍々しいスタッフが握られており、窓の外からはばさりばさりとグリフォンの羽ばたく音まで聞こえてきている。
「…………」
無言でUターン。
どうやらイサトさんは、もう人目を忍ぶ気もないらしい。
確かに緊急事態だし、後のことは後で考えることにしよう。
「イサトさん、落ちるなよ」
「ん」
イサトさんがグリフォンに乗り移るのを待って、俺もどっこらせ、と出窓に足をかける。かなり窮屈だが、そもそも人が出入りするための窓ではないので仕方がない。目測を誤ると頭をぶつけそうだ。
「よっと」
いつものようにイサトさんの背後を陣取り、グリフォンに跨って――…部屋の中から呆然と目を見開いてこちらを見つめるエリサへと手を差し出した。
「行こう、エリサ」
「っ……」
俺を見上げるエリサの瞳が、ほんの少しだけ不安の色に翳った。
俺に向かって伸ばされかけた手が、微かに躊躇するように震える。
その様子に、エリサが今試されていることがわかった。
エリサは、これまで「姉」であることを自分に強いてきた女の子だ。
留守がちな両親に代わって身体の弱い弟の面倒を見て、守ってきた。それが、エリサが自分に課した役割であり、仮面だ。その仮面をかぶることでエリサはある意味自分の弱い心――実際には年相応の子供の部分――を押し殺し、強くてしっかり者の頼りになる姉を演じていたのだ。
だが、エリサはもうすでに、俺たちになら素の自分を見せられることを知っている。そして、ライザとの別行動。これは、エリサにとっては大きいだろう。エリサが強い姉を演じていたのだとしたならば、その場合の観客はライザに他ならない。エリサはライザのためにその役を演じていたのだ。それなら、観客がいない舞台でエリサはどうする?
「オレ、は……」
迷うように小さく呟いて、エリサが俺を見上げる。
迷子の子供のようなその瞳をしっかりと見つめ返して、俺は言う。
「エリサが、決めていいぞ」
ライザのことは考えなくていい。
両親のことだって、エリサが行けないというのなら俺とイサトさんだけででも絶対に何とかしてやる。
だから、エリサが決めろ。
それが俺の素直な気持ちだった。
「来なくても良いぞ」とも「来てくれなきゃ困る」ともどっちも言ってあげることはしなかった。これまでエリサは、「姉としてしなければいけないこと」「姉としてした方が良いであろうこと」を意図的に選んでばかりきたのだ。それだってそうすると決めたのはエリサの意志には違いないだろうが……たまには難しかろうが我儘だって言わせたい。
それはきっと、エリサにとって楽なことではないはずだ。
自分のために自分の意志で決断するということは、時に誰かのために何かを決めることよりも難しい。
エリサが迷ったのは、ほんの少しの間だけだった。
ゆっくりと暗い紅の瞳が伏せられ、強い光を帯びて再び持ち上がる。
「行くに決まってんだろ!」
そう啖呵でも切るように言って、エリサは勢いよく俺の手を取った。
乗り移りやすいように軽く支えてやったその手は、微かに震えている。
けれど、それには気づかないふりをすることにした
エリサ本人が隠そうといているのなら、知らないふりをするのが武士の情けというものだ。俺もエリサも武士じゃないが。
俺とイサトさんの間に滑りこんだエリサの腰に緩く手を回して、固定する。
「エリサ、目的地は!」
「東だ! 狩りチームは黒の城に向かったって言ってた!」
「了解! いつもよりかっとばすから秋良、しっかり捕まえててくれ!」
「了解ッ!」
ぐ、っと手綱を強く握る。
いつもは俺に任される手綱だが、今回に限ってはイサトさんが握った余りの部分で身体を支えている、といった程度だ。それだけ、本気で飛ばす気なのだろう。
グリフォンが羽ばたき、窓辺を離れてみるみるうちに高度をあげ――…
「エリサ、よく決めたな」
高速移動に入る前に、俺はこっそりとエリサに耳打ちするように言った。
「……別にいつもと変わんねーよ、ただの意地だ」
そんな風に、エリサは照れたように言う。
だが、誰かのためでなく自分のために張った意地は、きっとエリサに良い変化をもたらすことだろう。実際、何かを吹っ切ったように、エリサの横顔は気持ちの良い清々しさに満ちている。
「行けッ!」
イサトさんの鋭い指示と同時に、頭部を低めに構えたグリフォンが、羽で空気を押しだすように羽ばたいて一気に加速した。俺は手綱を握る手にわずかに力を込める。バイクやその他地球上の乗り物ほど正直に風の影響やGを感じる、というわけではないが、それでもいつもよりもキツい。だというのに、対するイサトさんは、バランスを取るようグリフォンの背をしっかりと太腿で挟んで腰を浮かし、馬を駆るジョッキーのような姿勢で前のめりだ。まっすぐに前を見つめる金の瞳が爛々と楽しげに燃えていて、最初の頃のビビりようが嘘のようである。
……本当、スイッチ入ると強いよなぁ。
いつもはわりとへっぽこなのだが、非常時には本当頼りになる人なのだ。
普段からこうであって欲しい、と思わなくもないが、手間のかからないデキるイサトさんはそれはそれで物足りない、なんて思ってしまった俺は、たぶん相当毒されている。
「エリサ、大丈夫か?」
「…………」
「エリサ?」
反応がない。
まさか気絶したか、と慌てて覗きこめば、呆然と見開かれたエリサの瞳と目があった。俺と視線があったところで、エリサがはっと思い出したかのようにぱちぱちと数度瞬いた。
「大丈夫か?」
「…………なんつーか、オマエらって本当規格外だなって改めて思ってた」
「……主にイサトさんが、ってことにしておいてくれ」
イサトさんに比べたら、俺はまだ真っ当な方だと思う。
何故かエリサからは心底疑念に満ちた眼差しを向けられてしまったような気がするが、それは気にしないことにしておく。きっと気のせいだ。話題を変えるべく、エリサへと話を振る。
「それよりも、今のうちに俺たちが街にいない間に何があったのか教えて貰えるか?」
「……実は、狩りに出かけてるみんなから連絡があったんだ」
「連絡?」
俺は首を傾げる。
ゲーム時代においてはその他MMOと同じようにチャット機能が充実していたRFCであるが、そもそもゲームの機能としてチャットが備わっていたために、逆に遠くにいるキャラと会話をするためのアイテム、というのは俺の知る限りでは存在していない。ケータイに慣れっことなった現代人な俺たちにとっては、なかなかに痛い現実である。常々ケータイが普及する前の人間はどんな風に待ち合わせをしたり、連絡を取り合っていたのかと思いを巡らせたりしていたものだが、それを自らこんな形で体験することになるとは思ってもいなかった。
「狩りチームの方には鳥系獣人のデレクさんがいて、街にはその奥さんで同じく鳥系獣人のルーナさんが残ってるんだよ」
「…………む」
当たり前の理由であるかのようにエリサはそう言うが、それでどうして連絡が取れるのかが謎だ。鳥系の獣人、というのはRFC時代にはキャラメイクの選択肢として存在しなかったので、どういった種族特徴を持つのかが俺にはわからない。ちらりと前方のイサトさんの様子を窺ってみるが、イサトさんの後ろ頭も微妙に傾いでいる。俺たちの頭上からクエスチョンマークが消えていないことを察したらしく、エリサが改めて説明を追加してくれた。
「鳥系の獣人は、戦闘向きじゃなない代わりに眷属である鳥を使って連絡を取り合うことが出来るんだよ。と言っても誰にでも伝えられるってわけじゃねーけど。普段は連絡係としてギルロイ商会の連中のところにいるんだけど、内容が内容だったからって連中の目を盗んで知らせに来てくれたんだ」
「……なるほど」
同族の、繋がりが深い相手にのみメッセージを飛ばすことが出来る、ということなのだろう。それを利用して、ギルロイ商会は狩りチームと連絡を取り合っていたらしい。
「で、あっちからはなんて?」
「……今から、黒の城に行くことになった、って」
「黒の城、か」
思わず眉間に皺が寄った。
RFCの世界においては、人間の暮らす場所から離れれば離れるほど強いモンスターに遭遇しやすくなる、という傾向がある。当然ゲームとして考えた時には、初心者も多い街付近にやたら強力なモンスターがいても困る、というゲームデザイン的な理由もあるのだろうが、RFCという一つの創作世界として見た場合でも同様だ。それには、RFCにおけるモンスターの設定が関係してきている。
RFCのモンスターは、女神の余剰な力が澱んだ結果生まれてくる、ということになっている。そして、生まれたモンスターは少しずつ女神の余剰な力を溜めこみ、強力なモンスターへと育っていく。が、人間の生活圏で誕生した場合、少しでも危険だと認知されると、その段階で討伐対象に認定されてしまうのである。そうなると、当然なかなか強力なモンスターは育たない。それ故に、大きな街の周辺にはそれほど強くない、危険度の低いモンスターばかりが徘徊することになるのである。その一方で、ドラゴンやら何やら世間一般的に高レベルだと言われる強力なモンスターほど人里離れたダンジョンの奥などに潜んでいることが多い。
エリサが口にした、黒の城もそんな強力なモンスターが潜むダンジョンの一つである。
見た目はヨーロッパ辺りにありそうな、鋭い尖塔も洒落たゴシックデザインの城なのだが……その実態は立派なダンジョンMAPだ。その敷地内は昼でもなお薄暗く闇に包まれ、ゾンビやらヴァンパイアやら闇属性のアンデッドどもがうようよと蠢いている。見た目がダンジョンダンジョンしていないのと、比較的街道沿いにあることもあって、わりと初見殺しのエリアだと話題に事欠かなかった。街道での狩りにも困らなくなってきたし、ちょっと背伸びして狩場を変えてみるか、なんて思って迷い込んだプレイヤーを容赦なく死に戻りさせてくれる。
なんせ、セントラリアから各都市への街道沿いに出てくるモンスターのレベルが平均12~15前後であるのに対し、黒の城に出てくるモンスターの平均レベルは40~50という跳ねあがり具合である。城の中にいるボスモンスターに至っては、単独で狩るなら60~70は欲しいところだ。
ちなみに、この黒の城こそが、以前より俺とイサトさんの会話に登場していた『アンデッド城』の正式名称だったりする。
「エリサ、あの辺りのモンスターを、君たちの御両親達は狩れるのか?」
「……狩れないこともない、とは思う。でも……」
エリサはそこで言葉を切って視線を伏せる。
「ギルロイ商会の連中、勘違いしてんだと思う」
「勘違い?」
「前に一度、父さんと母さんはライザの薬代のために、黒の城で手に入れた女神の恵みをギルロイ商会に売ったことがあるんだよ。だからきっと、連中は父さんたちが黒の城でも狩りが出来るって思ってる」
「実際のところはどうなんだ?」
「難しい、と思う。父さんと母さん、その時は二人がかりで一匹ずつMAPの外におびきだして倒したって言ってたから」
「あー……」
エリサの言葉に思わず視線が遠のいた。
それはどうにもよろしくない。
狩場の適正レベルというのは、そこにいるモンスターを倒せるかどうか、だけで決まるわけではないのだ。例え適正レベルに達していなかったとしても、モンスターを倒すだけならある程度何とかなることも多い。だが、狩りというのは経験値が狙いにしてもアイテム狙いにしても、連続して大量に狩らなければ美味しくない。命からがら一匹ずつ時間をかけて撃破しても、効率が悪いだけなのだ。それに、効率の問題だけでなく、危険度だって高くつく。モンスターは必ずしも一匹ずつ襲ってくるとは限らない。1対1、2対1では倒せるモンスターであっても、そいつらに囲まれてしまえば詰む、ということだってありうる。ゲームの中であれば、せいぜい死んでもデスペナルティを喰らうだけで済むが、こちらではそうもいかない。死ねばそこで終りだ。
それがわかっているからこそ、普通ならば慎重になるところなのだろうが……ギルロイ商会の連中の場合、賭けているのは自らの命ではない。それに、一度、黒の城で手に入れた女神の恵みを売ったことがある、というのもまずかった。それでは、エリサの両親が何を言ったとしても、連中はサボる口実としかみなさないだろう。
「狩りに参加してる他の人達はどれくらい戦えるんだ?」
「……同じぐらいか、父さんや母さんより少し弱い、ぐらいだと思う」
「そうか。ますます急いだ方が良さそうだな」
「そうみたいだ」
俺の言葉に、しばらく聞き専に回っていたイサトさんも小さく頷く。
飛ぶ。
闇を切り裂くように、力強い羽ばたきを響かせグリフォンが空を翔ける。
――果たして、間に合うか。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
Pt、感想、お気に入り登録、励みになっております。
先週発売された『おっさんがびじょ。1』の方も、無事好調なようで、作者としても嬉しい限りです。
これからもよろしくお願い致します。




