表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/70

おっさんがテロリスト

「作戦その1:謎のテロリスト」

「詳細は?」

「深夜にいきなり攻撃魔法を叩きこんで吹っ飛ばす」

「却下」

「作戦その2:謎のテロリストもうちょっと進化版」

「詳細は?」

「変装して深夜にいきなり攻撃魔法を叩きこんで吹っ飛ばす」

「なんで却下されないと思ったんだ」

「変装したらまだ良いかなと思って」

「良くねえよ」


 イサトさんが真顔で語るギルロイ商会ぶっ潰す(物理)作戦を片っ端から却下しつつ、俺は小さく溜息をついた。

 ちなみに作戦は他にも「謎の魔獣の襲撃編」「泣いた赤鬼編」があったが、どれも基本は物理的に潰すという結果の部分に変わりはなかったので、やっぱり却下した。

 ……なんでこんな時だけこの(おっさん)は過激なのか。


 やはり個人的にブラック会社に恨みがあるからなのだろうか。

 エリサとライザは、イサトさんが冗談を言ってるのだと思っているのか、楽しそうに「そうしてやれたらいいのにな」なんて相槌を打っている。


 が。

 いいか子供たち。


 そこでのんびりと危険極まりない作戦をたてている赤ずきんモドキは今口にした作戦をノリと勢いだけで実行することが出来るだけの実力を兼ね備えた危険人物だからな。


 すでに飛空艇墜としという前科があるぐらいだ。

 ここで俺まで「良いな」なんてのーてんきな返事をしてしまったら、間違いなくこの人は実行する。

 人的被害は出さない程度に気を使いつつ、ドカンと一発派手にぶちかますだろう。飛空艇を落としたせいで、大量破壊の快感に目覚めたとかそんな厄介な性癖に目覚めていないことを祈る。


「…………」


 俺は半眼でイサトさんを見つめた。

 イサトさんは俺の視線に気づきつつも、しれっと微笑んでいる。

 唇の端だけがくっと上がった、いわゆるアルカイックスマイルだ。

 くそう、楽しそうにしやがって。


「……俺のことは、止めた癖に」


 ぼそりと呟く。

 目の前でアーミットが斬られた時、相手の男を殺そうとした俺を止めたのはイサトさんだ。そのイサトさんが、今はテロリストに進化しようとしている。

 俺だって、手っ取り早くムカつく連中に私刑を下してしまえばすっきりするとは思っている。だが、そこまで無責任なことをしてはさすがにまずいだろう、と一生懸命自制しているのだ。

 だというのに、この(おっさん)ときたらやたらと俺を煽って愉しんでいる。

 拗ねた響きでぼやいた俺に、イサトさんがくくりと喉を鳴らして笑った。

 明るい琥珀色の瞳が、悪戯っぽく煌めく。


「だから、私のことは君が止めてくれるだろう?」

「…………………それはズルくないか」


 ズルいだろう。

 そんな風に言われてしまったら、ツッコミを放棄出来なくなる。

 俺のツッコミをアテにするんじゃない、なんて言えなくなる。

 ぐむ、と口をへの字にした俺を見て、イサトさんはにんまりと満腹の猫のような顏で笑った。


「私ばかりが君のストッパーになるのはどうかと思いまして」

「それを言うなら、俺ばかりにツッコミをさせるのもどうかと思うぞ」


 コノヤロウ。

 喰えない大人が、未熟な青少年を手玉にとりやがって。


「まあ、実際のところギルロイ商会を潰してもそれで終わりってわけには行かないだろうしなあ。どうせすぐに次が出る」

「だろうな」


 俺の拗ねた視線に、くつくつと楽しそうに笑いつつも、イサトさんはようやくまともな作戦会議をしてくれる気になったようだった。

 俺はイサトさんの言葉に同意して、うーむ、と唸る。


 エリサの話によれば、「獣人は定価でのみ女神の恵みを売ることが出来る」というのは、セントラリアで正式に定められたルールだ。そのルール自体は、女神の恵みを手に入れることが出来なくなった人間と、女神の恵みを手に入れることが出来るそれ以外の種族との均衡を守るために必要なルールだろう。

 

 問題は、そのルールを元にギルロイ商会が低価格で獣人から女神の恵みを買い叩き、本来強者になりうるはずだった獣人たちを酷使するシステムを成立させてしまったことにある。

 

 獣人は本来ならば「生物としての強さ」で言うのならば、人間よりもよほど恵まれている。動物の要素は外見だけでなく、身体的な能力としても受け継がれているのだ。例えばエリサなら、猫系の獣人なので人間よりも身軽だし、夜目に優れていることだろう。また、それだけではなく、基本的に獣人というだけで人間よりも身体能力が強化されている。その分魔法を扱う才能には欠けるが、身体能力だけでも人間種に対する十分なアドバンテージとなりうる。

 

「……獣人が『女神の恵み』を独占できちゃったのは正直人間にとっては相当な脅威だよな」

「現状は窮鼠猫を噛む、といったところなんだろうが……」

「問題は鼠が思ってるほど猫も強くない、というところだろうな」


 現在セントラリアがおかしくなっている諸悪の根源は、確かに獣人を良いようにこきつかっているギルロイ商会だろう。だが、一番良くないのはそれを容認してしまっているセントラリア全体の空気だ。何が良くないって、彼らに悪意があるわけではない、というところだ。悪意故の攻撃じゃないだけに、タチが悪い。

 

 本当、イサトさんの言うとおり、彼らは猫に追い詰められた鼠のように怯えているだけなのだ。

 

 自分たちが何とか優位に立っていなければ安心できないのだ。彼らを追い詰める猫など、実際には存在しないというのに。ギルロイ商会は、人々のそんな不安を煽ることで、セントラリアでの実権を握ることに成功したのだ。鼠を追い詰めるいもしない猫の幻を生み出してしまった。


「いっそ猫が実際それぐらい強かったら良かったんだけどな」

「強い猫ならとっくにセントラリアを見放してるだろう」

「ああ……そういうことか」


 エリサが言っていた。

 ギルロイ商会のやり方に不満を持った多くの獣人がセントラリアを後にしたのだと。


「今セントラリアに残っているのは、人間社会から弾かれることを恐れる程度には弱い獣人だ」

「……弱くねーし」


 イサトさんの言葉に、むっと眉を寄せ、唇をとがらせて口を挟んだのはエリサだった。ここまでおとなしく聞き役に徹していたものの、さすがに「弱い」発言は聞き流せなかったらしい。

 イサトさんが、可愛いなあ、と言わんばかりに目を細めて、エリサの頭をくしゃくしゃと撫でた。


「弱いことは悪いことじゃあないよ」

「……でも、強い方がいいだろ。実際、オレたちだって弱いからこんな目にあうんだ」


 エリサの言葉に、イサトさんが小さく笑った。


「エリサ、君、今すごく矛盾したことを言ったのに気付いているか?」

「え?」

「私が今セントラリアに残っている獣人は弱い、と言ったときに、君は『弱くない』と否定した」

「うん」

「でも、続けて私が弱いことは悪くはない、と言ったら、今度は『弱いからこんな目にあう』と言った」

「あ……」


 自分が口に出したちぐはぐな言葉に、エリサはかっと頬を染めて恥ずかしそうに視線を伏せる。先生に過ちを指摘された生徒のような仕草と表情に、俺の頬まで緩みそうになった。微笑ましい。


「でも、エリサの言ったことは間違いじゃない」

「……?」

「どういうことなの?」


 エリサとライザが不思議そうに顔を見合わせる。

 俺とイサトさんの話は、二人には少し難しかったらしい。

 というか、俺とイサトさんがお互いに相手に知識があることを前提に、説明を省略しまくった会話をしていたのが悪い。


「んー……例えばだけど、ドラゴンが君んちの隣に越してきたらどう思う?」

「は?」

「ド、ドラゴン……?」

「そう、ドラゴン」

「滅茶苦茶強くてでっかいドラゴンな。ただし、言葉が喋れるし、お前たちを襲う気配もない。ただ、隣で暮らしたいって言ってる」


 俺がそう付け足すと、エリサとライザも困ったように眉根を寄せた。

 上手くイメージ出来ないのだろう。

 ドラゴン、と言えば二人にとっては「恐ろしいモンスター」の代名詞のようなものだろう。

 

「ドラゴンは、ちゃんとセントラリアのルールに従って生きてる。決まった日にゴミを出すし、暴れたりもしない」


 決まった日にゴミを出す、という俺の言葉に、そんなドラゴンの姿を想像してしまったのかエリサとライザが小さくくすくすと笑った。

 

「それどころか、爪が伸びたら切ったドラゴンの爪をくれるかもしれない。鱗が生え変わったら、古い鱗は素材としてくれるかもしれない」

「すげーな、それ」


 エリサの目がきらきらと輝く。

 本来であれば、ドラゴンを倒さなければ手に入らないドラゴン素材が、ドラゴンを街に受け入れるだけでドラゴンの方から進んで提供して貰えるのだ。

 それはきっと、街の発展にとって大きな利益になる。


「うーん……それならいいんじゃねー?」

「じゃあ、そんなドラゴンが奥さんも呼びたいって言ったらどうする?」

「奥さん? いいんじゃね?」

「じゃあ子供が生まれたら?」

「別に……それに何の問題があるの?」

「ドラゴンは、君らの街で増えていくぞ?」


 ほっそりと、少しだけ意地悪な笑みを含んでイサトさんの目が細くなった。


「ドラゴンが増える……」

「一応数としては、君たちの方が多い。でも、ドラゴンが少しずつ増え始めるんだ」

「…………」


 しばらく黙ったまま考えていたライザが、小声でぽつりと呟いた。


「それはちょっと……怖い、かもしれない」

「何が、怖い?」


 イサトさんは、簡単に答えを言うのではなく、二人に自分で答えを見つけられるように問いを重ねていく。


「だって、ドラゴンが増えるんでしょ? それって……なんか、怖いよ」

「もうちょっと考えてみてごらん。『何』が怖いんだろう?」

「うーん……なん、だろう。なんか、こう、怖いんだ」


 喉元までこみ上げた感情を、どう言葉にしたらいいのかわからない、と言った風にライザは「怖い」という言葉を繰り返す。

 そんな弟を見つめていたエリサが、ぽつりと目を伏せたまま口を開いた。


「…………乗っ取られるような、気がするのかもしれねー」

「あ……」


 エリサの言葉に、ライザも納得がいった、というように小さく声をあげる。


「ドラゴンが増えて……もしそこでドラゴンが街で好き勝手するようになったら、オレらって抵抗できないんじゃねーかな」

「確かに……もともと僕たちが戦って勝てる相手じゃないもん」

「そんなドラゴンが街に住むようになって、好き勝手するようになったら……」

「みんな、食べられちゃうよ」

「街が、ドラゴンの餌箱みたいになっちまう」


 少しずつ、エリサとライザは「何が」怖いのかを言葉にしていく。


「それじゃあ、怖くないようにするにはどうしたらいいと思う?」

「ドラゴンを最初から街に入れないとか……」

「でも、ドラゴン相手にそんなこと言えないよ。駄目、と言った瞬間に食べられちゃうかも」


 うーんうーん、と二人は悩む。

 俺は、ヒントを出してやることにした。


「ドラゴンがそんなにも街に住みたいって言うなら、条件を出してやればいいんじゃないか?」

「条件? 人間を食べちゃ駄目、とか?」

「そうだなあ、でもそれは街にもともとある『人を殺してはいけない』っていうルールと同じことだろう?」

「そっか。それにドラゴンは街のルールには従って生活してるんだよね?」

「ああ、そうだな」

「ドラゴンが街のルールに従って生きるって言うなら……ドラゴンが好き勝手出来ないようなルールをたくさん作ればいいんじゃねー?」

「街では剣を抜いちゃ駄目って決まりがあるんだから……それと同じぐらい鋭いドラゴンの爪や牙も街中では見せちゃ駄目、とか?」

「ブレスも危険だし、それならもう街中ではドラゴンは口を大きく開くの禁止、にすりゃいいんじゃねーか?」

「うん、大きなドラゴン用の口が開けなくなるようなマスクを用意して、ドラゴンは街にいる限りそれを着けてもらえばいいんだよ。そしたら、悪いドラゴンが出てきても、マスクをつけてたら簡単には暴れられないし、マスクをつけてないドラゴンがいたら逃げればいいもん」

「でも――」


 俺はそこで口を挟むと、エリサやライザへと視線をやった。


「そうなると街の中でドラゴンは話せなくなっちゃうな」

「あ……」

「…………」


 イサトさんも、言葉を続けた。


「きっと、今私たちがしてたように、美味しいものを屋台で食べ歩くことも出来ないな」

「…………」

「……っ」


 俺たちの口調から責められていると感じたのか、きっとエリサが顔をあげた。


「それなら……っ、街のルールに従えねーなら、街から出ていけばいいじゃねーかっ!」

「あ……っ」


 自棄になったようなエリサの言葉に、はっとしたようにライザが瞬く。

 そして、しょんぼりと耳と尻尾を垂らして、エリサの言葉に静かに頭を横に振った。


「駄目だよ、お姉ちゃん」

「ライザ……?」

「それじゃあ、駄目だよ」

「なんでだよ」

「だって、それじゃあセントラリアの人たちと同じだもん」

「あ……」


 ライザの言葉に、エリサははっと驚いたように息を呑んで――…それからがっくりと肩を落とした。


「なんか……イサトが言ってた意味がわかったような気がする」

「うん……僕たち獣人は、人間より強い」

「だから、人間は僕たちが怖いんだ」

「怖いから、なんとか押さえつけようとしてんだな」

「そして、僕たちは街の中での力が弱いから、そんな人間たちに何も言えないままこうなっちゃったんだ」

「そういうことだ。人は、弱い生き物だ。弱いからこそ、『社会』というシステムを構築して、群れで生きる。セントラリアに残らなければいけなかった君たちも、その『社会』というシステムを必要としているだろう?」

「……うん」


 例えばそれは病気になったら医者がいて。

 お腹が空いたら自分で作らずとも食堂や屋台で食べ物を買うことが出来て。

 欲しいものがあったら自分で作らずとも、お金で買うことが出来る。

 そういうものだ。

 

 ドラゴンが街に棲まないのは、ドラゴンが街のシステムを、『人間の作り上げた社会』というシステムを必要としていないからだ。

 だからドラゴンには人の生活を、「社会」を気遣う必要がない。


 そして、俺たちもそうだ。

 

 俺たちが「わるもの」と称して好き勝手なことが出来るのは、俺たちにとってこの世界の「社会」がそれほど大きな意味を持たないからだ。この世界における俺とイサトさんの存在はとても特異で、俺たちは俺たちだけで完結して生きていくことが出来る。


「君たち獣人は、もともと人間よりも強い種だ。そこでさらに、君たちだけが今となっては『女神の恵み』を手に入れられるようになってしまった。人間としては……とても怖いと思わないか?」

「……うん」

「それじゃあ、どうしたらいいんだ? オレ達は、セントラリアから出て行くしかねーのか?」

「そこが難しいな」


 ふむ、と俺とイサトさんは腕を組んで首をかしげる。


「さっきの例え話に戻ると――…、街に住むドラゴンは爪や鱗、ドラゴン素材を街に提供することになっていただろう?」

「うん」

「もしも、その素材を使って街が栄えていたらどうする?」

「この街にきたら、ドラゴン素材が安く手に入る、なんて宣伝出来たら、きっと街は有名になるだろうな」

「それなら……ドラゴンがいなくなったら、街の人も困るんじゃない?」

「そう、困るだろうな」


 セントラリアだって、同じだ。

 獣人がいなくなってしまえば、セントラリアは「女神の恵み」を手に入れる術を失うことになる。

 

 「女神の恵み」を失ったからといって、セントラリアが即駄目になる、とまではいかなくとも、今まで得ていた利益の損失は大きな痛手となるだろう。特に、その利権を独占していたギルロイ商会にとっては壊滅的な損害となるはずだ。


「なんか……おかしくない?」

「おかしいだろ。いなくなられたら困るのに、嫌がらせみてーなことばっかりして、それが受け入れられないなら出ていけばいい、なんて」

「ああ、おかしいな」


 大きな矛盾が発生している。

 でも、エリサやライザは知っているはずだ。

 そんな大きな矛盾を抱えたまま、セントラリアの街が何年も、下手したら何十年もそれが当たり前のように機能してきたことを。

 

「人間はずるいからな。お前らが、セントラリアを出ていけないことを知ってるんだよ。お前らがセントラリアを必要としてることを、知ってるんだ」

「……それなら、なんで人は僕たちのことを怖がるんだろう。必要としてるものを、壊したりするわけないのに」

「壊したりはしねーかもしれねーけどよ。もしかしたら、逆の未来もあったかもしれねーだろ」

「逆?」


 エリサの言葉にライザが首を傾げる。


「たとえば、『女神の恵み』を手に入れることが出来るオレらが威張りまくって、人間を奴隷みたいに扱う未来だ」

「そんなこと、僕たちはしないよっ」

「ああ、しなかった。だからこうなったんだろ」

「…………」


 ライザはしょんぼりと項垂れて、テーブルを見つめる。

 そして、腿の上で小さく震える手をぎゅっと握り固めると、きっと顔をあげた。


「僕は、嫌だ」


 頑是ない子供の我儘のように、ライザは言う。


「僕はそんなの、嫌だ」

「ライザ……」

「どっちかがどっちかに酷いことをしないと一緒に暮らせないなんて、そんなのおかしいし、僕は嫌だ」


 悔しそうに、唸るようにライザは繰り返す。

 いろいろな大人の思惑が絡みあい、利権を奪い合う中において、それは子供の他愛のない戯言かもしれない。


 けれど俺にはそれがとても尊いように思えた。


 ライザの立場であれば、逆転を願ったとしてもおかしくないのだから。

 そっと手を伸ばして、くしゃくしゃとライザの頭を撫でる。


「なあ、さっき、お前らは『難しい』って言っただろ?」

「ああ」

「オレたちがセントラリアから出ていかなくてもいいような方法が、例え難しくても何かあんのか?」

「あることには、ある。私がさっきから提案しているような簡単な方法じゃあないけどな」

「テロ行為は自重してください」


 ヘルター・スケルター(人種間闘争)でも起こす気なのか、この人は。


 俺のツッコミにくつくつと喉を鳴らしながら、イサトさんは言葉を続ける。


「君たちは、人間の『社会』を必要としている」

「うん」

「人間は、君たちしか手に入れられない『女神の恵み』を必要としている」

「ああ」

「それなら、取引が出来るはずだと思わないか?」

「取引……」

「お互いに対等な立場で、堂々と取引をしたら良い。お互いの条件がかみ合わなければ、交渉するんだ」


 人間は「女神の恵み」がなくなると、困る。

 獣人は人間社会から弾かれてしまうと、困る。


「もしセントラリアの人間側が折れないのであれば、取引の相手を変えればいい」

「取引の、相手?」

「セントラリアから逃げた獣人は、皆他の街に行ったんだろ? 『女神の恵み』を必要にしている人間はセントラリアにしかいないわけじゃない。どこの街でも、『女神の恵み』は必要なはずだ」

「君たちに必要なのは、セントラリアの人間と交渉するだけの組織と――…、その交渉のノウハウだろうな」

「まあ、それで交渉決裂、ってな具合なら、その時はセントラリアを見放しちまえ」


 しれっとそそのかしておく。

 ギルロイ商会の連中がしているのは、そういうことだ。

 目先の欲に釣られて、自分たちの首を絞めている。

 俺たちの言った言葉の意味をかみしめるように、必死に考えているエリサとライザを眺めつつ、俺はちらり、とイサトさんに視線を流す。


「俺たちに、出来ると思うか?」


 獣人と、人間とが対等に交渉できるテーブルを、用意することが出来るだろうか。


「少なくとも、その手伝いは出来るだろうな。ただ、気を付けないといけないのは――…私たち抜きでは成立しないようなのは駄目だ」

「それは確かに」


 俺たちはこの世界における特異点だ。

 いつまでもいるわけではないし、いるつもりもない。

 そんな俺たちに依存した関係では、遅かれ早かれ破綻する。


 さて。

 やるべきことは大体わかってきたわけだが。

 どこから手をつけようか。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

Pt、感想、お気に入り、励みになっております。


こちら(http://ncode.syosetu.com/n5827cj/)にて、本編とは関係ない季節ネタ、今回はハロウィンをしたりもしています。

御隙な時にでもどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ